備忘録
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モニタリングを行うための顧客分類

今回は異なる期間をまたいで分析していく際に有益となる分類方法に関して記述する。
 顧客は大きく2つに分けられ、アクティブ顧客と新規顧客である。アクティブ顧客からの流出を四半期とした場合は、四半期したら流出し、再度入ってきたら復帰した顧客とも取れるが、ここでは再度新規顧客になったとする。決めの問題だが、復帰顧客が多いと言う事は、流出と分類するその時間軸が不適切な事も多いからである。
 さて、ここでは第1回にあったように、顧客をゴールド、シルバー、ブロンドの3つに分類するが、一つ新たに新規顧客と言う項目を追加する。新規顧客は分類する時間軸、例えば今回は四半期としているので、その四半期に初めて購入した顧客を新規顧客とする。次の四半期はアクティブ顧客のゴールド、シルバー、ブロンドの何れか分類されるか、残念ながら流出になる顧客も存在する。
 新規顧客をなぜ別の分類にするのかであるが、第1回で見たように、顧客は多く流入し、流出する。一見顧客も多く存在し、それらの顧客もゴールド、シルバー、ブロンドに分類してしまうと、継続して比較する際にノイズになる可能性が高い。今回の分類は継続的に状況をモニタリングして評価する指標である事が目的であるため、次の期間に始めてアクティブ顧客として分類するのである。



この例からはゴールドに分類される顧客は購入単価、回数が他の顧客よりも極めて多く、結果的に収益が一番望める顧客である。そして、この指標を継続的に見ていくことで、ゴールドやシルバーからなる優良顧客の増減を把握する事が可能となる。第1回に顧客のランクアップが必要と書いたが、顧客と言うものがここまでわかってくると、ゴールドは何を求めていて、何が提供されればゴールドとして維持されるのか、また、何に不満があるとシルバーやそれ以下へのランクダウンが起こりうるのか。また、同様にシルバーのランクアップの要因も探っていく事が出来る。
 企業の最終的な目標は利益であるが、このような指標として持つ事で、担当部門はゴールドの増加を目標値として持つ事が出来、さらに現場に対してはゴールドの維持もしくはランクアップするための施策(価格、品揃え、店舗の清潔さ、新鮮さ、店員の対応)を目標値として持たせる事が可能となる。
 デシルはその一時期で10等分に切ったもの、今回は継続してモニタリングが可能な分析軸にする事で、目標値として持たせる事が出来ると言う事。

デジル分析

さて、今回はデシル分析に関して。

さて、そもそもデシル分析はどこから来たのか?もし、小売業の形態を大きく2種類に分けるなら、対面による販売とカタログなどの通販事業者に分けられる。さて、今回記載するデシル分析と、次回に記載するであろうRFM分析はもともと通販事業者に行われていたものであるが、対面販売でもデータ取得さえ可能であれば有益な事から近年では当たり前のように活用されるようになっている。

 デシル分析とは何か?これは非常に簡単である。自社の全顧客に大して、最も購買額が大きい順に同じ人数で均等に10等分したものである。そもそも分析と言うほどの事なのか、と思われるであろうが、それは気の利いた小学生でもエクセル活用により一瞬に出せる現代での事。きっと昔は大変だったのであろう。
 感の良い人はお分かりであろうが、デシルは通販事業者などのダイレクトマーケッターが通常使う手であるDMの発想には適している。





例えば今回の例ではデシル上位3までで73%近い顧客を締めている。単純に考えれば、ここまでの顧客層に対してDMを送るや、購買時にプレゼントを提供するなどのプロモーションを行う事により顧客の維持を目指す。逆に均一のプロモーションを行なう事は大した効果が無い事がわかる。通常2:8の法則で語られているパレートの法則などが典型例であるが、一部の上位顧客を大切にして、他にはあまり注力しないと言う考え方の基になるものである。

