kawanobu日記/スリム化する妊婦の骨盤、なぜなのか? 難産化へと向かう理由は;ジャンル=人類学 画像1

kawanobu日記/スリム化する妊婦の骨盤、なぜなのか? 難産化へと向かう理由は;ジャンル=人類学 画像2

kawanobu日記/スリム化する妊婦の骨盤、なぜなのか? 難産化へと向かう理由は;ジャンル=人類学 画像3

 妊婦の骨盤が、丸くなっているという。このニュースを載せた朝日新聞記事(5月9日付朝刊)を読み、なぜなのだろう、と考えた。
 答えが見つからないまま、日が過ぎた。

50年前と比べ細長型が激増
 この結果を発表したのは、浜松医大の鳴本敬一郎特任助教ら。鳴本助教らは、2010年から12年にかけて静岡県内の病院で初めて出産した妊婦323人の妊娠後期の骨盤エックス線写真を撮影、これをもとに50年前(1960年)と30年前(1980年)のほぼ同数の約200人の骨盤を調べた論文と比較した。
 すると、前後に細長い骨盤の妊婦がいずれの年よりも激増していた(写真上)。半面、丸型と扁平型が減っていた。率では、細長型が47%とほぼ半数を占めるまでになった。
 細長型とは、つまり腰の細いスリムな体形の女性ということである。これがこの50年で8%から47%にも激増していることは、人類、少なくとも日本人にとって望ましくない変化と言える。
 新聞記事に載った図を撮影した写真からも分かるように、細長型の女性では、出産に際して骨盤が狭いために、新生児が出産する際に大きな頭が邪魔になるからだ。

それでなくとも難産なのに
 ヒトは、近縁なチンパンジーなどの類人猿と比べると圧倒的に難産である。それは、直立二足歩行をするための適応として骨盤が狭くなったからで、したがって産道も広くなれず、産道通過するのに、チンパンジーよりも圧倒的に大きな脳を納めた頭が邪魔になるからだ(12年11月11日付日記:「ヒトを人間にしたチンパンジーの脳成長と絶対的な大差」を参照)。
 望ましいのは、産道を大きくできる、腰の幅の広い体形である。写真の図で言えば、丸型が最適ということだ。扁平型でも、出産の際に恥骨の結合面が広がるから、大きな産道を確保できる。しかし細長型では、それも不可能だ。

昔は丸型女性が好まれた
 お産をまだ自宅で行っていた戦前なら、おそらく細長型の妊婦は、難産に耐えきれず、母子ともに亡くなっていただろう。
 1960年の細長型=8%とは、その名残だろう(妊婦なのだから、少なくとも戦後生まれではない)。この時代になると、さすがに出産は産院でするようになるが、それでも安産型である丸型と扁平型が圧倒的に多かったのだ。
 それが、近年になってなぜ細長型が急増しているのか。
 鳴本助教によると、「畳から椅子への生活の変化、食習慣の洋風化、美意識の変化などがあるが、今後、背景を調べたい」とかで、はっきり原因を特定できていないようだ。
 一昔前は、大きな腰、尻はグラマラスということで男性にもてた。また家族制度のしっかりした時代、女性は子どもを産むためのものと考えられていた頃は、出っ尻(したがって丸型)女性は安産型としてもてはやされた。
 少なくとも旧石器時代には、出っ尻女性が好まれた(写真中央=ヴィレンドルフのヴィーナス;2万3000年前頃、=ホーレ・フェルスのヴィーナス;3万5000年前頃。いずれも上部旧石器時代)。
 なのに最近は、「出っ尻」は嫌われ、スリムな体型がもてはやされている。

急激な変化は性淘汰論では説明不能
 となると、スリムな体型の女性の方が伴侶を得やすく、したがってそのカップルから生まれた女児もスリムな腰を持つことになり、そうした遺伝的傾向は集団全体に広がり、定着する。ダーウィン進化論の性淘汰的解釈である。
 しかしそれには、少なくとも数十世代の歳月が要る。この50年の急激な変化は、性淘汰論では説明できない。
 いや、母集団が産科に来た妊娠後期の妊婦、ということから、やっぱりスリムな腰の女性の方が男性からもてて、晴れて結婚→妊娠、ということになったからだ、とも言えるかもしれない。出っ尻女性は、結婚の機会に乏しく、したがって妊娠できなかったから、なのか?
 それにしては、パーセンテージの変化が急すぎる。

生活の欧風化、なのか
 もう1つの説明としては、本来なら難産で子どもも生まれず、したがって経産婦も生き残れなかった細長型が、現代産科学の進歩で帝王切開などで細長型の妊婦も十分に子どもを産めるようになり、丸型に比べて相対的に増えているから、なのか。それでも感覚として、半世紀間の急激な変化を説明しきれない気がする。
 すると、やはり椅子の生活が定着した生活様式の変化、なのか。それには、椅子の生活が、骨盤を細長型にするメカニズムを説明できないといけない。少なくとも、リブパブリは説明できない。ただ、戦後の男女の平均身長が短期間の間に10数センチも高くなった変化は、生活の洋風化、栄養状態の改善などで説明できる。それと連動した変化のような気がする。
 しかし、こうした変化が集団全体を代表しているとすると、やはり不健康である。実際に今回の調査でも、帝王切開や分娩時に機器を使った割合が、細長型妊婦では丸型妊婦よりも高かったという。

一昨年の今日の日記:「本日の内閣不信任案、バラマキスト民主党で造反者は何人?