米国、「対中蜜月終焉」新重商主義の中国へ対決「習氏の対応?」 | 勝又壽良の経済時評

米国、「対中蜜月終焉」新重商主義の中国へ対決「習氏の対応?」

 

 

国家戦略をねじ曲げた習氏

先端技術の中国漏洩に敏感

 

 

昨年11月、米トランプ大統領は中国で大歓迎を受けた。外国賓客として初めて、紫禁城での手厚い持てなしを受けた。それがいま噓のように、米国は中国への不信の念を深めている。「中国の噓」を見抜いたからだ。中国は個別商品で、米国から大量の買い付けをすると演技したが、全て覚え書きであり契約書でなかったのだ。米国当局はこの「噓」を見抜き、中国を去る際に「これ以上は騙されない」と言い放ったほどだ。

 

米国は、中国の誠意を見定めるべく、いろいろの角度から中国をテストしていた。中国は、不覚にもこれに気づかなかった。この間の経緯は、米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』が克明に報道した。私は、この報道などをもとにしてブログで「米中関係の脆さ」を取り上げてきた。だが、中国と関わりの深い人ほど、こういう動きが信じられなかったようだ。「チャイナメリカ」とか言って、米中が協力して世界の政治や経済を取り仕切って行く。こういう「妄念」に取り憑かれているからだ。

 

中国は、そんな従順な国ではない。清国時代の中国は、世界の覇権を握っていたと、今でも信じている。英国が、産業革命を成し遂げて工業力を蓄えている事実を知らなかった。1792年、1816年、イギリスのアマースト使節団が清国を訪問。港湾の開放、貿易独占・統制の廃止、貿易根拠地の租借などを要求した。清国は、その使節団を冷遇するという外交音痴であった。これが後に、アヘン戦争へと誘引して清国滅亡の原因になった。

 

現在の中国も、これと同じ外交音痴である。習近平氏は、生粋のナショナリストであり、2050年には米国と対抗できる実力を備えられると信じている。その武器が、新重商主義である。国内産業を保護して、貿易黒字を貯め込むことで米国に対抗しようという戦略だ。米国が、この中国の野望を放置するはずがない。米国内は、すでに与野党一致で「中国対抗」を鮮明にしている。

 

中国は、米国を誤解している。民主主義国は言論の自由ゆえに、賛成・反対が入り交じって結論が出にくい。その点で、中国は専制政治だから迅速な意志決定によって、対米戦略が容易に立てられると見ている。だが、この見方ほど間違ったものはない。第一次・第二次の世界大戦で、米国が国論を一致させたときの強さを知らないのだ。民主主義政治は、結論が出るまで論争するが、多数決によって一致した行動に出る。中国のように、上からの弾圧と強制で意見をまとめるのとはワケが違うのだ。ここを見誤ってはならない。

 

国家戦略をねじ曲げた習氏

『ウォール・ストリート・ジャーナル』(1月24日付)は、「米中、貿易で衝突必至の段階に、外国企業は板挟み」と題する記事を掲載した。

 

この記事では、中国がWTOに加盟した当時(2001年)、国有企業の民営化を進めて、市場経済化する意志を持っていた。だが、習氏が国家主席就任(2012年)以来、国有企業を主体とする経済システムへ180度もの大転換をした。ここに、中国は欧米の経済システムと相容れない道を歩むことを鮮明にした。それが、3兆ドル台の外貨準備高を旗印にした新重商主義である。世界の富を中国へ吸い寄せ、米国へ対抗する姿勢をはっきりと打ち出している。

 

中国は、これまで米欧がリードしてきた世界秩序への挑戦を鮮明にしている。民主主義と人権を否定する中国政治の世界支配である。米欧が、危機感を持ち始めた背景には、習氏の抱く野望が顕在化してきたことにある。こうなると、米中は経済摩擦の段階に収まらず、政治的・軍事的対決に進む懸念が強まって来たと言えよう。すでに、「チャイナメリカ」などと言う、牧歌的な話でなくなっているのだ。

 

(1)「中国市場は観光業、自動車、スマートフォン、そしてITソフトウエアなど各分野で、世界で最も速く拡大している。ならば自国で経済活動をする条件は、中国が決めるべきだ――。中国政府はそう考えている。こうした動きは、欧米諸国が当初予測していた展開とは真逆のものだ。中国は成長するにつれ、その商業規格や政治的価値観は徐々に欧米に近づくとみられていた。2001年に中国が世界貿易機構(WTO)に加盟した時も、それが暗黙の取り決めではなかっただろうか? だがそうであったとしても、その取り決めはほごにされた。そして事情に精通している現地企業は、だいぶ前からこのことを理解している。最近になり、欧米政府も同じように事態の本質に気付き始めている」

 

