
気仙沼で泊まったホテル一景閣の周辺は、復興中で空き地が広がっていて、夕食がとれる店が見当たらない。フロントによると一番近い食事どころは屋台村で、歩いて20分かかるという。港沿いに広がる空き地、半壊の冷凍倉庫や鉄工場などが、ガランとした魚市場前に続き、人気がなく寂しい中を冷たい風に吹かれて延々歩くことに。
屋台村まではかなり距離があるようで、途中の「お魚ひろば」がLOぎりぎりに間に合い、ここに滑り込んだ。施設内にある「鮮」は鮮魚店がやっている店で、マリンホテルの物販棟に併設されている。レストランのようなソファ席が落ち着き、すぐ目の前に気仙沼港の海が見えるその手前、入口に掲示される津波の被害の写真も目に入ってくる。
品書きは魚屋の直営だけに海鮮丼が多く、豪華な港町丼に三色丼、刺身定食ほか、遠洋マグロの水揚げ地だけにマグロ料理が豊富だ。トロビン丼、ネギトロ丼、マグロハラス焼きなどのほか、気仙沼ちゃんぽんや復活(フカカツ)バーガーといったご当地ものも。フカカツバーガーはヒレをとったヨシキリザメを最近使うようになった、気仙沼の新名物とのことだった。
これらとも迷ったが、やはりマグロどころの一品をいただきたく、ビンチョウ刺身定食にマグロカツをオーダー。リーズナブルなビンチョウマグロの刺身に、普段使いの惣菜風のカツを組み合わせてみた。遠洋マグロの日本屈指の水揚げ漁港らしく、カツは白身がサックリくせがない味。ホッコリと柔らかく、熱を加えたので赤身の強い味が前面に出た、ヘルシーなフライだ。ウスターソースをたっぷりかけて、漁師の惣菜風にしていただく。
ビンチョウの刺身は、淡いピンクが桜を想わせる上品な見た目で、舌にヒヤリ。ネットリふっくらと食感が優しく、マグロの赤身の強靭な旨みの一方、ソフトすぎる食感がネギトロのようでもある。いわば瑞々しく、若々しい刺身だろうか。さらに、角煮を刻んでさらし玉ネギと和えたものもつき、ご飯とベストマッチのマグロのおかずがそろい踏みとなった。往復40分かけて行った店だけに、庶民派なローカル魚料理が嬉しい。
そして気仙沼といえばフカヒレの水揚げ処。フカヒレの握り寿司も追加だ。1人前3カンで、三日月型なのを一口でいくと、シャクシャクプリプリの弾力がはじき返してくる。コラーゲンのイキがよく、さすが本場の元気さか。中華食材と日本の握り寿司が、遠洋漁業の気仙沼で一緒になった出合いものか。「蒼天伝」特別本醸造は、甘さがクイと押すしっとりした口当たり。漁師町にしてはの上品な酒が、フカヒレの高級さに相応のようでもある。延縄であまりとれなくなった本命のマグロと名物フカヒレの、混獲がマッチする組み合わせだろう。