「二日目に、二度目に訪れたい広島」探しは、飲食も同じテーマでいきたい。今宵の一軒目・八丁堀の「重富酒店」は、まさにそんな穴場的店である。正確には酒問屋の一角に、ビールをサーブする小さなスペースを設けたものだが、供するのは他の酒はおろか、つまみもなくビールのみ。その素晴らしい注ぎ方を堪能し、ビールをしっかり味わうのが、この店の眼目となっている。

メニューは注ぎ方ごとに四種あり、ビールが普及し始めた昭和期のサーバを再現したサーバと、平成のサーバを組み合わせて、それぞれの味わいを引き出している。最初のお約束「壱度注ぎ」(写真左のグラス)は、昭和期のサーバでざっと注いだもの。泡が荒く炭酸の刺激が残っているのが特徴で、「風呂上がりの牛乳のように、腰に手をあていってください」とご主人の言うとおりにやったら、炭酸がパチパチと喉を通る刺激が爽快。いわば、グビグビプハーのビールか。

もう一杯はご主人の名をとった「重富注ぎ」(同・右のグラス)で、平成のサーバも併用してのきめ細かい泡が特徴。泡で蓋をするおかげでビールが酸化せず、泡下の口あたりが壱度注ぎよりまろやかでコクがある。泡がなくなりグラスを揺すると、同じ細かい泡が浮かんでくるのが不思議。にしても全く同じアサヒの樽生が、こうも違う飲みごたえに仕上がるとは。

白スーツに蝶ネクタイのご主人は、オーダーごとにグラス片手にサーバを行き来し、慎重に泡を入れ替えたりヘラで泡を調整したりと忙しそう。「ビールの角をとり、甘みを引き出すのが、注ぎ手の役割です」との話は、かつて東京・八重洲にあった名店「灘コロンビア」の理念だそうだ。裏メニューに「灘コロ注ぎ」という、泡がグラスから1センチほどせり上がったのもあり、かの店の流れを汲む人の注ぎ方を見よう見まねでやってます、と笑う。

二杯までがお約束のため、1000円払ってご主人に感無量の思いを伝え店を出た。わずかな時間ながら、小さい空間を共にした客とご主人との間に、和やかな繋がりが出来たような心地よい気分に。注ぎ手が心を込めた一杯は、飲む者の心にしっかりと響き渡るようだ。