
しまなみ海道のサイクリングで橋を渡る際、瀬戸内の海を随所で直下に見下ろした。島と島の狭い間を流れる海流は、当地の魚介の旨さを裏付けているかのよう。身が引き締まる早潮はまるで川の流れで、多島海の内海ゆえの富栄養も合間っての恵まれた環境となっている。
夕方に尾道に到着したら、お疲れ様とばかりそれら魚介で一献の時間だ。市役所に近い「よろづ屋辰兵衛」は、地元の方も評価している瀬戸内の海鮮料理の店。それだけに旬の魚介をはじめ、当地ならではの多彩な幸が卓を飾った。ホクホクと身が厚い穴子の天ぷらをはじめ、弾力があり磯味豊かなトコブシ、棒のような姿で旨味の強いマテ貝など。近海で水揚げの魚介らしく、どれもなかなか味が深い。
店の方に今が旬の魚介を伺ったところ、キス、メバル、オコゼ、カサゴあたりが挙がった。ほか「ホゴ」と呼ばれる赤メバル、唐揚げがうまい「ネブト」など、聞きなれない魚介の名も。尾道の漁港は三原との境に近い吉和と、尾道大橋の下の尾崎の二ヶ所があり、「晩寄」と呼ばれる行商がここで仕入れたこれら魚介を扱っているという。海岸通りや商店街に早朝から並ぶ鮮魚の露店は、まさに尾道の風物詩。この時期にはリヤカーのいちめんに、シャコを並べて売る様子も見られるとか。
そんなローカル地魚に恵まれた地らしく、知られた魚介の独特な味わい方も。鯛の小鉢は、皮と白子のみのポン酢和え。皮は湯引きしてあり、七味で味わうとクニュッとした歯触りのあと、凝縮した鯛の旨さがにじみ出る。白子は淡白な鯛の印象と異なる、かなり濃厚な味わい。続くアナゴは何と刺身で、厚めで弾力がある白身をグイグイやっていると、ほのかな旨味が心地よく引き出てくる。馴染みの魚介の未知なる味に、驚きの二品である。
尾道やしまなみ海道は関わりが深く、見どころも味覚も割と知ったつもりでいた。が、好きなジャンルのローカル魚介もまだまだ未知なるものが多いよう。次回の来訪では再び、尾道からしまなみを自転車で巡りつつ、島ごとの見どころとお魚を訪ね走ってみたいものだ。