習氏が主席に就任すると同時に、中国の経済政策は大きく切り替わった。巨大な中国市場を背景にして、観光業、自動車、スマートフォン、そしてITソフトウエアなど各分野で、中国がリーダーとして取り仕切る姿勢を強く打ち出してきた。世界との調和をうち捨てて、中国独自のルールで世界を動かす意志である。そのためには、欧米と対立も覚悟するという姿勢である。

 

(2)「米通商代表部(USTR)は先週のリポートで、中国のWTO加盟を当時米国が歓迎したことを非難した。自由市場を掲げるグローバルな貿易システムに中国が加わる意図はないとする悲観的な見方が欧米政府の間で広まるが、リポートはそれを反映したものだ。ホワイトハウスで中国のWTO加盟(2001年)について協議したエコノミストのダニエル・ローゼン氏は、『これは欺かれたわけではない』と主張。『(WTO加盟時の)中国はこれまでにないほど、歩み寄りの姿勢を見せていた』と同氏は書き、その根拠として中央政府が経済活動から手を引くこと、民間企業が飛躍を見せていたこと、そして外国からの投資に対して中国がもろ手を挙げて歓迎していたことなどを挙げた。(現在の)中国はその方針を変更した。これが実際のところだ」

 

USTRは先に発表してレポートで、中国が自由市場を掲げるグローバルな貿易システムに加わる意図はないと結論づけた。この悲観的な見方が、欧州でも広まっており、USTRのレポートはこの雰囲気を反映したものだ。習氏が、欧米と「別の道を歩む」決意をしたとすれば、大変な誤解と錯覚に基づく決定である。米国を含めたTPP(環太平洋経済連携協定)が発効するならば、中国はその時点で世界市場の4割を失うのだ。さらに、TPPへの新加盟国が増えれば、中国は完全に「日干し」同然になるリスクと隣り合わせだ。

 

中国は、これだけの危険にさらされながら、グローバルな貿易システムに背を向けて生きていけるはずがない。ここが、ナショナリストである習氏の限界であろう。米国のトランプ氏は、TPPから脱退する姿勢を見せて、中国に重商主義の道を選ばせておき、その後でTPPに復帰する形で中国を追い詰める戦略を取り始めた。

 

トランプ氏の大統領就任1年目で取り沙汰され始めたことは、彼は事前に計算し尽くした行動に従っているという説だ。「人種差別」発言は、批判されて当然だが、白人の持つ潜在的な危機感を捉える意図が隠されていると指摘されている。この点から、米国による中国への不退転の決意には、極めて深い要因が隠されていると見るべきだろう。

 

(3)「中国政府は180度方向転換し、今は国営企業が再び国の産業政策に基づいて躍進する。一方で民間企業は守勢に回り、外国からの投資にはより不寛容な対応が見られる。この変化のペースは習近平国家主席の下で速まっている。北京の中国政府指導部の観点からすれば、米国の資本主義と民主主義は自ら墓穴を掘り、ドナルド・トランプ米大統領は世界での米国の評価を地に落としているように見えるだろう。米世論調査会社ギャラップが最近行った調査によれば、米国のリーダーシップへの支持率は世界各国で急降下し、今は中国とほぼ同じレベルだ。習氏は米国が作り上げたテンプレートを破棄し、信頼できる代案として中国流の開発方針を押し通す歴史的な機会を迎えている。東アジアと欧州を交通やエネルギーインフラで結ぶ同氏の『一帯一路』構想は、これからの世界市場や投資環境を中国が再編させていけるとする自信の裏付けだ」

 

文明史的に言えば、ヨーロッパが世界における政治経済のリーダーシップを握ったのは、16世紀の科学革命や宗教改革による価値観の大転換である。これを生み出したものが、資本主義経済システムである。英国は産業革命を成し遂げ、それが欧米全般に普及していった。その間、中国はどうであったか。専制政治を続け科学革命や宗教改革と無縁なままに、現在の中国共産党支配の政治が継続している。

 

習氏は、「習1強体制」を築き上げ、もはや他人の意見を聞くこともない地位を確立した。それだけに、危険なゾーンに入っているのだ。政治的な過ちを過ちと認めない政治体制において、新重商主義の誤りからどうやって引き返すのか。それは、不可能である。間違えた路線選択を今後、ずっと続けざるを得ない。それが、「習1強体制」の辿る結末となろう。専制主義が、民主主義よりも優れているとすれば、清国が欧米を支配して当然であった。それが、逆の結果になったのは、専制主義が抱える本質的な欠陥である。習氏は、早くこのことに気づくべきであろう。

 

