東日本大震災において、南三陸町の漁業は津波による甚大な被害を受けた。特にブランド魚介である三陸ワカメは、関連施設がほぼ流失してしまう。そうした中、歌津地区では昨年からワカメの養殖と加工が順次再開。漁業復興に向けて歩みはじめている。
  ワカメ養殖の現場を見に、歌津地区の泊浜にある「高橋水産」を訪ねた。代表の高橋健一さんも、震災時に船で数日間、沖合に待機した経験があるという。養殖と加工の施設はすべて流失、復旧まで一年あまりかかり、この2月から震災後初めての、ワカメ収穫の運びとなったそうである。

 当地のワカメ養殖は、まず6月ごろにワカメの胞子を細いロープに付着させた「種縄」を作成。湾内で育成して、10月頃に5~7センチに切って養殖用の太いロープに挟んで、本格的に育成する。泊浜の栄養価が高い水質と外洋に近く荒い波が、一等級の高品質なワカメを生み出す絶好の環境となっているのである。
  高橋水産での加工の行程は、朝に刈り取ってきたワカメを釜でゆで、ミキサーで塩と混ぜてから水槽で一昼夜置く。翌日に水洗いして塩を落とし、葉のとり分けを行う。メカブに近い厚く歯ごたえのある元葉、広く柔らかい先端の葉、クキワカメに加工される中心部。すべて手作業で、地道な工程も品質の維持に重要なようだ。

 志津川地区へ移動、炊き出しの世話人の方々に、最近のワカメ養殖事情について伺ったところ、昨年の水揚げに例年の三倍もの値がついたという。被災で漁業者が減ったこと、津波で在庫が流失したことで、需要に対し生産量が減ったことが大きいらしい。
  そこでいただいた料理の中でも鮮烈だったのはやはり、ワカメ料理。ワカメのくきの酢漬けは、見た目がワカメの活き造りのよう。軽い歯ごたえに、ミネラル香の後味が爽快だ。大皿に大盛りのゆでワカメは、キリッと立つ潮の香りに、海味の瑞々しさを感じる。

  そしてメカブは、今朝刈り取ったワカメから摘んだばかりで、黄緑色が透けて輝くほど鮮やかだ。かきまぜるとガッチリとした粘りが強く、トロトロの中にクキクキの、対照的な不思議な食感が魅惑的。いわば海のヤマイモか納豆かといった、浜の元気食だ。
  「ここのワカメは素材がいいから、どんな風に食べてもおいしい。人も素材がよければ同じね」と、元気に笑う地元の皆さんと語らい、食べ、宴が盛り上がる。好素材への我々の感動が、生産者の意欲に少しでもつながるといいけれど、と、旬の大盛りワカメを前に感じた次第である。