
仕事柄全国を訪れている中、その地へ行くと毎度足を向けるほど思い入れている店は、片手ぐらいしか挙がらない。そのひとつ「チャテオあくさん」は燻製料理では知る限り、広島のみならず私的にはトップと推せる店である。
今回は懐石セットをチョイス。前菜の卵の燻製は、黄身の甘さとスモーク香のマッチングが見事で、殻にへばりついた白身がくっきり味が濃い。主皿の盛り合わせは季節ごとに食材が変わるので、訪れるたびに新たな楽しみがある。昼にも食べた名残のじごぜんガキは、身がホックリ締まり燻されて甘みが凝縮。ベーコンは赤身がカリカリ、脂が程よく抜けサックリ。バケットと上にのったブドウも燻製で、果実甘さが燻され引き立つ、大人のフルーツといった感じだ。
特に秀逸なのが、瀬戸内の旬の魚介の燻製で、素材を聞くと「まあ、まずは味わって」と、いつもご主人に笑ってかわされる。アナゴは淡白さと燻製の香ばしさがミックスされた身のほか、中骨がスモークせんべいのようで酒が進む。サゴシはサワラの幼魚で、若い身の淡さが優しい。対照にサバの燻製は、脂ののりが重厚でトロリ、シャキッと絶句の旨み。二月末が旬のため今は冷燻に最高です、とのご主人の自信の逸品だ。
中継ぎのタマネギ燻製、魚の主菜であるサケのホイル焼き、同じく肉は岩塩を一粒のせていただく和牛フィレステーキと続き、お気に入りのデザートは赤シェリーとゴルゴンゾーラチーズの組み合わせ。トロ甘いシェリーにチーズの青い風味が、燻製料理の締めに優しく染み入る。
食は自然のままが一番、あるがままの味を引き出すのが大切です、と、ご主人といつもの食談義に盛り上がりながら、このたびの再訪もしみじみと堪能した。思えば来広は、毎年この時期ばかりのような。季節を変えての食材探訪をするべく、またあくさんの燻製に溺れに来たいものだ。