韓国、「危機」自動車部品が販売不振・最賃引上で「第二の造船」 | 勝又壽良の経済時評

韓国、「危機」自動車部品が販売不振・最賃引上で「第二の造船」

 

 

大手部品メーカーも赤字へ

高賃金が中小製造業を圧迫

 

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韓国経済の屋台骨である自動車を支える部品産業が苦境だ。原因は、自動車の販売不振と最低賃金の大幅引き上げによる人件費アップである。それに、労働時間短縮が重なって、部品業界の連鎖倒産が叫ばれている。例によって、韓国政府はわれ関せずで、涼しい顔をしている。

 

自動車部品業界が連鎖倒産に見舞われると、韓国の自動車の品質に影響する。その意味でも、自動車部品の連鎖倒産を食い止めなければならない。この状況では、電気自動車(EV)の部品開発など、夢のまた夢という絶望的な状況に追い込まれる。

 

韓国造船業界も事実上、滅んでしまった。韓国最大の海運会社の韓進海運が倒産した(2016年8月)ことで、新規造船の発注が消えた影響が大きい。韓進海運は、アジア発米国航路で扱いシェアが7%強と世界4位だった。その韓進海運倒産は、朴槿惠政権から不条理な理由で政府支援を打ち切られたことが原因である。今から思えば、韓進海運の経営を抜本的に改革させて生きながらえさせるべきだった。それが、感情的な理由(韓進海運オーナーが、朴大統領主導の財団へ寄付を断った)で、強引に倒産させたと言える。私は、ブログで政府の不当な扱いを批判した。

 

振り返って見ると、韓国政府の誤診により韓国産業を追い詰めている。自動車部品が、連鎖倒産に追い込まれている理由の一つは、最低賃金の大幅引き上げにある。カーメーカーの一貫した大幅賃上げが、下請けの部品単価を買い叩いており、これが部品産業の収益構造を悪化させている。カーメーカーの大幅賃上げを実現させている労働組合は、文政権の最大支持基盤である。この労働組合は次に、最低賃金の大幅引き上げを主導している。こうして、韓国の「貴族労組」は、自動車部品の経営を追い詰める最大の存在になった。韓国政府は、このスポンサーには刃向かえず、要求をただ飲むしかないという体たらくである。

 

ここで、自動車部品業界が連鎖倒産の危機に瀕している実態を見ておきたい。

 

大手部品メーカーも赤字へ

『韓国経済新聞』(9月5日付)は、「韓国大手部品メーカーも相次ぎ『赤字ショック』と題する記事を掲載した。

 

この記事では触れていないが、自動車部品経営で赤字が増えることは、研究開発費の削減につながっている。自動車の生命は部品性能にある。カーメーカーと部品メーカーが協力し合って、高性能の部品をつくり出すシステムなのだ。韓国の貴族労組は、自らの高額賃上げだけに関心を持ち、部品メーカーの苦境には関心がない困った存在だ。こうして、韓国自動車産業は自然に滅び去るという軌道上にある。そのレールを用意し強化しているのが貴族労組である。

 

(1)「韓国の自動車産業の根幹である部品メーカーが『業績ショック』に陥った。部品メーカーの10社中9カ社が2年前より悪化したぎょうせきになった。韓国の自動車メーカーの販売実績悪化が部品メーカーに転移した結果だ。今後がさらに問題だとの声も多い。ややもすると自動車産業の生態系が崩れかねないとの懸念も出ている。4日に韓国経済新聞が上場部品メーカー82社(12月決算法人基準)の上半期業績を調査した結果、赤字を出したところは25社に上った。自動車産業の危機が本格化する前の2016年には赤字部品メーカーは10社にすぎなかった。昨年17社に増えた後、今年は赤字企業の増加傾向がさらに激しくなった。2年間で赤字企業が2倍以上に増えたのだ」 

上場部品メーカー82社の上半期業績は、次のような過程をへて赤字企業が増えている。

2018年 25社

2017年 17社

2016年 10社

 

過去の状況を見て、赤字原因を追及することもなく、今になって大騒ぎするのも不思議である。来年は、日欧EPAの発効で日本の自動車部品が無税になる。韓国自動車部品は、この影響をさらに受けるはずだ。

 

(2)「部品メーカーが経営難に陥ることになった主な理由は、韓国の自動車メーカーの販売実績悪化だ。現代・起亜自動車をはじめとする自動車メーカーは、中国と米国など海外市場で苦戦している。内需市場でも輸入車の割合が毎年高まっている。昨年の中国『THAAD報復』と今年上半期の韓国GMの群山工場閉鎖はそうでなくても危うかった部品業界を揺るがす決定打となった」

 

韓国の自動車販売が不振の理由は、貴族労組があらゆる面で経営方針を妨害していることも大きな要因だ。「反企業意識」に燃えており、労使関係は敵対関係にあるという信じ難い状況にある。かつて、日本でも日産自動車の労使関係がこの状態であった。これが、トヨタに大きく水を開けられた要因である。日産に外国人経営者が登場した理由である。

 

(3)「自動車業界の厳しさは部品メーカーの仕事不足につながった。一部自動車メーカーは、部品メーカーに単価引き下げを要求した。海外部品メーカーの韓国進出も続いている。そうするうちに工場稼動率が50%以下に落ち、売り上げが30%以上減る部品メーカーが続出した」 

