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 香港に近いために、閉鎖された「竹のカーテン」越しに自由と民主主義の微光が差し込むスターリニスト中国の広東省広州で、言論の自由を求める市民の自然発生的抗議行動が起こっている。

自発的に市民が参集
 一般週刊紙『南方週末』の新年3日発売の特別号の「中国の夢 憲政の夢」記事が、当局の手で「中華民族の偉大な復興の夢」(写真上)というプロパガンダ記事に書き換えられたことに、6日夜、同紙記者らが抗議声明を出し、7日にネットで知った市民たちが同紙を発行する本社前に自発的に集まった抗議行動を展開した(写真中央)。集まったのは約1000人で、反日デモ以外の政治性を帯びたこれだけの規模の抗議集会が開かれたのは、スターリニスト国家では異例だ。
 8日も、数百人が三々五々、本社前に集まった。
 この記事は、昨年末に同紙の特約評論員が寄稿したもので、組み上がった1月2日の段階で、編集者らが新年休暇で不在のすきに、広東省共産党委員会の宣伝部長が自ら介入して勝手に全体を改竄した。

「憲政の実現」で改竄
 書き換えられたのは、例えば「憲政の夢が実現されて初めて、人民の自由を守ることができる」などの、日本や欧米ではごくありきたりな表現だ。法がおろそかにされがちな現状を改め、憲法に基づく法治国家の実現や、自由や正義を求める論調はことごとく削除され、「国家が良くなることで、みんな(の生活)も良くなる」との共産党のフレーズに置き換えられた。
 スターリニスト国家でも、中国にはいちおう憲法があり、そこには言論や集会の自由などが定められている。だから記事は憲法に基づく民主的な政治屋自由、平等を求める当たり前のことを述べていたにすぎない。もっとも厳冬の獄中にあるノーベル平和賞受賞者の劉暁波氏も、08年憲章で憲法で保障された当たり前のことをネットで訴えただけなのだけれども。
 それがタイトルのように「夢」と表現しなければならないのが、現実なのだ。共産党は自らが定めた憲法を蹂躙し、省党委宣伝部長の指示で「我々はいかなる時よりも夢の実現に近づいている」という現状肯定のプロパガンダに書き換えられてしまったわけだ。

参加者は菊の花を献花
 記者らは、6日に抗議声明を公表する前、ネット上に元記事を公開し、併せて「規則違反だ」と党宣伝部を批判した。それに対して、直後に中国版ツイッター「微博」の同紙公式サイトに党宣伝部の意を受けた「ネット上の噂は事実ではない」という虚偽の弁明が掲載され、これに怒った記者らが冒頭の抗議声明を出す、という経過をたどった。
 もっとも電脳空間もネット警察が厳しく監視するスターリニスト国家だけに、この声明も20分弱で削除されてしまったようだ。
 ところが声明は、次々とネット上に転載され、拡散していった。それらも片っ端から削除されているが、それを上回るユーザーの批判投稿が相次いでいる。
 7日の集会参加者は、それを見て、思い思いに自由の死を暗示する菊の花を手にして集まり同社前に献花した。
 この抗議集会には、50人ほどの警官が出動し、花などを撤去するなどの規制をしたが、幸い、参加者の排除や逮捕は行われていない。

度重なる検閲による書き換え・ボツ
 「南方週末」紙は、高速鉄道衝突事故や劉暁波氏のノーベル賞受賞、党幹部の腐敗など、独自の調査報道や踏み込んだ政治評論で知られて中国の市民に人気のある週刊紙で、共産党機関紙以外の一般紙としては最高の170万部の発行部数を誇る。
 それだけに、当局からは目をつけられ、これまでもたびたび介入を受けてきた。2009年11月には初訪中したオバマ大統領に単独インタビューしたが、党宣伝部の指示で掲載を中止させられている。この際は、インタビュー記事のスペース(見開き2ページの下半分)をほぼ白紙で発行し、抗議の意思を示した。
 ちなみに記者たちが抗議声明で明らかにしたところによると、昨年だけで1034本もの記事が書き換えられるかボツにされたという。

試される習近平・胡春華
 1地方紙をめぐるこの騒ぎが世界から注視されているのは、昨秋に党総書記に就任した習近平と、新任で着任したばかりの党政治局員兼広東省党書記の胡春華が試されているとみられているからだ。公安警察が力で弾圧すれば、ソフト路線を表に出している習近平への欧米の失望感が一気に広がる。
 また広東省党書記の胡春華(写真下)は、共青団出身でまだ49歳と若く、ポスト習近平の一番の候補とされる。人脈的に前任の汪洋と同じ共青団=胡錦涛派に連なる
 世界が注視している中では、習近平も胡春華も手荒なことはしにくい。もっともスターリニストたちも手を拱いているわけではなく、7日、党宣伝部は、中国国内メディアに口頭で党機関紙系の『環球時報』の社説を転載するように指示している。
 同社説では、「海外の敵対勢力が介入している」という相変わらずの謀略論を並べている。
 8日、当局は南方週末本社前に監視カメラを備え付けたりという監視強化策をとったが、これ以上、集会が広がらない限り、そのまま放置し、熱気が冷めるのを待つことになるのかもしれない。
 しかしこの記憶は、中国の若い知識層の心に深く刻まれたことだろう。やがて目立たぬように、あちこちで共産党の腐敗と社会の巨大格差・不平等への批判の声があがってくるだろう。スターリニストの基盤は、そうやって少しずつ掘り崩されて行くに違いない。

昨年の今日の日記:「『カティンの森』の犯罪を読む②:チャーチル、ルーズベルトらの不作為の犯罪」