
日本指折りの高級銘柄和牛として挙げられる、神戸牛。調べてみるとほかに神戸ビーフとか神戸肉とか、類する呼称が見られる。いずれも兵庫県産で脂肪交雑値が高い黒毛和牛のことだが、厳密に言えば品質や素性により、それぞれが指すものに微妙な違いがあるという。
銘柄肉や地域名称肉の定義や基準は、各地の生産者や出荷団体それぞれで設けているのが一般的だ。肉質等級に始まり素牛の素性、餌、肥育地域に期間、競られる土地諸々、評価の要素が多岐に渡るため、銘柄ごとに物差しが異なり実に複雑。定義がとれた海域や水揚げ地ぐらいと、シンプルで分かりやすいブランド魚に比べ、畜肉は生産に人間の手間がかかっている分、評価基準が複雑になるのは道理なのかも知れない。
那須高原のレストランで銘柄和牛を味わおうとすると、3種の地名銘柄を目にする。いずれも生産地の定義や肉質の評価基準は異なり、「とちぎ和牛」は県産和牛の中から、指定生産者が厳しい格付基準をクリアした高級銘柄。いわば栃木県を代表するブランド和牛である。一方「那須牛」は、A5ランクでBMS値も高い、こちらも高級和牛である。地名をズバリ冠しているが、実は生産地は那須高原ではなく、別の地域の特定の生産者による登録商標である。
これらから那須のローカルミートとして選ぶなら、もう一つの銘柄「那須和牛」がおすすめだ。JAなすの管内の那須町と那須塩原市、大田原市で生産された黒毛和牛が定義だから、れっきとしたご当地地名ブランドの和牛といえる。この日は地元の生産者と飲食店、流通、レジャーの団体が運営するレストラン「なすとらん」で、那須和牛ステーキ丼を味わうこととなった。サーロインかリブロースを、特製のタレと那須高原で収穫した野菜と一緒にいただくもので、食から那須を発信するのを目指すこの団体の理念にも、マッチした逸品である。
芯に赤さが残る程度に焼き上げたステーキは、肉汁はほのかで脂の甘みが軽い。飼料に炭の粉を与えているのが独特で、木酢が脂の味を良くするそう。ボリュームがあるが肉自体の味も控えめなので、スッキリ箸が進むステーキである。とちぎ和牛の肉質等級基準が4〜5なのに対し、那須和牛は3〜とやや緩い。客単価を考慮して、手軽に味わえるようにしたため、との説明だが、おかげで財布に優しく胃にも重すぎない、カジュアルに味わえる銘柄肉となったのかも。
那須和牛は生産のみならず、販売流通もJAなすの管内に定められていて、地元の人や旅行者でほぼ地産地消されているという。「地元産の食材を地元に卸し、地元で売り地元へ食べに行くことが大切」とは、なすとらんの方の至言。各地のローカルごはんも食材も、ご当地名を背負う以上、この精神をしっかり持ってもらいたいものだ。