●2600メートルの海底にバクテリア
前回のブログで、
「地球最初の生命は海底火山による海底温泉のような環境
下で雷や紫外線が作用して誕生した」
と書きました。
実は、海底火山の噴泉の中に当然存在する物質を使って“生
命の元”を作り出す実験をした化学者がいるのです。
アメリカ人化学者のスタンリー・ロイド・ミラーは、シカゴ大学
の大学院生だった1953年、指導を受けていたハロルド・ユーリ
ーの研究室でメタン、アンモニア、水素からなる気体に水蒸気
を送り込み、高圧下で火花を放電させる実験を行いました。
すると、一週間後、そこには生命の元となるタンパク質をつく
るのに必要な二種類のアミノ酸、グリシンとアラニンができて
いたのです。
この実験は、原始地球の環境で有機物(アミノ酸)が生成され
るかもしれないということを示した、最初の実験といわれてい
ます。
そして、実際に今現在も、海底火山の噴泉の中に生きている
生命体が見つかっているのです。
それは1979年、アメリカの潜水調査船アルビン号がメキシコ
沖の深海2600メートルの海嶺(海底山脈)の熱水鉱床の調査
で二枚貝やカニなどの群れを発見したことがきっかけとなりま
した。
なぜ、光もまったく届かず、それゆえ海草なども育たない深海
底に生物の群れが生きていられるのか?
調査チームが詳しくその場所を調べたところ、
350℃、260気圧という海底火山の噴泉
の中に、硫化水素や二酸化炭素、硫黄・鉄などの金属ミネラ
ルを取り込んで生きるバクテリア(シアノ・バクテリア)が生息し
ていることがわかりました。このバクテリアを食べることで、そ
こにいる生物たちも生きていたのです。
前回のブログでもふれたように、
私たちの体の中で、自ら作り出したタンパク質の一種である
酵素がミネラルを摂り込み生命活動に必要なあらゆる化学反
応を行っているというのも、こうした深海の海底温泉のような
環境下で誕生した原始の生命の生命情報を受け継いでいる
からに違いない、と私は考えています。
前述の、スタンリー・ロイド・ミラーが行った実験の続きのよう
な実験が日本で行われています。
三菱化成生命科学研究所では、原始の海にあったと考えら
れる数種類のアミノ酸を水に溶かし、それを高度な圧力釡に
入れて、深海の環境に近い、
250℃、130気圧にして
約6時間おいたところ、直径2ミクロンほどの細胞状の物質が
できたということです。これが原始生命体の細胞膜にあたるも
のと考えられています。
●イエローストーンのバクテリア
バクテリアというのは、最も原始的な単細胞生物(細胞分裂し
ない、単一の細胞で生きる生物)のことです。
前j述のようなバクテリアは、深海だけでなく、陸上の火山によ
る熱泉水の中でも発見されています。
イエローストーン国立公園というのがありますね。
世界遺産(1978年登録)にして世界最初
(つまり最古=1872年指定)の国立公園。
アメリカのワイオミング州にある、アメリカ最大の火山地帯で
す。
火山による熱泉の中に溶け込んでいた炭酸カルシウム(石
灰)が空気にふれて固まった、“女神のテラス”とよばれる神
秘的な美しさのミネルバテラスが映像や写真で紹介されてい
るのをご存じでしょう。
100℃近い熱泉が泥を噴き上げる光景も見られます。
ただの熱泉ではありません。
水素イオン濃度のpH(ペーハー)が1という強酸性。
私たち人間の胃の中で食べ物を消化する胃液の
pHが2前後ですから、その強酸性度が判ります。
衣類がふれればボロボロになるほどです。
イエローストーン国立公園内の熱泉。黄色の部分はバクテリアによる by Google
ところが、何とこの高温・強酸性の熱泉の中に生きて活動す
る生物がいるのです。
それは、バクテリアのスルフォロバス。
このバクテリアも、あの深海底の火山熱泉の中のシアノ・バク
テリアのように二酸化炭素や硫黄を摂り込みエネルギーをつ
くって生きているといいます。
スルフォロバスは、地球にまだ酸素がなかった、酸性の海が
広がっていた頃から生きていた最も原初的な生物の一種と
考えられているのです。
がんをはじめとする難病患者が湯治に訪れることで知られる
日本の玉川温泉(秋田県)も、泉温98℃、pH1.05という高温・
強酸性。
適温にしての入浴や10倍希釈による飲用も行われていて湯
治効果の一翼を担っています。
やはり100℃近い熱泉が30メートルも噴き上げることで有名な
峰温泉(静岡県)では、80℃もの源泉の中から生きた好熱菌
(好熱性細菌)サーマス・サーモフィルスが発見されています。
このサーマス・サーモフィルスは、ウイルスから大豆、納豆、
貝類、キノコ類から人にいたるあらゆる生体内に含まれ、
細胞分裂や蛋白合成に関わる成長因子のポリアミンをもっ
ていることが、発見者の生化学者・大島泰郎氏のブログ
http://www.brh.co.jp/s_library/j_site/scientistweb/no43/index.html
でふれられています。
生命の起源に近いころの生物の仕組みに温泉が関わってい
たことを想像させる、これもひとつの例だと、私は考えている
のです。
