論理的誤謬のサブリスト-1 不当演繹立論(形式的誤謬) | マスメディア報道のメソドロジー

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マスメディア報道の論理的誤謬(ごびゅう:logical fallacy)の分析と情報リテラシーの向上をメインのアジェンダに、できる限りココロをなくして記事を書いていきたいと思っています(笑)

フォーマル


演繹的推論は既に証明された理論的な原理と正しい概念を前提にして普遍的な結論を導くものです。
換言すれば、演繹的推論によって正しく普遍的結論を導くためには、次の3つの要件をクリアする必要があります。

・推論の「論証構造」が正しいこと
・推論の根拠となる理論的な「原理」が完全であること
・推論を記述する資料である「概念」が正しいこと

不当演繹立論は、このうち論証構造に誤りがあるため、正しく結論を導くことができない場合を意味します。
この誤謬は形式的誤謬(formal fallacy)と呼ばれています。

以下にこの形式的誤謬の種類について簡単に示していきたいと思いますが、
その前にまず、各種類の形式的誤謬を示す前に簡単に基礎知識を示します。
概念Sを主語、概念Pを述語とすると、前提や結論に用いられる判断には次のような4つのタイプがあります。

全称肯定判断(A)すべてのSはPである。
全称否定判断(E)すべてのSはPでない。
特称肯定判断(I)あるSはPである。
特称否定判断(O)あるSはPでない。

全称(すべての)/特称(ある)のことを主語のと言い、
肯定(である)/否定(でない)のことを主語と述語の関係のと言います。

また、概念が持つ共通の性質を内包と言い、性質が適用される範囲を外延と言います。
さらに概念が外延の全範囲について主張されているとき周延されていると言い、
一部の範囲のみに主張されているとき不周延であると言います。

推論は、1つの前提から結論を導く直接推理と、2つ以上の前提から結論を導く間接推理に大別されます(例中のa,e,i,oの文字はそれぞれA,E,I,Oの判断を意味します)。

(1) 直接推理

直接推理は、1つの判断の真偽を前提として他の判断の真偽を推論する対当推理
1つの判断の形式(主語と述語の組み合わせ)を変えることで同一の意味の他の判断を導出する変形推理に区分され、
量と質のパターンから次のように細区分されます。

<対当推理>
矛盾対当:量と質がともに異なる2つの判断 (例)「すべてのSがPである」SaP:真→「あるSはPでない」SoP:偽
反対対当:質が異なる2つの全称判断 (例)「すべてのSがPである」SaP:真→「すべてのSはPでない」SeP:偽
小反対対当:質が異なる2つの特称判断 (例)「あるSがPである」SiP:真→「あるSはPでない」SoP:不定
大小対当:量のみが異なる2つの判断 (例)「すべてのSがPである」SaP:真→「あるSはPである」SiP=:真

<変形推理>
換質:原判断の主語をそのままに、述語の矛盾概念(排反する概念)を述語にした判断 (例)SaP→SeP
換位:原判断の述語を主語に、主語を述語にした判断 (例)SaP→PiS
換位換質:原判断の述語を主語に、主語の矛盾概念を述語にした判断 (例)SaP→PoS
換質換位:原判断の述語の矛盾概念を主語に、主語を述語にした判断 (例)SaP→PeS
換質換位の換質:原判断の述語の矛盾概念を主語に、主語の矛盾概念を述語にした判断 (例)SaP→PaS
戻換:原判断の主語の矛盾概念を主語に、述語をそのままにした判断 (例)SaP→SoP
戻換の換質:原判断の主語の矛盾概念を主語に、述語の矛盾概念を述語にした判断 (例)SaP→SiP

これらの判断の真偽関係には一定の規則(公理)がありますが、
コンビネイションが非常に多いためここでは煩雑を避けて省略します。
この規則に従わないのが直接推理の形式的誤謬と言えます。

