(メディア掲載)業界最大誌「整備戦略」(日刊自動車新聞社発行)でアセアンアフターマーケットについて掲載されました。
今回の【川崎大輔がみるアセアンアフターマーケット】はタイの自動車市場についてです。<タイの中古車市場の実態>ということで書かせていただきました。
【川崎大輔がみるアセアンアフターマーケット】
アセアン諸国で自動車事業を拡大していく場合、タイの中古車流通を理解する意義は大きい。中古車流通の健全化を促進することで、自動車市場のバリューチェーンを構築することが可能となるためだ。
◆タイの中古車流通における課題
タイは数年先にアセアンにおける中古車流通における重要な国となる。新車市場が拡大し、これから最も多くの中古車が出回ると推測される市場だからだ。既にアセアン経済共同体(AEC)が発足し大きな市場ができている。その域内においてタイは中古車供給国になる可能性が高い。タイの中古車流通をコントロールできれば、アセアン全体の自動車市場のバリューチェーンに影響を与えられる。
しかし、タイでは「中古車流通の健全化」という大きな課題が残されている。売り手と買い手の間で中古車情報に関する非対称性、格差をなくして、公正な取引が行えていない。
◆中古車流通のメインプレーヤー“テント”
「中古車を買うならバンコクだとラチャダーピセク通りとかシーナカリン通りに行くよ。そのあたりを車で走れば道路の両側に派手な看板を出したテントがあるから」(タイの男性会社員)。昔からビニールの屋根を張っただけの簡易な作りの中古車販売店が多くテントと呼ばれ始めたようだ。
筆者が行った現地調査によれば、バンコク周辺だけで約2000社のこのような小規模中古車販売店が登録されていることが確認された。多い地区としてカンチャナピセーク、シーナカリン、ラチャダピセーク、ラムイントラ、エカマエなどがあげられる。
1つのテント内には30~50区画ほどの個人販売業者が入っている。各個人販売業者のオフィス(販売店)は、2~3名ほどのスタッフがいる。どちらかといえば家族経営(父親が営業、母親が事務、息子娘がアシスタント)のような形が多い。営業時間は8時~20時まで毎日営業しているお店が一般的。車はピカピカに磨かれていて、日本の中古車店と同じように新しく見える。車15台~20台程度とめられる駐車スペースと箱のようなオフィスブースに電話1本で商売をしており、ブローカー(仲介屋)の集積場所といったイメージだ。
テントは表向きは法人扱いで、形式上のビジネスはB to C(Business to Consumer)を取っている。しかし実態をC to C(Consumer to Consumer)としている。それによって、自動車取得税を免れ価格競争力で他のプレーヤーに勝てる。そのようなことからテントはタイ中古車流通におけるメインプレーヤーとなっている。
◆売り手が優位な中古車市場
一般的な仕入れはユーザーからの買い取り・下取りである。日本と異なる点はオークションからの仕入れは積極的ではない。理由として引き揚げ車が多く品質が良くないということだ
販売は、中古車ウェブサイトからの問い合わせが多い。口コミ、店舗への訪問での販売もある。在庫展示販売が一般的で、一定期間内に販売できなかった中古車は業者間でタマ(中古車)を交換し合っている。中古車の保証はなく現状渡しで売りっぱなしが基本。そのため、ユーザーは購入前に中古車の良し悪(あ)しをしっかりと見分ける能力が必要だ。
車に張られているプライスボードは、日本の自動車公正取引協議会がプライスボードの5大チェックポイントのすべてを満たしているものは皆無。項目とは、1.保証の有無、2.定期点検整備実施状況の有無、3.走行距離数、4.過去の点検整備記録簿の有無、5.修復暦の有無、である。事故歴を開示せずに中古車を販売し、メーター不正操作などもある。
「売り手優位市場」となっており、主導権を握っているのは中古車ディーラーとブローカーだ。中古車にはプライスボードは掲げられていない。走行距離や修復歴も提示されていない。中古車店は客を見て販売価格を決めるため、スタッフとの交渉が必要になる。全く値段の表記もしていない中古車もあり、情報量が少ない購入者が弱い立場だ。
◆公正な中古車流通に向けての課題
ここ最近、プライスボードに記載される情報の量を増やし、透明性や公正さを打ち出すことで差別化するテントも少しだが出始めてきた。中古車流通の健全化に向けた取り組みはすぐには根付かない。しかし、中古車流通が拡大していく調整局面では通らなければいけない重要な課題だ。
日本では80年代以降にオークション流通や中古車情報誌などによって情報が溢れ出した。それにより中古車の市場価値が分かりやすくなっていき、ブローカーの出番が減っていった。流通を健全化するためには、日本の過去の経験を伝えていくことが重要だ。課題解決国として日本がたどってきた中古車流通の変遷をタイに伝えていくことは日本の企業にとってビジネスチャンスとなるだろう。更にタイ中古車流通がアセアンの中古車供給を担うことを鑑みればアセアン全体の中古車流通の健全化に向けた大きなステップになるに違いない。
<川崎大輔 プロフィール>
大学卒業後、香港の会社に就職しアセアン(香港、タイ、マレーシア、シンガポール)に駐在。その後、大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。現在、プレミアファイナンシャルサービス(株)にてアセアン諸国の進出したい日系企業様の海外進出サポートを行っている。日系企業と海外との架け橋をつくるべく海外における中古・金融・修理などアフター中心の流通調査を行う。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科特別研究員。




