訪れた土地の郷土料理の老舗に行ってみると、店が結構立派なビルだったり料理が今風なしつらえだったりして、驚くというかやや興醒めしてしまうことがある。長くやっているということは成功している証でもあり、経営がこなれていることも意味し料理も時代に合わせ客に合わせ変化した結果だろう。しかし「老舗」「郷土料理」との言葉には、古びたこぢんまりした構えの店で、昔と変わらぬ料理を頑なに出し続けているという、一方的な想いを持ってしまう響きがあるように思えてならない。

古町花街の一角にあるこの店、そんな想いに違わぬような時代に取り残された構えと内装。年季の入った木のカウンターの向こうでご主人が寡黙に腕を振るい、接客の女性方は花街らしい華があるものの、こちらも古風な対応がどこか懐かしい。店の看板であり新潟を代表する郷土料理のわっぱ飯は、杉を曲げたその名の容器にだし汁で炊いたご飯を入れ、魚介などの具材とともに蒸し上げた素朴な品。昭和27年にこの店が考案した料理で、食通の芸術家として名高い北大路魯山人の助言も取り入れているという。

選んだのは具材が豪華な「贅沢わっぱ飯」で、杉の器にはサケ、カレイ、カニ、ノドグロと、まさに新潟の日本海の幸オールスター。中ほどにはたっぷりのイクラが配され、彩を添えている。器からご飯を茶碗によそい、まずはカレイとカニをトッピングして一膳。次はサケとイクラの親子わっぱに、最後は魚神とも呼ばれるノドグロをのせた文字通り神的な所業の一膳で締めくくりに。野菜たっぷりの冷や汁ののっぺいと、朝日豚の角煮も脇を締め、佐渡の「北雪」純米のキレのある辛口がいずれにもよく合う。

しんと静寂が支配する店内には、振り子時計の音のみが規則的に刻まれる。想い通りの老舗に身を置き、想い通りの郷土料理に舌鼓。その旨さを褒めたら「ええ、元祖はうちですから」とお姉さんが即答。背筋が正されるようなその凛々しさが心地よい、新潟花街の老舗の味である。