遠くから見渡すものか、山腹から見上げるものか。近くまでやってくるとなおさら、富士の眺めはどちらがいいものか迷う。昨晩泊まった富士吉田の市街からは、左右の稜線が悠々と末広がりに延び、まるで抱かれているかのような安らぎを覚えた。一方、今日散策した御庭や奥庭からは、赤黒い溶岩がゴロゴロした崩れ斜面の果てに屹立する頂に、何物をも寄せつけぬ厳しさを突きつけられた思いがする。

散策の終点である富士スバルラインの五合目は、富士山を手軽に眺められる最高到達点である。山頂を仰いで感激した観光客向けなのか、レストハウスでは富士山を銘打った料理の多いことといったら。麺ものに飯ものの盛りをあの形にして、あしらいで景色に変化をつけており、いわば富士山フードアートだ。料理ごとの個性的な「眺め」に、実物の景観比較並みに選択に迷ってしまいそうな。

サンプルケースに雪山に雲海に赤富士に溶岩とある中、登った人のみ見られるあの景観に惹かれ、昼ごはんは五合園レストハウスの「御来光カレー」を選んだ。急斜面のご飯盛りに、流れるルーは溶岩か残雪か。そしてルーの雲海から、温玉の御来光がポッカリ浮かぶ。斜面をザックリ崩しながら、溶けて具がないルーに混ぜていただくと、質実剛健・実質本位な硬派な山のカレーらしい。

もう一品、帰りのバス待ちの喫茶で選んだスイーツ富士山は、雲上閣のフジヤマプリン。こちらは緩やかな稜線に黒ごまと豆乳のソースが流れ、見た目の優美さそのままの優しい甘さがうれしい。散策の後の疲れにもありがたく、裾野広がる姿そのままの包容力か。

富士山を間近で眺めに来た人にとって、富士山グルメのそのスタイルは思い出に花を添えているようにも思える。見る者が見た姿に思いを重ね、つくられていく人それぞれの富士山像。富士山グルメのバリエーション多彩な「眺め」も、その力添えになっているに違いない。(130611)