台風接近の中で行われた第48回衆院選挙の結果は、後述する立憲民主党の躍進以外は、ほぼ予想どおりの結果になった。自民・公明の与党は公示前より減らしはしたが、事前に覚悟したよりも目減りを少なくし、マスメディアは「自民勝利」と伝えた。

 


 むしろ野党の中に、立憲民主党の躍進と希望の党の凋落、共産党の半減という大きな地殻変動があった。今回の選挙結果を総括すれば、そういうことになろうか。

 

希望の49を上回る54議席獲得、ゾンビも蘇る大勝利
 民進党が3分裂した中での陣取り合戦は、公示前は誰も予想しなかった立憲民主の圧勝となった。
 いつも吹く「風」は、台風のように民進に吹いた。悪天候にもかかわらず、投票率は前回を上回ったのは、上がった投票率だけ立憲民主がかさ上げされた結果だろう。
 希望と競合した各地で、立憲民主は希望を凌駕した。議席数でも54を確保し、希望の49議席を上回った。
 象徴的なのは東京18区で、2回連続で自民前職の土屋正忠氏に敗れていたのに、今回は1100票という僅差で土屋氏に勝利した。ちなみに同選挙区で希望の党も新人を立てたがダブルスコアで一蹴している。また前回は比例復活もできなかった東京1区の海江田万里が今回は、僅差で自民前職の山田美樹氏を破って小選挙区での当選を決めた。
 各地でゾンビが蘇ったというのも、いかにも立憲民主らしい。

 

新国会では野党第1党の地位確保か
 無所属で当選した民進党系の中には立憲民主に近い当選者が多いので、新国会では野党第1党になる可能性が高い。
 さらにこの勢いをかって、参院議員を中心にまだ残っている民進党の乗っ取りを図るだろう。立憲民主系の左派無所属と共に両院議員総会を開き、前原誠司代表の更迭を断行し、民進党にまだ残っている100億円近いと思われる政党交付金の奪取を図るに違いない。
 立憲民主の拡大は、まさに旧社会党の復活であり、アンシャン・レジーム復古を思わせる。しかし社会党は歴史的役割を終えた党だから、風がやめば、立憲民主の先細りは確実だ。

 

逆風となった希望は若狭も3位落ち、一旗組の新人は全滅
 一方の目を覆わんばかりの大不振は、希望の党である。各地でポット出の新人はもちろん、前職すら落とした。7月の都議選では、都民ファーストの看板を掲げていれば「サルでも当選する」と言われたほどの完全勝利だったが、風は一転、逆風となった。
 それを象徴したのは、小池都知事の最側近で、希望の党の立ち上げの中心となった若狭勝の惨敗だ。当選した自民の鈴木隼人氏に大差をつけられたばかりか立憲民主の新人にも1万2000票もつけられ、3位に落ちた。
 解散前は、週刊誌などから、希望の党に駆け込んだ一旗組の新人が都議選のように大量当選し、自民に迫る勢力になると威勢良く持ち上げられた希望だったが、公示前後には「絶望の党」に変わり、投票日直前には新人たちにとって「死亡の党」になっていた。

 

当選目当ての変節漢たちは惨敗
 それは、前職も同じかもしれない。熊本1区では松野頼久が自民に惨敗、さらに東京25区では「政界渡り鳥」の前職(当時は維新)・小沢鋭仁が当選者の3分の1しか取れず3位で惨敗、東京5区でも自民から追い出された形の福田峰之が当選者の半分以下しか取れなかった。東京の2人は比例復活もならないほどの大惨敗である。
 唯一、気を吐いたのは、もともと強い地盤を持ち、民進党内の最保守派とされて今年早々に離党した東京21区の長島昭久氏で、僅差で追いすがる自民候補を振り切った。
 今後、地盤の大阪でやはり不振だった維新の会(10議席)と統一会派を組み、獲得49議席と足して何とか立憲民主を上回り、野党第1会派を目指すしかない。野党第2会派に落ちれば、いずれ分裂して他党派からの草刈場となるだろう。

 

共産党は立憲民主に左派無党派票を奪われて一挙半減、最大の議席減率
 前述のように今回の風は立憲民主党に吹いたが、台風並みのその風にあおられたのは共産党である。立憲民主党の勢いに飲み込まれた最大の被害者、と言っていい。公示前の21議席から一挙に半減に近い12議席に留まった。
 立憲民主が大幅躍進したので、今回から定数が10議席減となったこともあり、全政党が公示前議席を減らしたが、共産党の議席減率が最も大きい。1党だけ、大惨敗というかっこうだ。
 これまでの民進党にも飽き足らない左派的な無党派層の票を集め、それなりに議席を獲得していたが、その左派的な無党派層をごっそりとさらわれたのである。
 「唯一前衛」、「無謬の党」である共産党が、「友党」の立憲民主が大躍進したこの結果を素直に喜ぶはずはない。彼らの関心は、立憲民主に代わって大躍進し、あわよくば50議席も、というのが、公示前の皮算用だったはずである。
 それが、同じ左派の立憲民主の風下に立つ。いずれ立憲民主への攻撃が始まるだろう。

 

昨年の今日の日記:「水に入れると溺れる特異な適応を遂げた奇魚、果たして進化の成功者なのか」