最近気に入っている食漫画「辛辣なるグルメ」の最新話に、町中華の存在意義が説かれていた。町の背景に応じ町の人々に寄り添って食を提供する、地域の支えになり続けてこそ、長くその地に溶け込んで浸透することができる、と。店に一歩入り、主と客とが作り出す雰囲気を感じれば、双方によりどんなストーリーが綴られてきた店なのかが、何となく分かったりすることもある。

新潟駅前、東大通りの繁華街にあるこちらも、煤けた外観と雑然とした雰囲気の店内、そして日付が変わろうとしているのに締めに寄ったであろう酔客でごった返している様から、地元の御用達の店であるのが一発で分かる。何より凄いのが、店主で料理人の親父さんとフォローするおかみさんの二人だけで、壮絶なコンビネーションで回していること。ともすればすぐに待ち客が出てしまい、いっぱいいっぱいになっているおかみさんに気を遣いのんびり待つ客。こんな空気が醸成されていることからも、町への根付き加減が窺える。

やや油っぽいカウンターに腰掛け、油染みだらけの新聞を手に厨房を眺めていると、八面六臂でフル回転する親父さんの料理捌きに思わず見入る。4つほどの鍋やフライパンが同時進行しており、焼き餃子の鍋に差し水を加えた時の「シャーーッ」、中華鍋のチャーハンをお玉で炒める際の「ズコッ、ズコッ」と、お約束の調理音が心地よい。ややオーバー気味の焦げ加減が店の佇まいっぽい餃子が出てきて、醤油を取ろうとしたら後ろを通りしなに、おかみさんがほぼノールックで小皿を置いていく。店のオリジナルのタレでいただく仕組みで、野菜と肉汁のバランスが抜群でビールが進む。

そしてラーメンは「新潟五大ラーメン」の一つ、燕三条背脂ラーメンを彷彿させる見た目。手打ちの極太麺に醤油ベースの茶色いスープ、そして背脂が雪の如く振りかけられている、前時代的で懐かしいチャッチャ系だ。ツルシコの手打ち麺に油ごってりの甘さ、しょっぱ目ながらコクがある濃いめのスープと、この時間帯にアレなのは分かっちゃいるが舌から全身が痺れるような背徳の旨さに、身を委ねずにはいられない。

店の中には酔客の談笑のBGMにひたすら調理音が響き、黙々と動き続ける店の方と客との会話はほとんどない。が、双方が淡々とリンクしながら店が回り続ける様子に、これが町中華のあるべき姿なのかな、と思ったりも。黙々と味わいその旨さを堪能して、馴染むような所作にて過ごしたら、この町の空気の中に入り込むことができた気もする、駅前の町中華である。