●屋台もズラリ。地元での花見は、大岡川で楽しむ

 暖冬の影響で早めとか、寒の戻りで遅れるとか言われつつ、結局例年並みの時期に開花した今年の桜。開花後も、たまの冷雨や強風をうまくかわして、ここ数年の中では結構長い期間、花が楽しめたのではなかろうか。
 そのおかげで、今年は花見をすること何と、4度。うち2回は、地元の横浜界隈の桜の名所を訪ね歩くことができた。ひとつは横浜の誇る名園・三渓園で、大池を中心に咲き誇る桜が見事な、市内でも屈指の桜鑑賞スポットだ。この時期は特別に、夜9時まで開園しており、池に映る桜の花々、そして高台にそびえる三重塔が、ライトアップで幻想的な姿を見せてくれていた。
 そしてもうひとつが、大岡川沿岸の桜並木である。市街を貫いて流れる大岡川の沿岸2キロほどには、800本の桜が植えられており、毎年3月下旬~4月上旬に行われる「大岡川桜まつり」の時期には、こちらもぼんぼりでライトアップされる。期間中の週末には、各所で様々なイベントも行われ、屋台が出たり観桜席が設けられたりと、賑わいを見せている。

 大岡川桜まつりの会場のひとつ・弘明寺かんのん通り商店街は、自宅から近いこともあり、4月のはじめのとある週末、夕食を終えた後に家族みんなで、桜見物に出かけることになった。弘明寺へは最寄り駅から電車で数駅だが、家を出るときにはあいにく小雨混じりの天気のため、クルマで出かけることに。商店街は京急の弘明寺駅と鎌倉街道を結ぶように延びており、鎌倉街道側の入口そばの駐車場にクルマを停めて、商店街のアーケードへと向かった。
 桜の見どころは、商店街の中ほどの観音橋あたりで、ぶらぶらと歩きながら沿道に並ぶ店の、店頭を冷やかしていく。銘菓「観音最中」を始め、色とりどりの生菓子を並べる和菓子屋。花見客を中心に、玄関先までお客があふれているそば屋。手作りのおでんダネを売るかまぼこ屋に昔ながらの製法にこだわる豆腐屋、和洋中各種おかずがズラリとテーブルに並ぶ惣菜屋…。
 弘明寺は板東三十三観音霊場の門前町として古くから栄えた町で、商店街にも今もなお昔ながらの商店が、数多く軒を連ねている。市内の商店街の中でも、普段から非常に活気があることで知られ、まさに「横浜下町人情商店街」といった感じだ。桜見物の後の、帰りしなの門前町ショッピングも楽しみである。

●とてもカラフル! 進化した、縁日名物「チョコバナナ」

 商店街は観音橋のところで大岡川に交差しており、橋の上からが桜の一番の見どころだ。それほど川幅が広くない分、両岸からせり出した桜の枝が、まるで川の上に覆いかぶさるよう。一部の器はライトアップもされており、あでやかなピンクの花々が照らされて、幻想的な眺めをつくりだしている。 橋のあたりから桜を眺めたり、写真を撮ったりしていると、近くに出ている屋台が子供たちは気になっている様子。のぞいてみると、焼き鳥に甘味など、テイクアウトやおみやげが色々揃っている。川畔の遊歩道を散歩する前に腹ごしらえ(晩飯は食べてきたはずだが?)もいいか、と息子に百円玉を数個渡すと、喜んで焼き鳥の売り場へと走っていった。
 一方、娘の方はおやつのほうへまっしぐら、チョコでコーティングしたバナナやイチゴに、カラフルなキャンディがちりばめられているのが気に入ったようである。このお菓子、お祭りや縁日の屋台では定番だけれども、近頃はデコレーションがずいぶん派手になってきた。ちなみにここのは「コアラのマーチ」がひとつ、おまけでトッピングされているのが面白い。娘にも百円玉を渡して買いに行かせると、店のお兄さんに「どれがいいかな?」と聞かれ、様々な表情のコアラとひとつひとつにらめっこして検討している。
 そして家内も、ご所望の品があるとのことで、これまた百円玉を渡して、ではなく、プレゼント差し上げることに。花見の時期に合わせて、見事な桜の羊羹だ。鎌倉街道の方に店を構える盛光堂の品で、ほんのりピンク色の棹の中ほどに、塩漬けの桜がアクセントになっている。

