以前、自宅近くのスーパーで開催された駅弁大会の話を書いたとき、京王百貨店の「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」についてちょっと触れた。書き込むときにいろいろと調べたり、それについて書かれた光文社新書刊の「駅弁大会」を読んだりしているうちに、この日本随一の歴史と規模を誇る駅弁大会を、ぜひこの目で見たい気持ちになった。毎年1月の中旬から行われるため、年が明けて1月の2週目の週末に訪れることにして、家族の晩飯の買出しも兼ねて家内から軍資金の補充も完了。新宿駅を降りて京王百貨店1階へと入ると、館内には鉄道唱歌が流れていてムード満点である。

 まだお昼前なのに、エレベーターにのって7階で降りると、会場の大催場方面はすでにすごい混雑だった。会場の入口には何と「総合案内書」が設けられていて、扱う駅弁が掲載された宣伝ちらしほか、買った駅弁を入れるための紙袋を無料で頂けるのがうれしい。昔の京王新宿駅を模した飲食スペースや近くの階段では、腰を下ろして弁当を広げている客の姿も。まずは会場を一巡することにして、混雑の真っ只中へいざ足を踏み入れる。向かって左が全国の物産の物販コーナー、右側が駅弁売り場になっていて、ちらしによると扱う駅弁の種類は200種類というから、さながら駅弁屋街といった様相だ。業者ごとにブースが設けられ、並べて売っているほか実演販売も結構多いよう。折に詰めたご飯の上に肉をのせたり、イクラやウニをどっさり盛り込んだりと、これは食欲をそそる。すでに行列が出来ている店もあり、駅弁大会では定番人気の、森駅の「いかめし」、横川駅の「峠の釜飯」の行列には「ここが最後尾」という看板が立つなど、何だかディズニーランドのアトラクションのようだ。峠の釜飯など、「残りあと50個です!」と、もうカウントダウンが始まっている。

 ざっと歩いて会場の様子が分かったところで、家族それぞれのリクエストの弁当を買い求めることにした。家内と娘が好物のイクラが入った弁当は、結構あちこちの店で見かけたな、と捜し歩くうち、店頭の大きな桶に持ったイクラにひかれ、函館の「谷ふじ」という店の行列についてみた。ずらり並んだ弁当の折にイクラのほかウニ、カニ、イカをこぼれんばかりに盛り付けていて、これは大したボリュームだ。「夢物語」というシリーズで、具によって値段が異なる数種の弁当を実演販売しているが、順番が近づき品書きが見えてくると、1400~1800円と思いのほか値が張る。これは補充してもらった軍資金では少々心もとなく、あえなく退散。

 全体的に人気なのは海鮮をベースにした駅弁のようで、谷ふじのほか福井駅の番匠本店の「越前かにめし」にも長い行列が出来ている。やはり実演をしているブースに客が集まるらしく、実演をしていない長万部駅のカニめしや、イクラに数の子、カニ、ホタテを盛り合わせた旭川駅の「まんざいどん弁当」は、客の姿が少ない。海鮮の中でもイクラ、ウニ、カニの人気は高く、ツブ貝を炊き込んだ静内駅の「日高つぶめし弁当」や、イワシの握りに大根の酢漬けを載せた釧路駅の「いわしのほっかぶり寿司」、厚岸名物のカキをたっぷり使った「氏家カキめし」など、個性的でうまそうな北海道の海鮮駅弁はちょっと苦戦している様子である。結局、空いていた上に値段も手ごろだったので、宮古駅の「かにちらし弁当」をふたつ購入。かにの身肉数本に加え、イクラもたっぷりのっているので、家内も娘も満足してもらえるだろう。

 一方、食べ盛りの息子のリクエストは肉の弁当。山形県産の黒毛和牛のタレつきロースとそぼろがのった、米沢駅の杵屋自慢の「牛肉どまんなか」は、実演販売の効果もあり相当な行列ができている。海鮮でイクラやウニが人気なら、肉で人気なのは牛肉、しかも銘柄牛肉で、ほか松阪駅の「モー太郎弁当」や、一関駅の「前沢牛めし」のブースあたりも賑わっている。一方で小倉駅の「かしわめし」や徳島駅の「阿波地鶏弁当」など、こちらも鳥肉や豚肉の弁当は苦戦の様子だ。別に判官びいきな訳でなく単に人混みが苦手なので、これまた行列の店を避けて鹿児島県出水駅の「かごしま黒ぶた弁当」を息子に購入。味噌漬けの豚ロース肉が4枚のっていて、食欲旺盛でもボリュームは充分である。

 駅弁が3つ入った大きな紙袋を提げて人ごみの中を歩くのは結構しんどいので、このあたりで自分の分も買って退散することにしたい。この後で仕事にも行くため、出先で頂く昼食の分と家で家族みんなと食べる夕食の分とふたつ買うことにした。ひとつは今は希少なクジラのカツがどん、とのった長崎駅の「ながさき鯨カツ弁当」、もうひとつは何と、タイのアユタヤ駅で売っている「ガパオラートカーオサイクロン」なる駅弁。ともに京王百貨店駅弁大会恒例のイベントの対象で、鯨カツ弁当は今年の「駅弁対決」で、「ガパオ…」は「海外弁当シリーズ」でとりあげられているものだ。このふたつの超個性的駅弁の味と、京王百貨店駅弁大会恒例のイベントについては… 以下次号。(2006年1月食記)