戦後日本の地方自治制度では二元代表制が採用され、首長と議員のそれぞれが住民の直接選挙で選ばれ、首長の執行機関と議会によって地方自治が担われていいます。制度上、両者は対等の立場であり、競い合いながら、地方政治がおこなわれてはいるが、実際は首長の執行機関が優位な立場にあり、多くの自治体で、議会と首長は衝突することなく、穏やかな協調路線をたどっていいます。これにより、

議会は脇役的な存在ともいわれ、その必要性が問われてきました。


【首長に専属する権限】

「地方自治法の定めにより、地方自治体における予算の編成、調製、提案、執行は、首長に専属する権限であり、議会側には認められていない。相互の抑制と均衡が機能する二元代表制の下でも、首長に強い権限が与えられている」これは私が執筆した修士論文からの引用です。残念ながら議決機関である議会には、予算の編成、調製、提案、執行これらの権限は与えられていません。さらに論文では「首長が予算編成権、議案提出権、再議権を持ち、議会は、当該予算の趣旨を損なうような増額修正はできない制度である」このように論じており、仮に予算を増額した修正案が議会で可決したとしても首長は執行する義務を追わないことを説明しています。


添付1:山本執筆の修士論文


【修正議案の提出】

奈良県議会と奈良市議会は、それぞれ知事・市長のの原案に「No!」の判断をしましたが、修正案提出の対応は異なりました。


【予算案否決ー奈良県議会】

19日に開催された奈良県議会予算審査特別委員会では、賛成多数で令和6年度予算が否決されました。採決前の討論で、自民党・無所属の会より、新年度予算に反対の意思表明と修正案提出の意向が伝えられましたが、予算審査特別委員会に修正案は提出されませんでした。


【予算案否決ー奈良市議会】

22日に開催された奈良市議会予算決算委員会では、公明党・自民党・新世の会・日本維新の会4会派共同で10項目約3億3,000万円を減額する修正案が提出され、採決では共産党と無所属の一部及び自民系の1人を含む30人が賛成し可決しました。賛成多数で令和6年度予算が否決されました。


【修正案提出にタイミング】

先にのべたように、奈良県議会・奈良市議会ともに首長提出の新年度予算案原案に議会が「No!」の判断をくだしました。ただ修正案を提出するタイミングには判断が分かれました。奈良県議会は予算委員会では原案に反対し、25日に再会される本会議に修正案提出の意思のみを表明しています。一方、奈良市議会は予算委員会で約3億3,000万円を減額する修正案を提出し、賛成多数で修正案を可決したうえで原案を認めない判断をしています。26日に再会される本会議では予算決算委員会委員長より採決結果が報告がされ、その採決結果について本会議で採決することになります。

それぞれ地方議会では、独自の議会規則が定められており議会運営は規則に基づき行われています。ただ私は、修正案提出は予算委員会での提出が望ましいと考えます。理由は以下の通りです。

①予算委員会開催日から数日後に本会議が開催されることが多く、仮に原案の新年度予算を否決すると、否決された側の首長がネガティブキャンペーンで議会を悪もにする可能性があるからです。予算には、子育て・福祉をはじめ地方自治体のすべて予算が含まれているため、たとえば「議会は教育無償化予算を否決した」とか「議会は高齢者福祉政策の予算を否決した」などネガティブな部分を戦略的に訴えてくる可能性があるからです。

②予算委員会に修正案を提出すると、修正案を先議する必要が生じるため、修正案が可決された場合は新年度予算原案を否決することが避けられます。さらに、原案否決前に修正減額する内容を明確にし趣旨説明などで詳しく理由をのべることができるからです。


【予算案が可決された首長判断】

奈良県議会は25日13:00に本会議が再会され、自民党・無所属の会より修正案が提出され可決する見通しです。また奈良市議会は26日14:00に本会議が再会され、予算決算委員会で可決した修正案が提出され可決する見通しです。同じように修正案可決する見通しの奈良県と奈良市ですが、首長判断は異なるものになることも考えられます。なぜなら奈良県議会の議員構成では知事与党の日本維新の会所属議員をはじめ、知事与党が議員定数の1/3を超える可能性が高く、知事が一般的拒否権で「再議」した場合には、議決が過半数ではなく可決に2/3が必要となるからです。「再議」については、後日、地方政治における二元代表制(再議編)でのべたいと思います。

-to be continue-