◆タイの自動車整備工具市場
タイの自動車整備工具市場には、大きく3つのプレーヤーがいる。1つ目がチャイナタウンにある大小の工具屋、2つ目が街中にあるホームセンター、3つ目が工具専門販売店だ。特徴として、チャイナタウンの工具屋は、商品も陳列がされておらず無造作に店内に置かれている。商品や価格は不明だ。自らで必要な整備専用工具やナットサイズ把握できていないと購入するのが難しい。「ホイルナットは何ミリかチャイナタウンの(工具店の)スタッフに逆に質問されて、どの工具を購入すれば良いのかわかりませんでした」(タイの男性会社員)。一般顧客にとって敷居が高いのが現状だ。品質保証が無いのも大きい不安である。一方で、ホームセンターでは工具の専門性が低く品揃えが少ない。これらの課題を克服できるのが工具専門販売店だ。
◆日系工具専門販売店のタイ進出
埼玉県深谷市に本社を置く株式会社ワールドツール。日本全国150の店舗で「アストロプロダクツ」という自社ブランドの自動車整備用工具を販売している。2016年3月30日、自タイの首都バンコクに工具専門販売店のアストロプロダクツ1号店をオープンさせた。2017年1月には2号店もオープン。日本から輸入した自動車整備工具等を日本の販売価格と同じ料金体系で販売している。2016年には約3000点だった商品数が、今は3400点まで増えた。専門性の高いものから、携帯画面の保護シートまで幅広い品揃えとなっている。
同社にとって初の海外進出である。タイの自動車市場が成熟化していくにつれて、部品交換や車の改造などの趣味が流行り自動車整備工具市場のポテンシャルと感じての参入だ。「タイは伸びる市場。なぜなら、バイクなどもホビー化してきていて、趣味には工具が必要になります。さらにワンストップで揃うお店があれば非常に便利です」(中澤氏)。
◆業界の裾野を広げていく
「業界で市場を取り合うのではなく、裾野を広げて業界全体を大きくしていくという感覚があります」(中澤氏)、更に「数十年前の日本でも同じ。今まで整備工場に持ち込んでいた、ワイパーやオイル交換くらいは自分でやってみようという人があらわれました。オイルを自分で変えるようになったからといって整備工場に行かなくなるというのではありません。その逆でオイル交換でも自分でやるようになると、不思議と様々な修理やパーツに興味が出てくるものです。ユーザーが車に興味を持つ事で整備業界も活発になるのです」と指摘する。
アストロプロダクツでは、タイにない専門性の高い自動車専門工具を取り扱っている。チャイナタウンやホームセンターでは取り扱っていないものばかりで市場を取り合う影響は少ない。このようなものがあるのか、このような使い方ができるのか、と顧客の新しい発見を広げることで業界の裾野が広がる。
◆同業他社との差別化は情報提供
中澤氏は「日本で販売しているデザインと機能性を兼ね備えた高品質、高付加価値の工具の魅力を多くのタイ人にも知ってほしい」と考えている。そういう意味では確かに専門性の高い工具も差別化である。しかし、それ以上にお客様が気軽に商品を聞きに行けることが、業界プレーヤーとの差別化になっている。「タイヤ交換のホイルナットのサイズが分からないとか、ベアリングを外したいが工具が分からないと言った他のお店で得られない情報、工具を求めてお客様にきていただいています」(中澤氏)。
アストロプロダクツの認知度はここ1年で確実に上がっている。主な広告媒体はフェイスブックだ。2016年末で3万5000の「いいね!」がついていたが、2017年6月(約15ヶ月)で5万3000になった。売上げの10%以上はフェイスブックからの問い合わせだ。新しい商品が出るたびにフェイスブックに載せ、商品の情報、使い方を動画で配信する。商品説明書のタイ語へと翻訳も始めた。1日100人ほどの来店があり半分くらいは何かしらの商品を購入するという。
◆ 今後の課題はターゲット数の増加
これからの課題はターゲットの絶対数を増やすこと。整備工具市場は、新車販売台数とは連動していない。つまり新車販売台数が増えたからと行って整備工具市場が同じスピード拡大するということではない。現在のアストロプロダクツのターゲット層は3つ。プロ(業者)、趣味、新規だ。それぞれの割合は40%、40%、20%となる。比率を変えずにそれぞれの絶対数を増やしていく。方法は、店舗数の拡大、ネット(EC販売)での販売、FBやイベント出店でのマーケティングを更に強化していくと言い切る。
またスタッフの育成もポイントだ。現在、各店舗それぞれにタイ人店長を配置。店長にお店の販売責任を持たせる体制を整えた。できるだけタイ人が主役になって自らの視点で商品説明やお客様が知らない商品の動画を制作し、情報を提供していくことを目指している。
タイでは専門的な工具販売店は少ないが新顧客の創出、更に中間層の勃興によって自動車整備工具業界への勢いは強まりそうだ。
<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。


