1/8長崎新聞「郷土文芸」(1) 俳壇、他。


◎俳壇 吉岡乱水選

★(一席)洗ひたる鍬の輝き淑気満つ  長崎 立木由比浪

★殉教の果ての西坂石蕗の花 長与 三河祥子

 (評より)二十六聖人像の立つ西坂の丘。元和の大殉教もここ。

★おでんふつふつ終電までの縄暖簾 長崎 宮崎包子

★還暦も古希も若手や福寿草 長崎 吉田志津子

★熱燗や錆びた体に活を入れ 西海 原田 覺 

★鷹の舞ふ他は動かず太良の空 佐世保 相川正敏 

 ※太良は私の故郷。太良に行かれたのでしょうか。私は今年も帰郷せず。うらやましいかぎり。

★寒きびし沖の岩打つ波柱 平戸 本川 誠 

★黄落を光背として観世音 諫早 川上典子 

★落葉踏む一歩一歩の過去の音 長崎 江里口水子 

★数へ日や子らと同居の夢適ふ 島原 柴田ちぐさ 

★戦時遺構当時を偲び巡る冬 島原 荒木アヤ子 

★初しぐれ入日に遠く鐘の音 大村 平松文明

★史を語る古刹の静寂黄葉散る 島原 佐藤美保子

★ながらふも死するもままよ近松忌 長崎 高谷忠昭

 ※「近松忌」=「曽根崎心中」など世話物にすぐれた作品が多い近松門左衛門の忌日。陰暦11月22日。

★忙中閑懐手して詠む一句 諫早 篠崎清明

★息白く朝の魚市動き出す 時津 松園正雄

★大年の変らぬ威容普賢岳 雲仙 草野悠紀子

★子が離婚母は静かに林檎剥く 五島 松本隆司

★物心つきし曾孫の御慶かな 長崎 森 昇

★短日やあした為すこと走り書き 諫早 篠崎ひでこ

★冬籠被爆記録を切々と 諫早 冨永圀江

★縁側に母の髪梳く小春かな 西海 植村京子

★抱かれて出を待つ園児聖夜劇 西海 楠本良子

★炭をつぐ卒寿の母の丸き背ナ 西海 有川絹江

【選者吟】屠蘇酌むや吾も子も孫も左利き


◎歌壇 馬場昭徳選

★「来春もきっと会おうね」の約束も歳増すごとに意味の深まる 時津 浦川敏子

★年末に届く喪中の便り受け我が年齢を思い知らさる 長崎 柏木茂紀

★じゅっくりと煮込んだタマゴふうふうと大根はぁふはぁふ寒の日おでん 長崎 木村千津子 

★暗いからこそ見えるという流星群行間を空けて書きとめておく 長崎 平野純子

★ふと思いイエローレイバン出して見るああその昔船長たりし 佐世保 谷頭正仁

★見上ぐるに雲ひとつなく空澄みて不戦の国の穏やかな朝 長崎 渡辺英子

★あんパンはどちらのあんが好きだとか他愛もないこと話していたい 長与 相川光正

★黒胡椒なぜだか匂う洋風のおでんの鍋に探す牛筋 長崎 志方雅一 

★「頑張れ」と言ひたくはなしさり乍らこの言葉しかなし友を励ます 佐々 敦賀節子

★夏に逝った娘婿の名ポストから消すか消さぬか迷う日々過ぐ 新上五島 鼻崎則子

★雨あがり草取りすればほくほくと無心になれる豊かな時間 長崎 保坂清子

★秋更けて小高き丘の酒蔵に香り芳しい新酒「杵の川」長崎 工藤洋六

★咲き残る白き秋桜冬の陽のやさしさに触れ微かに揺れる 長崎 高西芳弥

★石臼で餅つく音に子供らは物珍しげに集い眺める 大村 辻 利雄 

★吐く息の白さ増しゆく山里に鳴く百舌の声鋭く聞こゆ 南島原 松永文則


◎柳壇 瀬戸波紋選 題「正直」

★損しても正直者の方がいい 佐世保 岡田明美

★正直と笑顔過疎地の小商い 長崎 森 昇

★正直に生きて悔いなし無位無官 長崎 本多政子

★鍬振るう汗は正直実がたわわ 五島 吉田耕一

★子らにある正直と言う宝物 長崎 西畑伸二

★正直な鏡慌てて紅を引く 長崎 引地眞理子

★正直で少し不器用プロポーズ 佐世保 萩山義人

★孫の絵は正直すぎるシワの数 新上五島 島崎則子

★正直に生きた無冠の父が好き 長崎 松本ひとみ

★正直が過ぎると舵を妻が取る 長崎 島崎日曻

★正直を地で行く友の一本気 長崎 成瀬至楽 


◎ジュニア俳壇 江良修選

★(秀逸)初雪にとても小さな雪だるま 佐世保・祇園中3 小林暖和

★(秀逸)お互いの笑顔つないで歌う秋 佐世保・東明中1 廣瀬 翔 

★白雪が水面に消ゆる佐世保港 祇園中3 江山昂輝