(2) 間接推理

間接推理は、判断の種類によって、主として次の3つの三段論法に区分されます。

定言三段論法
仮言三段論法
選言三段論法

定言三段論法は、第3の概念を媒介して2つの概念の関係を証明するものであり、
次のような3つの概念と3つの判断で構成されます。

小概念:結論において主語となる概念
大概念:結論において述語となる概念
媒概念:大前提/小前提において大概念/小概念との関係が示される概念

大前提:大概念と媒概念の関係を示す判断
小前提:小概念と媒概念の関係を示す判断
結論:小概念と大概念の関係を示す判断

以上の概念・判断と量・質の関係には一定の規則があり、この規則に従わないときに誤謬が発生します。

仮言三段論法は、第3の判断を媒介して2つの判断の関係を証明するものであり、
「もしA(前件)ならばB(後件)」という仮言的判断が含まれています。
種類としては、大前提と小前提が仮言的判断(もしAならばB)である純粋仮言三段論法
大前提が仮言的判断で小前提が定言的判断である混合仮言三段論法があります。
このうち、純粋仮言三段論法には、定言三段論法の公理が適用されます。
一方、混合仮言三段論法の誤謬としては、前件否定と後件肯定が重要です。

選言三段論法は、基本的に、大前提が選言的判断(SはPであるかQであるかのいずれかである)、
小前提と結論が定言判断となる三段論法です。
可能な選言肢がすべて挙げられていないとき、および選言肢が互いに排反していないときに誤謬が生じます。

なお、三段論法には、上記の区分にはあたらないもう一つ重大な形式的誤謬があります。
それは、三段論法において一つの前提が欠如して二段論法になっているという誤謬であり、
これを論理の飛躍 leap in logicと言います。
あまりにもプライマリーな誤謬なので、論理学の世界でもついつい見落としがちな盲点になっています(笑)。


以上、めちゃくちゃ省略して述べてきましたが、
基本的に論理学の公理は小難しい言葉で定義されていて面倒くさい一方で、
その理論自体は、実用的範囲内では非常にやさしい集合論であると言え、
ゆっくりと考えれば小学生の算数の知識でも十分に理解できるレベルのものです。
公理の詳細については、ホントにめちゃくちゃ暇なときにでも加筆しようと思います(笑)。


以下に、このカテゴリーに属する誤謬のリストを示します。


デヴィッド・リー・ロス


[論理的誤謬のメインリスト] 演繹と帰納

[論理的誤謬のサブリスト-1] 不当演繹立論(形式的誤謬)
[論理的誤謬のサブリスト-2] 不当演繹原理(理論的原理不全)
[論理的誤謬のサブリスト-3] 不当演繹資料(概念曖昧と概念混同)
[論理的誤謬のサブリスト-4] 不当帰納立論(情報欠如)
[論理的誤謬のサブリスト-5] 不当帰納原理(経験的原理不全)
[論理的誤謬のサブリスト-6] 不当帰納資料(情報偏向:認知バイアス)
[論理的誤謬のサブリスト-7] 不当帰納資料(情報偏向:社会バイアス)
[論理的誤謬のサブリスト-8] 不当帰納資料(情報偏向:記憶バイアス)
[論理的誤謬のサブリスト-9] 不当帰納資料(情報歪曲)