 さて、最近の小売業のデシル分析では購買額だけでなく、来店回数や単価も共に分析する場合が多い。




例えば、ベストカスタマーであるデシル1と中間であるデシル5を比較すると、来店回数で焼く3倍、購買単価で約1.8倍の差がついており、結果的に購買額で5倍以上の開きがある。よい顧客は来店回数が多く、単価も高いのである。お客様は神様かもしれないが、神様なのは上位3デシル間でであり、後は普通の人である。つまりはすべての顧客に平等に接する事は、そもそも悪平等を生んでいると考えるべきだ。
 さて、来店回数と単価の相関であるが、基本的にはほとんどの企業でこの法則が成り立つ。が、成り立たない無い業態も稀にある。それはどこであるかは考えてみて欲しい。

 最後に、なぜ第一回が顧客フローの把握から入ったのか、聡明な方なら気付くかもしれない。前回触れたように、顧客は日々流動している。マーケティング担当がその1時点(年次や4半期や月次など)で分析を行い顧客にDMを送る、プロモーション戦略を考えるだけならこれで十分かもしれない。しかし、今回は企業の顧客戦略として考えている。
 企業活動としては①アクティブ顧客の増加、②顧客のランクアップ、が必要と書いた。そして、ランクアップの元となる顧客分類が必要となり、その分類の考え方の一つがデシルである。その点ではデシル分析は有用だ。ただし、デシルは分類であり、流入、流出は計る事は出来ない。
 再度書くと、デシル分析は顧客数を10等分しているに過ぎない。企業として上位顧客を伸ばそうと努力した際に、デシル1や2の割合が高くなる事を目標値として置けるかと言う事である。もしかすると、中盤のデシルが落ちただけで、上位デシルの割合が増えただけかもしれない。
 デシルは1時点での顧客状況把握には適しているが、異なる期間での評価としてはそのまま使えないのである。が、そもそもそのような使い方を想定して出てきたものでは無いので非難する事自体がお門違いでもある。では指標としてはどのように考えていくべきか。

顧客フローの把握

最近のEDY-ANAやSUICA-JALの競争にも代表されるように、ポイントプログラムなどによる顧客の囲い込みの熱が一段と増してきている。昔であればポイントを付けるだけで顧客囲い込みになると考え、ポイント付与のみを行う企業も多かった。非常に短絡的ではあるが、それでも周りがあまりポイントプログラムを行っていなかったときには効果はあったのだろう。近年では、顧客側も自分のサイフは一杯であり、いまさら価値の無いカードでサイフを太らせるわけには行かない、企業側もどのように効果が出ているかわからないものにコストは費やせない、と言う至極当たり前な状況に行き着いている感じだ。
では、企業は何のためのコストと考えるべきか。私なら間違いなく無く顧客を知れるためのコストであると答える。今回はその一つである顧客の流れに関して記載する。

 まずは顧客の事を考える上で、アクティブ顧客と言う考えかたの前提をおきたい。例えば会員数100万人の組織があったとしても、100万人の会員が絶えず稼動している会員組織はまず無い。
 アクティブ顧客とは、簡単に言えば稼動している顧客。これは業界、企業によって設定するものだが、スーパーなどでは例えば3ヶ月や半年以内に購入した顧客をアクティブ顧客とするなど定義する。デパートなら1年とかであろうし、自動車なら7年や9年かもしれない。この辺は次回以降に書く予定であるRFM分析などの考え方にもつながる。
 さて、当たり前の事だが、顧客はそもそも無限にいるものではない。そして、その顧客は常に流入し、そして大多数が流出していく。そこに残った顧客が所謂固定客と言うものになっていく。結局はビジネスの成功の鍵は固定客を増加、維持していく事になるのだが、そのためには顧客の流入・流出の変動状況を正しく把握し、顧客の購買行動を見極め、打ちうる策を講じると言う事が必要になる。それが顧客の囲い込み、つまりは網の中に閉じ込めるための大前提になる。
(※ビジネスモデルにより異なるが、一般的には新規顧客獲得の方が固定客維持よりもコストがかかるため、通常は固定客維持を狙いとする企業が多いため、ここでもその方針を是として書き進めていく。一見客勝負で高利益を出している企業もあるが、そのような企業は顧客データの蓄積などは何の役にも立たないので、顧客戦略の違いと言う形で別の機会に記載したい)
 
