備蓄米が放出されても米不足の解消には未だ至っていない中で、私たちを突き動かす切なる願いが、ついにかたちとなりました。
6月5日、私たちは衆議院事務総長へ、ローカルフード法案(正式名称:「地域在来品種等の種苗の保存及び利用等の促進に関する法律案」)を提出したことを、ここにご報告いたします。
前回は参議院からの提出でしたが、今回は衆議院から、4会派が揃って提出という強い布陣をもって臨みました。この提出に至るまで、各政党関係者、参議院法制局、そして何よりも、未来を信じ続けた有識者、現場の農業従事者、そしてローカルフード推進メンバーの皆さま。その絶大なご協力と、決して諦めない揺るぎないご支援があったからこそ、私たちはこの扉を開くことができたのです。心からの感謝を捧げます。
このローカルフード法案の着想は、2020年に遡ります。異常気象がもたらす干ばつや凶作、世界を翻弄したパンデミック、そして地球の各地でくすぶる紛争の炎――。複合的に絡み合うこれらの問題が、私たちの足元にあるグローバルな食料システムを、根底から打ち砕きました。
日本もまた、その例外ではありませんでした。食料のほとんどを海外からの輸入に頼り、種子、農薬、化学肥料、そしてあらゆる農業資材までもが、海外の手に握られている。しかし、それ以上に深刻なのは、日本の魂ともいえる種子を育む採種農家の激減、そして農業の担い手である農家そのものの高齢化です。このままでは、日本の食料自給率は見る見るうちに低下し、有事の際に国民を飢えさせないという、国家の最低限の責務すら果たせなくなるでしょう。
この絶望的な状況を打ち破るため、私たちは立ち上がりました。有事の際にも国民を飢えさせない、持続可能な食システムをこの手で構築すること。それこそが、今、私たちに課せられた喫緊の使命でした。その実現のために、地域を主体とした循環型経済、そして何よりも、未来を生きる子どもたちのいのちと健康を守るための法制化が不可欠であると確信し、その答えとして「ローカルフード法」を掲げたのです。
2021年5月、私たちはローカルフード推進チームを結成し、法制局との協議を重ねに重ねました。2022年5月には法案骨子を完成させ、その後の2024年、参議院での法案初提出を実現しましたが、現実はあまりに厳しく、その願いは叶えられませんでした。
それでも、私たちの歩みは止まりませんでした。2023年、私たちは「ローカルフード法案」を掲げ、各自治体もまた「ローカルフード条例」を制定することで、法と条例という両輪でこの運動を全国へと広げていきました。現在、在来品種を使った有機農法で学校給食に食材を提供する自治体も現れ、中には法律に先行して条例が成立し、「オーガニック憲章」を定める自治体まで現れています。そして、私たち立法府もまた、協議に協議を重ね、今回2025年には衆議院から法案提出に至ったのです。
実に、5年という歳月をかけての提出です。
この法案が守ろうとするもの。それは、地域の伝統的な種苗である「在来品種」です。50年、100年前の種苗を単に収集・保存するだけでなく、実際に栽培し、私たちの食卓に届けることで、次世代に生きたタネを継承していくこと。それこそが、この法案の目指す根源的な目的です。「タネは生きた文化財」という言葉が示す通り、何百年もの歴史と文化を内包する在来品種こそが、私たちの食文化の基盤を支えてきました。種を蒔き、収穫し、再び種を採取するという生命の循環こそが、伝統を守り、未来を繋ぐ鍵となるのです。
さらに、この法案では、在来品種を使った有機農法で育てた食材を、学校給食にも積極的に取り入れることを明記しています。子どもたち一人ひとりが、地域の宝である「タネ」に触れ、食の大切さを五感で学ぶ機会を増やすことで、未来の食文化を担う人材を育成したい。市民、議会、生産者が心を一つに協力し、地域の宝である「タネ」を守り、食料自給の好循環を生み出す。これこそが、「食を通じて人と自然が共に調和する地域循環型食システムの構築」という、今の日本の農業に求められている理想の姿なのです。
私たちの一歩は、まだ始まったばかりです。この法案の成立は、長く厳しい戦いの始まりを告げる号砲に過ぎません。有機農業の推進、種子の安定確保を具体的な政策として具現化するために、私たちは中央と全国各地で緊密に連携し、「ローカルフード法」の審議を加速させ、気を緩めることなく成立に向けて全力で取り組んでいくことを誓います。
この戦いは、日本の食の未来を賭けた、真剣勝負なのです。
是非、全国各地から支援の輪を広げていただけますことを、よろしくお願い申し上げます。
いのちを守る参議院議員 川田龍平