
名物のお好み焼きを1日で2枚はしごすることとなった今回の広島来訪、さすがに続けて食べるのはヘビーなので、10時半の開店すぐに「若貴」のお好み焼きスペシャルを頂いたあとは、お昼時までインターバルをとることにした。八丁堀から広島駅まで、路面電車に乗ればほんの数分のところを、腹ごなしに京橋川の河岸の園地をぶらぶらと散歩。広島駅に着いたらさらに腹ごなしの散歩、と、駅に隣接する愛友市場をちょっと覗いてみる。
それにしても、ターミナルとして賑わう広島駅のすぐそばに、こんな雑然とした一画が残っているのは驚きだ。原爆の投下によって市街が壊滅状況の中、戦後間もない昭和21年には駅の周辺に開設された店舗から闇市が形成され、それが昭和30年代になって生鮮食料品を扱う店舗を中心とした市場となったという。現在は愛友市場のほか広島市場、猿猴橋市場の3つが隣接していて、中でも最大の愛友市場は鮮魚や青果、乾物や漬物、さらに韓国食材といった食料品を主に扱っている市場なのだ。間口の狭い店舗がごちゃごちゃと並ぶ様子は、未だに戦後当時のままでは、と思ってしまうようなレトロムードである。
小さな商店が密集する路地の先にある広島市場の建物を覗いてみると、狭い通路を挟んで鮮魚店がズラリ。駅に近いから、みやげ向きの産直品を揃えた観光市場かと思ったら、刺身のパックを売る店にフグやタコの専門店、さらに店頭に小魚やおろしたさくなどが皿やスチロールトレイに盛って並んでいるだけの店など、どこも地元の夕飯の買い出し向けといった感じである。扱っている魚も近海の小魚が中心のようで、魚種はなく値段の札があるだけ。そんな中の一軒を見てみると、カキやぶつ切りのタコ、開いたアナゴ、丸1匹のメバルにさばいた鯛など、ご当地・瀬戸内の魚介がケースにいっぱい並んでいる。
中でも目をひくのは、広島名物ナンバーワンのカキだ。殻つきではなくむき身のパックが並んでいて、中には養殖者の名前入りのもある。熱心に眺めていると店のおばちゃんがやってきて、カキの養殖は主に宮島周辺が盛んで、本場だけに生食用が中心と教えてくれた。そしてもうひとつの瀬戸内名物といえば鯛。尾頭つきがドン、と言いたいところだが、ここの店頭に並んでいるのはカブトやカマといったアラに卵、皮、白子、さらに珍味である鯛のアゴなどを盛った皿ばかりである。「鯛のホントにおいしいのはこれらの部分。でもここにあるのは養殖物のばかりだよ」。天然物は扱っていないのか聞いてみたら、売るけど今はまだ海で泳いでいるよ、と笑っている。天然物は客の多い夕方に向けて水揚げ、仕入れるため、15時ごろになってから店頭に並ぶのだとか。市場の片隅には、大きな活けもの用の水槽も設置されている。
市場に、これらの魚を食べさせてくれる食堂はないか尋ねたら、「駅ビルにはおすすめの店があるけど、市場には食堂はないねえ」との返事。そこのテーブルでカキをつまんでいくかい、とありがたく誘われたが、もうすこし市場を散歩してみるから、といったん広島市場を後に。愛友市場の入口にも鮮魚の店があったので、この鮮魚江戸っ子にもちょっと寄ってみることにした。店頭には大きなスチロール箱が置かれ、中には小魚が山盛りに入っている。20匹ほどまとめ買いをしていったおじさんに聞くと「瀬戸内名物の小イワシだよ。今が旬でうまいんだ」店のおばちゃんも、七度洗えば鯛の味よ、と勧めてくれる。小さいながらも旬のこの時期には脂がしっかりのり、刺身のほか地元では焼いて食べるのも主流なのだとか。その横には親分格の大羽イワシも。一般的にいうマイワシのことで、地元では小イワシがいるからか「大イワシ」とも呼ばれている。これも今が旬だけに身がとても太く、胴の七つ星が立派に輝いている。最近あまりとれないのは全国どこも同じのようで、値段が高い上に節分の時期にはさらに高値がつくという。
ここでも、市場で扱っている魚介を食べさせてくれる店がないか尋ねたが、答えはあいにくさっきの鮮魚店と同じだった。ひき返してあの店の片隅のテーブルでカキをつまむかな、と思っていると、「カキなら京橋川の園地に、最近評判のいい店がある。特別なカキを使っているから味はとてもいいらしいよ」。この後、2軒目のお好み焼き屋があるお好み村を目指して八丁堀へ引き返す途中、食べに寄ってみるか。ちなみにこの店のカキは殻つきで、ひとつ140円。むきガキも扱っているが、「むきガキの方が加工に手間がかかるのに、なぜか殻つきの方が高くて」とおばちゃんが苦笑する。お好み焼きをもう1枚食べてから再び、腹ごなしにここへおみやげのカキを買いに来ることにするが、うまそうな殻つきがいいか、でも重くて送料がかさむからむきガキにするか、それまでじっくり考えるとしよう。(2006年2月10日食記)