駅前通りの、白壁の町並みに至るやや手前にある店で、観光名所に近いながらその客を狙う意思が全く感じられない、我が道をゆく唯我独尊的な食堂。暖簾をくぐるとまずは二階への階段が目に入り、奥には台所のようや厨房。その先を右に折れないと客席が見えないため、入るとまずは間違って一般の民家に入ったような、申し訳ない気持ちにさせるところから始まる。

階段の先の丸椅子には、料理人らしい偏屈そうな親父が腰掛け、いらっしゃいもなくいきなり「注文は?」と投げかけられて、困惑と申し訳なさがさらに深まりつつ客席へ。席の一つに鎮座して、泉ピン子主演のぐだぐだな昼ドラを凝視中のおばあちゃんが「決まったら知らせてね」とフォローくださるところまでが、一見客の決まりの1セットらしい。

「中華料理」「台湾」と、割とグローバルな屋号を掲げながらも、品書きの数は極めて限定的で、その1/3が要予約なのも、効率重視なのかフードロスへの意識が高いのか。しかしながら価格が500〜800円台なのは驚愕で、店名を冠した人気の品「台湾ランチ」のBは700円。ちなみにAになると1500円と、内容は知らないが値段は倍にバージョンアップする。そして要予約に。

頼んだ「汁そば」も看板の品で、運ばれてきた丼は中華も台湾も感じさせない、名と寸分も違わないビジュアル。茶色のスープは見かけに対してあっさり目で、ほんのり甘さが感じられる意外な味わい。具はたっぷりのキャベツとゆで豚肉、彩りでちょっぴりニンジンが入っていて、似たビジュアルのちゃんぽんのシャキシャキ感に対し、相当なクタクタ感。味つけはほぼ染みた汁で、台湾料理は薄味で素材の味を重視するからか、とこじつけてみる。

特徴的なのが麺の色で、中太で真っ茶色の姿は中華麺はもちろん、うどんやそばとも違う独自性。加水率が低くボソボソ、プツプツ系の食感で、これが汁が染みてくると絶妙の味つけに。クタクタキャベツと豚肉とも相性がよく、台湾でも中華でも汁でもそばでもない、オリジナルな世界観の料理もいえる。付け合わせの黄色いたくあんも、口直しにかじると謎によく合う。

昼時になると地元の客が増え、みんな第一関門の親父の「注文は?」に即応でオーダーして、おばあちゃんに挨拶して席についていく。店は界隈では通称「台湾屋」と呼ばれていて、地元客に普段使いされているそうで、ならば様々な流儀も謎献立の数々も、この町ならではのストーリー性なのだ、と思おうと思えば思えなくもない、柳井のやっぱり不思議な町中華である。