
この先の芝新屋町、中新屋町、西新屋町界隈は、かつて元興寺の門前として店が集まり賑わったところである。回り込みながら、かつての商家の街並みをたどっていく。元興寺塔址の門を出て右へ、陶磁器の寧屋工房を過ぎると「蚊帳」の木看板を掲げた、細い格子に虫籠窓が連なる大きな商家が右手に続く。隣接の土蔵がこの「吉田蚊帳」の店舗になっており、前を左へ折れると「純良薬品」のかすれそうな看板がある商家も。
奈良町物語館を挟んだ先、先ほど寄ったにぎわいの家の斜向かいには、「漢方薬」と記した行燈看板と布幕が目を引く菊岡漢方薬局。元暦元年創業、24代続く漢方薬の専門薬局で、看板商品である胃腸薬「陀羅尼助丸」の木看板もレトロだ。突き当たりをクランクしたところにある奈良町資料館は、身代わり申が下がる入口をくぐると、右にとげぬき地蔵、左の壁面には旅館や商家の木看板が多数掲示されている。私設博物館として奈良町の民具や資料を集めており、建物がある場所は元興寺の本堂(金堂)があったゆかりもある。
さらに折れ曲がった先に、猿が手水鉢を支えるユニークな堂が。地元では「庚申さん」と親しまれている庚申堂で、奈良町の中心にあり町の庚申信仰の拠り所になっている堂である。庚申とは十二支の組み合わせでの「かのえ・さる」のことで、この日に災厄が訪れるので寝ずの番をして逃れる風習があった。それを申が身代わりに避けてくれるため、縫いぐるみを吊すならわしが生まれたという。手水鉢の猿のほか、地蔵菩薩・吉祥天女などと書かれた赤提灯、屋根には三猿もちょこんとのっているなど、鮮やかで見ているとちょっと笑顔が出る堂である。
もう少し、折れ曲がりながら先にいきましょう。