よく企業誘致を自治体が行っています。それは、企業が来れば、企業の所得が増え、雇用が増えて、給与所得が上がり、それに伴って個人・法人消費が増えて、既存の商店や企業も儲かって潤い、その反射で税収も増えるという連鎖を考えるからです。

 

では、本当に企業所得や給与所得が上がれば、その分税収が上がって自治体が儲かるのかというと、それほど増収にはならない、というのが正解です。

 

まず、企業所得の増加は、県の増収にはつながりますが市町村の増収にはさほどつながりません。それは、県と市町村とで税収構造が異なることによります。県は法人県民税のほかに法人事業税という税源を持っていて、企業の収益増が直接税収増につながるわけですが、市町村の場合は、法人市民税という税源があるだけで、この課税は、国の法人税割額にさらに税率8.4%をかけるということになっていて、メガ企業ならいざ知らず、資本金10億円以下の企業ではさほどの税額にはなりません。

 

一方、雇用される従業員の給与には、所得に6%の税率を掛けますので、それなりの税収増が望めます。

だったら、やはり企業誘致で市の税収も、企業所得と従業員所得の増分は増えるじゃないか…と思われるかもしれませんが、地方交付税という制度で単純には増えないようにできています。

 

ここで、地方交付税の仕組みです。この制度が地方財政制度の肝になるといっても過言ではありません。まず、ざっくり大枠からいうと、地方交付税制度は、自分の街の税収だけではその街の住民サービスを賄えない、要するに収入の足らない都道府県・市町村に対して補填をするという仕組みになっています。

 

そして、全国1,724ある市町村のうち85市町村を除くほとんどの市町村が税だけではやっていけない街です。税だけでやっていける市町村は、原発があるか、大企業が集積しているような街だけです。

 

地方交付税の交付金は、ある市町村が標準的な様々な住民サービス(市役所窓口、教育、福祉、水道や下水道、ごみ処理、消防、公民館、保育園、道路、河川など公共施設の建設から福祉サービスなどすべて)を行うために必要な経費の総額に対して、税収だけでは足らない部分に交付されます。

 

単純化すると
[標準的に必要になる行政経費総額]-[税収]=地方交付税交付金
となります。

 

こうすることによって、小さな中山間の町村のように税収が住民サービスをいき渡らせるのにとても足らない自治体でも、小学校や中学校を運営したりできるわけです。

 

一方、この制度を単純に当てはめると、いくら税が増収になっても、住民サービスに必要な経費の総額に満たなければ、税の増収分の100%地方交付税が減るというだけになってしまいます。増収の努力はなんら見返りがなくなってしまい、企業誘致をしても仕方がないということになってしまいます。

 

そこで、地方交付税制度も考えました。100%引いちゃうと税収増のうまみがゼロになるから、自治体は増収のために頑張らない、75%引くことで勘弁してやろうと。これで税収増の25%が手元に残るわけです。

 

ということで、企業誘致による市町村収入の増収額は、<わずかな法人市民税+従業員の給与所得×0.06>×0.25ということになります。増収は確かにありますが、企業と住民が増えればそれだけ行政需要は増えて経費が掛かるようになります。さらに、地方交付税制度が増収分の75%を飲み込んでしまいます。私が、市町村がリスクをとって工業団地を造成してまで企業誘致をする意味が分からないというのはこういうことです。

 

廿日市市で、松本市長が新機能都市開発を市の将来的な増収のエンジンにするといっていますが、市の計算によると(公表資料です)、結局年間3000万円程度の増収にしかならないのです。しかし、リスクは最悪市が破産するというリスクまであります。とても市民本位に考えたときにとりえない政策です。

こういう産業団地の開発は、昭和のハードのモノづくり中心の時の時代遅れの政策です。法人事業税の直接的な増収効果のある県でさえ二の足を踏んでやらないものです。

 

広島県は、この事業を喜んで受け入れています。県道も作りましょうと言っているとのことです。そりゃそうです。リスクなしに、県税の増収が見込まれるわけですから反対する理由はないでしょう。

 

話が逸れました。要するに、税収が増えても地方交付税制度の下では、原発でも来ない限り収入全体は大きく増えないということです。

 

さらに、生産年齢人口が減少し続けるため、個人の所得を主な税源とする市町村の収入は減少する傾向にあることは間違いありません。また、も一つの大きな税源である固定資産税も、人口減少によって、不動産価値が下がるため上がる要因は見出せません。

 

収入は、消費税のアップはあるものの、総じて増収となる見込みは少ないと考えるのが常識的です。この点、国は年2%の経済成長をすることを前提にこの度の財政見通しで試算しています。相当甘い試算と言わざるを得ません。赤字が拡大するわけです。

 

大規模な企業誘致が博打を打つように成功したとしてもさほど増えない収入の一方、支出は確実に増えていきます。

 

次回、支出について考えます。