★冬の朝ふとんが私をはなさない 祇園中3 草津ひので

★深呼吸息をあわせて合唱会 東明中1 平田莉穂


◎ジュニア歌壇 杉山幸子選

★指を振り創りあげるは美しき歌の世界と誰かの涙 佐世保・東明中2 山中よつば

★今までの練習信じ皆信じ希望を胸に気持ちを歌に 東明中2 西竹優花菜

★秋の朝寒くてふとんにひきこもる「早くおきんば」父の声 東明中2 迎 心春

★窓ぎわの席からながめる秋の雲隣のやつと見たいろんな形 東明中2 千賀雄太

★今までの練習のこと思い出し緊張隠して向かうステージ 東明中1 坂口泰梓 

★部活終え空見上げればうろこ雲風のつめたさ身にしみる 東明中1 廣瀬 翔

★寝静まりかすかに聞こえる虫の音は冬のさびしさおしえてくれる 佐世保・祇園中1 野方美希

★秋になり放課後にふと空見れば紅葉のよう紅の夕焼け 祇園中1 三村礼音

★朝ごはん朝日見ながら食べる時さむさが全部ふっとんでいく 祇園中1 牟田 杏 

★肌寒い子供は風の子と言うけれどこたつに入ってみかん食べよう 祇園中1 藤原ほし

★朝の月静かに光るその姿おはよう一声光り輝く 祇園中1 大橋由奈

★盛秋に目に止まりしは秋桜その可憐さに笑みがこぼれる 佐世保・崎辺中3 中里 鈴

★日暮れ時カラスの大群帰る僕 寒くなるとき秋の発端 崎辺中2 小川湊士

★早朝の校庭はしる駅伝部私達に元気をくれる 崎辺中1 小田愛佳


◎グループ作品

(長崎ホトトギス句会)

★輪になつて歌ひつ囃す鴨の群 吉岡乱水

★坂の町詩人となりて落葉踏む 徳永桂子

★潜りては浮きては気儘かいつぶり 久保 恭

★二十秒まだまだ続く鳰の息 篠崎清明

★坂の町庭に少しの冬菜畑  三上京子

★冬菊の日溜りに形くづしけり 安原さえこ

★潜りては思はぬ所かいつぶり 山脇順子

★騙し絵の如きひと日や冬の雨 吉田志津子

★伴天連の跡を巡りて冬の町 吉田睦子

(ながよ句会)

★湯豆腐を真中に夫と五十年 中島麻美

★冬月や白き卯建の並び立ち 本木紀彰

★白菜干す母の浅漬なつかしく埋金年代

(戸尾公会堂元気川柳会)

★平和とは努力なしでは出来はせぬ 北島文子

★平和とはあたり前と思うな罰当たり 東 裕子

(長崎番傘川柳会)

★寄せる波夏の足跡消して行く 内田美恵子

★荒波に耐えて勝ち得た我が家の和 荒木征三

★戦争の苦難を抜けてきた平和 佐伯さくら


◎「短歌(うた)ありて」


★夏に入りひねもす唸るトラクター薫風吸ひて畑はふくらむ  林 直孝

 
 〜「稲田の四季」と題する連作の中の一首である。初夏の田起こしの景であろう。農作業上の田起こしの意義には触れず、トラクターで掘り起こされた土は、爽やかな風を吸って柔らかくなったのだ、と詠じた。なんとも詩的で優しい表現だ。同連作に「役目終へ案山子は庭に寝かされて冬の星座を一夜見つむる」がある。農家の庭先に寝かされているかかしは、ひと夜星座を眺めて過ごすのだと詠んだ。想像力の豊かさとともに、読む者にも農の魅力やロマンを感じさせる二首である。2023年度県文芸大会短歌20首詠の部、最優秀賞・長崎新聞社賞作品より。作者は東彼東彼杵町在住。 (心の花・辻尾修)

★陽の温み残す洗濯物たたむ出来うることの減りたる母と  山下純子


 〜日差しをたっぷり浴び、カラリと乾いた洗濯物。何と気持ちがよいのだろう。それを取り込むとき、たたむとき、太陽の存在に感謝する。ぬくもりの残る洗濯物からは懐かしい匂いがする。いつも傍らにいてくれた日だまりのような母の匂い。年老いた母と一緒に洗濯物をたたんでいる今、という瞬間はすぐに過ぎ去り、過去となってゆくが、明日へとつ ながるいとしい時間でもあるのだ。この時間(とき)を丁寧に生きる作者の暮らしぶりが見えてくる。日常の何げない素材である「洗濯物」が、作者と母に、寄り添い取り結ぶ時間を作ってくれている。第27回全九州短歌大会入賞作品。(あすなろ・上川原緑)

◎一面「きょうの一句」

「きょうの一句」はあとでこの一週間分をまとめて載せます。


◎川柳句集紹介

こちらもあとで活字にして紹介します。