A-1 不当演繹立論 invalid deductive argumentation


A-1-1 不当直接推理 illicit immediate inference

(1) 不当対当推理 illicit opposition

【不当矛盾対当 illicit contradictory opposition】
量と質がともに異なる2つの判断の真偽が不合理である。

【不当反対対当 illicit contrary opposition】
質が異なる2つの全称判断の真偽が不合理である。

【不当小反対対当 illicit subcontrary opposition】
質が異なる2つの特称判断の真偽が不合理である。

【不当大小対当 illicit subalternate opposition】
量のみが異なる2つの判断の真偽が不合理である。

【「それもあれば」の虚偽 some are / some are not】
真の特称命題の小反対を真であると主張する。

(2) 不当変形推理 illicit transformation

【不当換質 illicit obversion】
原判断の小概念をそのままに、大概念の矛盾概念を大概念にした判断の真偽が不合理である。

【不当換位 illicit conversion】
原判断の大概念を小概念に、小概念を大概念にした判断の真偽が不合理である。

【不当換位換質 illicit obversed conversion】
原判断の大概念を小概念に、小概念の矛盾概念を大概念にした判断の真偽が不合理である。

【不当換質換位 illicit contraposition】
原判断の大概念の矛盾概念を小概念に、小概念を大概念にした判断の真偽が不合理である。

【不当換質換位の換質 illicit obversed contraposition】
原判断の大概念の矛盾概念を小概念に、小概念の矛盾概念を大概念にした判断の真偽が不合理である。

【不当戻換 illicit inversion】
原判断の小概念の矛盾概念を小概念に、大概念をそのままにした判断の真偽が不合理である。

【不当戻換の換質 illicit obversed inversion】
原判断の小概念の矛盾概念を小概念に、大概念の矛盾概念を大概念にした判断の真偽が不合理である。

【全称の誤変換 quantifier shift】
言説に用いられる数量詞を不当に変換して推論する。


A-1-2 不当間接推理 illicit mediate inference

(1) 不当定言三段論法 illicit categorical syllogism

【四個概念 four terms】
定言三段論法において、四個の概念を用いている。

【媒概念曖昧 ambiguous middle term】
定言三段論法において、媒概念が多義であり、結果的に四個の概念を用いている。

【媒概念不周延 the undistributed middle term】
定言三段論法において、媒概念が前提で一度も周延されていない。

【小概念不当周延 illicit minor term】
定言三段論法において、前提で不周延の小概念を結論で周延させている。

【大概念不当周延 illicit major term】
定言三段論法において、前提で不周延の大概念を結論で周延させている。

【不当肯定 illicit affirmative / negative conclusion from affirmative premises】
定言三段論法において、2つの前提の一方が否定のときに肯定の結論を得ている。

【不当否定 illicit negative / affirmative conclusion from a negative premise】
定言三段論法において、2つの前提がともに肯定のときに否定の結論を得ている。

【否定二前提 negative premises / fallacy of exclusive premises】
定言三段論法において、2つの前提がともに否定であるにもかかわらず結論を得ている。

【特称二前提 particular premises】
定言三段論法において、2つの前提がともに特称であるにもかかわらず結論を得ている。

【不当全称 illicit universal】
定言三段論法において、2つの前提の一方が特称のときに全称の結論を得ている。

【存在の虚偽 existential fallacy】
定言三段論法において、2つの前提がともに全称のときに特称の結論を得ている。

【仮面男の虚偽 masked man fallacy / illicit substitution of identicals】
定言三段論法において、外延的定義と内包的定義を混同して同一視する。

【必然性の虚偽 fallacy of necessity / modal scope fallacy / modal fallacy】
定言三段論法において、2つの前提のうち1つが必然性を欠いているときに結論が必然性を持つと主張する。

【政治家の三段論法 politician's syllogism】
「私達は何かをしなければならない。」「これが何かである。」「ゆえに私達はこれをしなければならない。」(媒概念不周延)

(2) 不当仮言三段論法 illicit hypothetical syllogism

【前件否定 denying the antecedent】
混合仮言三段論法の小前提において大前提の前件を否定することによって結論において後件を否定する。

【後件肯定 affirming the consequent】
混合仮言三段論法の小前提において大前提の後件を肯定することによって結論において前件を肯定する。

【誤謬に訴える論証 argument from fallacy】
虚偽の言説の結論は常に虚偽であるとして推論する(前件否定)。

(3) 不当選言三段論法 illicit disjunctive syllogism

【選言肢不完全 imperfect disjunction】
選言三段論法において、互いに排他的な選言肢が完備していない。

【選言肯定 affirming a disjunct】
包含的論理和の選言を排他的論理和の選言であると解釈して推論する。

【連言否定 denying a conjunct】
連言命題のうち一方が偽であるとき、もう一方の命題は真であると解釈して推論する。