カーメーカーが、労組の賃金攻勢を受けて高賃金で妥結し、その尻を部品単価切下げ要求という玉突きを起こして、最終的には部品メーカーの大赤字という悪循環に陥っている。この状態ではEV部品開発など不可能である。かくして、韓国自動車産業は、「第二の造船業」という暗い運命が待っているはずだ。最大の元凶は、貴族労組を説得できなかった政治の責任である。文政権は、この貴族労組の御用聞きに堕している。

 

高賃金が中小製造業を圧迫

韓国は、自動車産業が力を失ったらどうなるか。失業者はさらに増える。文大統領は、「雇用改善」を一枚看板にして当選した。支持率は、さらに低落して当然だ。問題は、文氏の支持率が急落して、最賃政策の手直しをするかどうかだ。一度、ミソをつけた政権は、国民の支持を失っただけに茨の道である。

 

ここで、日韓の賃金比較をしておきたい。

 

韓国の大企業で4年制大学を卒業した新入社員の年収が平均4060万ウォン(約404万円)に上った一方、中小企業は2730万ウォンにとどまったと集計された。就職情報サイトのジョブコリアが3日までに、大企業154社と中小企業242社の大卒新入社員の年収(賞与込み、成果給除く)を調査した(『聯合ニュース』9月3日付)

 

日本は昨年、厚生労働省の調査では、平成29年の大卒の初任給(月給)の平均は20万6100円である。前年に比べると1.35%増である。平均年収は200万~230万円(賞与含まず)。これは、大企業と中小企業を含んだものだが、韓国と比較して日本の低いことが分る。韓国は賞与込みだが、大企業が404万円。中小企業は270万円である。

 

韓国の場合、貴族労組がテコとなって給与を引上げているが、会社の利益を先食いしていることの反映と見られる。一見、韓国の高い初任給が魅力的に見える。実態は、極めて刹那的引き上げである。永続性がないのだ。韓国の高賃金が、どれだけ企業経営を圧迫しているかを見ておきたい。

 

『朝鮮日報』(7月17日付)は、「韓国中小企業、日本より高い人件費、長官は現場に来てみろ」と題する記事を掲載した。

 

(4)「全羅北道の自動車部品メーカー経営者は、『中小製造業の平均営業利益率が3-5%なのに、最低賃金を毎年10%以上引き上げるというのは、事実上事業をやめろというに等しい』と怒る」

 

中小企業の経営実態を何ら把握せず、最低賃金は大幅に引き上げられた。これがもたらす悪影響は計り知れない。薬効を確かめずに、大量の薬を飲まされたようなものだ。

 

(5)「2年間で最低賃金29%引き上げというショックは、自営業だけでなく、中小製造業にも広がっている。中小企業経営者は週休手当を含む最低賃金が日本を超えたのに続き、来年には日本との差が1000ウォン(約99円)以上開くと懸念している。製造業経営者は、『人件費ですら日本企業に押されることになった。さらに労働時間まで短縮され、これまで強みだった納期対応能力まで失えば、世界市場で競争力が完全に低下してしまう』と話した」

 

韓国の最低賃金は、週休1日を含めた金額である。日本はそれを含めないので、今年の時点で韓国の最賃が日本を上回った。今年は、労働時間が週52時間(従来は68時間)と決められたので、過渡期の賃金は大幅な上昇だ。とても生産性向上ではカバー仕切れない。

 

 

(6)「全羅北道群山市の自動車部品メーカーD社の経営者は、来年も最低賃金が2桁台で引き上げられることについて『虚脱感を覚える』と述べた。昨年最低賃金が16.4%上昇したことを受けて実施した構造調整が1年足らずで役に立たなくなったからだ。D社は年初来、従業員数を100人から80人に減らし、利益率が低い製品群の生産を取りやめ、コスト構造を改善した。売り上げは10%ほど減少したが、黒字が出るように体質を改善したのだ。経営者『来年最低賃金が10%以上上昇すれば、人件費が8%増え、再び赤字を心配しなくてはならない。座して赤字を出すか、従業員を解雇しろというもので、製造業はもうやめろと言っているに等しい』と訴えた」

 

韓国政府は、経営者の将来見通しの樹立を妨害することばかり行なっている。これでは、利益計算の見通しが立たないのだ。こうして、設備投資意欲を阻害しており、韓国経済の潜在成長率低下を自ら煽っている。政治としては、もっともアマチュアのやる道を辿っている。文政権の支持率はさらに下がって当然だ。

 

(7)「2年で最低賃金が29%上昇することで、勤労者間でのバランスも懸念材料だ。京畿道抱川市にある繊維メーカー経営者は『時給8530ウォンと言えば、勤続5年目の技術者レベルだが、入社したての外国人従業員に同額を払うわけにはいかないじゃないか。そうかといって、従業員全員の給与を引き上げれば赤字は明らかだ』と語った。同社は昨年の売上高が60億ウォン、営業利益が2億ウォンだった。従業員60人の人件費上昇だけで黒字分は吹っ飛ぶ計算だ」

 

労組や市民団体の関係者は、企業経営に携わったこともない素人集団である。この集団があれこれ空想をひねって大幅に引上げた。それが、今回の最低賃金である。経営の現場に携わる使用者委員が、退出した後を見計らって決めた最賃引上だ。最初から「亡国」の宿命を負っている。

 

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(2018年9月8日付)

 

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