 近年の経営では伝統的なBS、PLだけでなく、キャッシュフローを把握する事が当たり前担ってきているが、顧客に関してもこのフローを理解すると言う事が必要になってくる。
 昨年の顧客を100とした時に、今年は105になったとする。では、単純に5増えたと言えるのか?一般的なケースで言えば、60の新規流入、55の既存流出程度が起こっている。つまりはかなりの数の顧客に入れ替わりが発生する。この事すら把握できていない企業も多い。まずはどの程度の入れ替わりが起こっているかの把握が第一歩となる。
 ここで顧客フローを把握したが、キャッシュと顧客の一番の違いは何か?キャッシュは1円であれば、どんな時でも1円であり価値は一定である。しかし、顧客は同じ1人でも優良顧客とそうでない顧客の価値はその企業にとって異なる。月に10円しか買わない顧客10人より、月に100円買う顧客1人の方が価値がある事は自明であろう。よって、次に行なう事は顧客のレベルに基づいたフローを把握する事である。
 続いてはその企業にとって最適な顧客分類を行う。性別や年齢、職業などのデモグラ情報は一切無視して、単純に週間や月間での購買額に応じたセグメンテーションである。
 ここでは上位からゴールド、シルバー、ブロンドと命名する。例えば、購買額が月1万円以上をゴールド、5000円~9999円までをシルバー、4999円以下をブロンド、3ヶ月以上購買が行われなかったら流出とする。小売であれば15~25%がゴールドになるような金額設定が望ましい。
 ここでも一般論になるが、ゴールドが来期もゴールドで存在する確立は7~8割程度、シルバー、ブロンドにランクダウンするのは2割程度、残り数%程度が流出である。シルバーでは、ゴールドへのランクアップは2~3割程度、シルバーにステイは半分程度、ブロンズダウンは2から3割程度で残り数%程度が流出。
 売上げが大きく変動しない多くの企業では、ゴールドからのランクダウンと、シルバーからのランクアップがほぼ等しく、結果的に売上げが伸びていないケースが良く見られる。しかし、重力の影響から水が高いところから低いところに落ちるのと同じく、顧客のランクも高いところから低いところに落ちていく傾向にある。それを企業努力により顧客ランクが落ちてくる重力に逆らっていると考えてよい。「顧客第一主義」や「顧客の立場に立って・・・」等々各々の企業が施策を行ってでの結果であり、よって幸いな事に大きく売上げが下がっていないとも言える。
 では、多くの経営者が期待してしまう新規顧客はどうであろうか。これも一般論で言えば、新規顧客がゴールドになる確率は非常に低く(まあ、すごく良くてもせいぜい数%)、流出する確立は6割以上である。新規顧客がその企業の大きな収益源になるには時間を要するし、行き成りスーパースターにはならないのである。当たり前に感じるだろうが、暇があれば有価証券報告書や経営者の方針などに目を通してみると良い。新規顧客獲得により○○と述べている経営者も多い。

 さて、今回の結論になるが、まずはアクティブ顧客の増加を目指せである。実際に稼動している顧客数を増やす事に注力すべきで、出て行った顧客も含めて顧客数○○万人!と謳ったところで何の意味も無い。
 続いては顧客のランクアップである。ランクが高くなるほどランクダウンや流出は起こりにくいものである。ブロンド⇒シルバー⇒ゴールドへのランクアップが必須になる。
 言うは安し、行うは難し。であるが、そもそも、顧客フローを理解できていない企業が多い。では、まずはここまでたどり着く事をお勧めするか?それは微妙である。これだけのデータでも取得し、維持するためには膨大なコストがかかる。そして、努力をして分析を行ってやっとスタートラインに立つだけだ。ただし、せっかくポイントカードを出していて顧客データを蓄積している企業はまずはこのレベルの事を行なうことをお勧めする。