 何だか「花より団子」の様相を呈してきたけれど、その後はライトアップの花を見たり、携帯で写真を撮ったりしながら、川沿いの遊歩道をぶらり。小雨が場パラパラと降っているけれど、その分混雑が激しくなく、落ち着いて散策が楽しめる。途中、河原に降りられる親水公園があり、ここらでちょっと足を停める。子供たちは喜んで、河原へと遊びに降りていった。
 河原へ降りる階段の近くには、桜がよく見えるテーブル席と、屋台が設けられている。さっそく氷水でよく冷えた缶ビールと、おでんはだいこんにちくわ、コンニャク、卵あたりを適当に頼み、子供が遊んでいる間、親はここに腰を据えることに。片手におでんをつまみ、見上げると見事な桜花。風に吹かれて散ってくる桜の花びらが、缶ビールについた水滴にペタリ。ああこれぞ、花見の醍醐味といった感じである。時折、子供たちが河原から登ってきては、おでんを2、3つまみぐいしつつ、拾ってきた桜の花をうれしそうに見せる。

●横浜スタイルの、広島風お好み焼きでひと息

 雨が次第に本降りになってきたので、このあたりで屋根つきのアーケードに撤収。屋台で軽くつまんだから、みんなかえって小腹が空いてしまったようで、雨の寒さもあり店に入って軽く食べて、暖まってから帰ろう、ということに。駐車場に向かって引き返す沿道には、立ち飲み屋、台湾料理の店と、場末のラーメン屋、小ぢんまりした寿司屋など。ひとりなら気ままに入って軽く飲んで喰って、といきたいが、子連れで入るには少々濃い感じの店ばかりだ。
 迷いつつアーケードの出口に近づいたところ、商店街の通りからやや外れたところに、お好み焼きの店の看板が灯っているのが見えた。覗くとちょうど、4人分の席がぴったり空いており、ありがたく扉をくぐり、席についてホッとひと息。小雨の中を歩き続けたから、暖かいおしぼりがしみるようにありがたい。
 お好み焼き屋というと、大きな鉄板が据えられたカウンター席がドンと鎮座し、周囲には鉄板つきのテーブルが並び、店内にはもうもうと焼きの煙が上がっている、といった感じだろう。ここは黒を基調としたシックな内装で、一見するとカフェやダイニングバーにも見えるほど。一方、大量のマンガの蔵書や各種ボードゲームも置かれ、地元の人の憩いの場といったカジュアルな雰囲気も感じられる。 

  『ぐぁんばる亭』というユニークな店名のこの店、横浜界隈では珍しい、本格広島風お好み焼きが名物である。広島出身の店長が、ご当地の味を横浜でもぜひ、と始めたもので、本場の材料を使った、本場の味を提供しているという。壁には「ランキングベスト5」が掲げられ、「もちチーズそば」「スペシャル(イカエビホタテ)そば」「ねぎキムチそば」など、人気の品々が食欲をそそる。
 屋台で焼き鳥だおでんだチョコバナナだと、あれだけ食べた子供たちは、ひとり1枚ずつエビチーズコーンそばと、依然食欲旺盛だ。自分はビールと、肴を兼ねて軽く焼きそばを。そして家内は店のオリジナルメニューである「モリモリやさいそば」を注文。キノコ、ニンジン、ナス、ピーマンと、文字通り野菜たっぷりのお好み焼きだ。店長は広島風のスタイルにこだわりつつ、地元客の口に合うようメニューのアレンジもしており、ボリュームはほどほど、キャベツなど野菜多めのヘルシーなお好み焼きが、受けているという。

 ビールをあおりながら、豚肉とキャベツのシンプルな焼きそばをすすり、子供たちからお好み焼きも少し、へらで切り分けておすそ分けしてもらう。コーンとチーズがたっぷりの、いかにも子供向けといった感じで、本場の広島風よりもそばは半玉だけと、やや軽めなのが、「弘明寺風」のアレンジか。生地はしっとりと柔らか、具材は素材の歯ごたえがそのまま生かされており、なかなか食べ応えがある。
 調子にのって、もう少しへらで取り分けようとしたら、「ぜんぶ自分で食べる!」と娘から抗議が。自分もお好み焼きが良かったかな、と少々後悔しつつ、のこった焼きそばでビールを飲み干す。

 食後のお茶を頂きながらゆっくりしていると、いつの間にか雨は小止みになった様子。夜桜見物とはいえ、そろそろ21時近くなり、子供は寝る時間だ。食べ終えてボードゲームで遊んでいる子供たちに声をかけ、店を後に。門前町でショッピング、と思っていたけれど、遅くなりシャッターが閉まった店も多く、じっくり訪れるのはまたの機会にしようか。
 唯一まだ空いている「ほまれや酒舗」には、日本全国の様々な銘酒がそろっており、クルマに向かう前にちょっと覗かせてもらう。地酒「弘明寺」や「さくらワイン」なんてのもあったけれど、越後の銘酒「八海山」を1本、自分のおみやげに買うことに。花見の余韻を楽しみながら、家に帰ってから1杯ぐらい頂こうか。そして酒のアテは、桜羊羹?(2007年4月8日食記)