参議院議員川田龍平君提出
臨床研究の規制の在り方に関する質問に対する答弁書


一 「疫学研究に関する倫理指針」と「臨床研究に関する倫理指針」を見直し統合する方向で「厚生科学審議会科学技術部会疫学研究に関する倫理指針の見直しに係る専門委員会・臨床研究に関する倫理指針の見直しに係る専門委員会」(以下「委員会」という。)が開催され、二〇一四年五月一日に審議を終え、五月二十六日厚生科学審議会科学技術部会に、両指針を統合し改正する指針の案(以下「指針案」という。)が提出されたところである。指針案において、「学問・研究の自由は憲法上保障されており」との文言がある。

他方、日本国憲法第二十三条は「学問の自由は、これを保障する。」とあるが、「学問・研究の自由」とは述べていない。

「学問の自由」に「研究の自由」が含まれることは判例等に基づく学説であると理解しているが、これに対し、人体に対する侵襲行為を含む研究活動、人間の尊厳や動物福祉に関わる研究活動を想定した場合にも憲法上保障される学問の自由の範囲に含まれるとすべきか否かについては憲法学説として様々な見解があるはずである。

委員会においては、二〇一四年二月二十六日の委員会で示された案では「学問の自由は憲法上保障されており」とあるのに対して、同年三月二十六日に示された案では「学問・研究の自由は憲法上保障されており」と、「・研究」が挿入されている。ところが、二月二十六日の委員会議事録ではこの点について議論された形跡がみられない。
いかなる議論によって、「・研究」を挿入したのか、明らかにされたい。

二 前記一に関して、十分な議論の記録を残すことなく、憲法の文言とは異なる文言が挿入された指針は、「学問の自由」に「研究の自由」が含まれることに対する諸説を鑑みることなく研究の自由が憲法上保障されているという見解を普及させることになり不適切であると考えるが、いかがか。

一及び二について
お尋ねについては、平成二十六年二月二十六日に開催された厚生科学審議会科学技術部会疫学研究に関する倫理指針の見直しに係る専門委員会及び臨床研究に関する倫理指針の見直しに係る専門委員会並びに科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会疫学研究に関する倫理指針の見直しに関する専門委員会の合同会議(以下「合同会議」という。)の後日、合同会議委員から、合同会議の議論の対象となっている指針が研究に関するものであることを踏まえ、当該指針の案において「学問の自由」を「学問・研究の自由」とするのが適切である旨の意見(以下「委員意見」という。)が提出されたため、同年三月二十六日に開催された合同会議において、御指摘の「同年三月二十六日に示された案」を提示したものである。

また、同日に開催された合同会議において、事務局から委員意見を踏まえて御指摘の「二〇一四年二月二十六日の委員会で示された案」が修正された旨を説明するとともに、委員意見を配布資料としている等、十分な議論の記録を残しており、不適切であるとの御指摘は当たらないものと考えている。

三 「慢性骨髄性白血病治療薬の副作用・有害事象隠しに関する質問主意書」(第百八十六回国会質問第一〇三号)対する答弁書(内閣参質一八六第一〇三号)の八についてによると、五年間において予期しない重篤な有害事象及び不具合が合計わずか七件しか発生していないということになるが、実際にはもっと多いとの現場の声がある。この数字は実態を反映していると考えているのか、政府の見解を明らかにされたい。

三について
先の答弁書(平成二十六年五月三十日内閣参質一八六第一〇三号)八についてでお答えしたとおり、臨床研究に関する倫理指針(平成二十年厚生労働省告示第四百十五号。以下「倫理指針」という。)に規定する「予期しない重篤な有害事象及び不具合等」に該当し、臨床研究機関の長から厚生労働大臣への報告が行われた事象の件数は、平成二十一年度から平成二十五年度までに七件あった。

四 前記三に関して、これらの予期しない重篤な有害事象に対して被験者がどのように補償されたのか、民間の臨床研究保険が利用されたのか、あるいは副作用被害救済制度が利用されたのかとの点について厚生労働省は把握しているのか。一部でも把握している場合には、その内容を明らかにされたい。また、全く把握していない場合には、その理由を明らかにされたい。

四について
お尋ねについては、倫理指針に規定する「被験者の健康被害等に対する補償等」の内容について厚生労働大臣への報告を求めていないため、厚生労働省としては把握していない。

五 前記三に関して、これらの予期しない重篤な有害事象については、臨床研究機関の長が対応の状況・結果を公表しなければならないとされているが、それぞれどこに、どのように公表されているのか、厚生労働省が把握しているところを明らかにされたい。

五について
お尋ねについては、把握していない。

六 五月十九日の参議院行政監視委員会において、私が「医療法改正案では臨床研究中核病院をICH―GCP水準の臨床研究を実施できる施設と規定されておりますが、そのような施設で行われる個々の医薬品臨床研究はICH―GCPを遵守することを義務付けるのでしょうか。単にできるということで人材や施設に公的研究費を付けても、実際に個々の医薬品臨床研究が法律に基づくICH―GCP遵守の義務付けとなっていなければ、結局、国際的な使えるデータにならずに公的研究費が無駄遣いになると考えますが、これはいかがでしょうか。」と質問したのに対し、原厚生労働省医政局長は、「この基準につきましてはこれから議論していきますけれども、基本的には、ICH―GCPに準拠した国際水準の質の高い臨床研究が実施できる体制をしっかりとつくってもらうということを考えております。」と答弁し、「実施できる体制をつくる」としているが、個々の研究にICH―GCP遵守を義務づけるとは述べていない。

個々の研究がICH―GCPを遵守して行われるのでなければ、病院が「実施できる体制」であったとしても、個々の研究から生み出されるデータは国際的に認められるデータにはならないのではないか、政府の見解を明らかにされたい。

六について
御指摘の「国際的に認められるデータ」の意味するところが必ずしも明らかではないため、お尋ねについてお答えすることは困難である。