(4)「資本主義システムには『悪弊がはびこっている』――。 中国共産党の機関紙『人民日報』は論説でそう述べ、『新たな国際的秩序が芽を出そうと待機している』と続けた。世界第2位の経済を誇る中国は、間もなく(世界の)トップに立とうとしているが、その道のりは既存のものとは全く別物だ。双方が歩み寄るとする夢は散った。タカ派として知られるUSTRのロバート・ライトハイザー代表はもはや、市場開放に関して中国側から譲歩を引き出すことを狙った交渉すらしていない。同氏のリポートは、両国の経済が根本的に異なるものだとする確信を反映している。米中の経済は異なるルールで運営されており、ひとつは自由市場主義、そしてもうひとつは新重商主義だというのだ」

 

中国は、憲法を改正する。「習近平思想」を憲法に書き加えるためだ。その中身はなお定かでないが、習氏の主導する新時代の到来を強調するものである。生前に憲法に名を記したのは毛沢東と習近平氏だけである。毛沢東を礼賛した文化大革命(1966~76年)では、多くの犠牲者を出した。習氏の唱道する新重商主義は、文化大革命に次ぐ悲劇を中国にもたらす危険が大きい。世界の普遍的なルールである、自由なグローバリズムへ対抗する新重商主義が、生き延びられるとは思えない。ましてや、米国と政治的・軍事的に対決する姿勢を見せている以上、欧米が団結して中国へ対抗するのは当然の結末であろう。

 

先端技術の中国漏洩に敏感

『ロイター』(1月24日付)は、「米政権、超党派の外資規制強化法案を支持、規制当局の権限拡大へ」と題する記事を掲載した。

 

中国政府は、2025年を目標に「産業強国論」を打ち出している。自国に技術がないので窃取するか企業買収を目指している。そこで目をつけたのが米国企業である。中国の新重商主義の中軸にしようという企みである。米国は、すでにこの危険性に気づき対抗手段に出ている。

 

この記事は、米議会が超党派で中国企業による米国企業買収阻止を目指している点を明らかにしている。米国は、民主主義政治で国論統一が困難である。中国から、こう見透かされているとすれば奮起一番、見返してやろうということなのだろう。

 

(5)「米ホワイトハウスは1月24日の声明で、対米外国投資に関する規制を強化する議会超党派の法案を支持する意向を示した。外資による対米投資を巡っては、中国による米ハイテク企業買収への懸念が強まっている。法案は、外国資本による米企業の買収阻止に向けて外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化する内容。ホワイトハウスは同法案につい『国家の安全保障と長年にわたる米国の開放的な投資政策の維持という2つの目標を達成する』としている。法案は、共和党のコーニン上院議員とピッテンジャー下院議員が提出し、共和、民主両党の議員がスポンサーとなっている」。

 

中国による米ハイテク企業買収への懸念が強まっている。法案は、外国資本による米企業の買収阻止に向け、外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化する内容だ。細大漏らさず、中国へハイテク技術を渡してなるか、という気迫が感じられる。

 

米国は、中国企業の技術窃取にも目を光らせている。

 

『ブルームバーグ』(1月25日付)は、「中国企業、米機密盗んだ罪で有罪評決」と題する記事を掲載した。

 

①  「中国の風力タービンメーカー、華鋭風電科技がソフトウエアコードを組織的に盗んだとして米ウィスコンシン州の連邦地裁で有罪と判断され、貿易を巡る米中間の緊張が一段と高まる可能性がある。有罪評決が下されたことで、知的財産侵害と企業スパイを取り締まるとの中国の約束に対する疑念が高まった。技術窃取されたアメリカン・スーパーコンダクターのダニエル・マクガーン最高経営責任者(CEO)は、『中国で起きたことは犯罪だ。まさにトランプ政権にとっての貿易協議の動機だ』と述べた」

 

米国政府は、中国に対して「通商法301条」を適用し知財権侵害を調査している。その矢先に起こった技術窃取事件である。中国としては、これに勝る不名誉な事件はあるまい。

 

(6)「法案では、CFIUSの権限を拡大し、より小規模な投資案件を審査できるようにし、場合によっては拒否することも可能にするほか、審査において新たに安全保障面の項目を検討することも盛り込む。こうした項目には、社会保障番号など米国市民に関する情報が買収取引の過程で流出する恐れがあるかどうかや、案件が詐欺の増加につながるかどうか、といった内容が含まれる。CFIUSはすでに、ハイテク企業の買収案件で特に中国が絡んでいるケースには厳しい対応をすることで知られており、高度な技術を持つ半導体セクターでは買収を阻止している」

 

CFIUSの権限を拡大し、小規模な企業買収案件でも安全保障対策とも絡んで、厳密に調査する方向だ。主たる狙いは対中国である。米国が、ここまで中国に対して警戒姿勢を強めている事実を考えれば、習氏の夢は実現困難であることが一段とはっきりするだろう。中国の取り柄と言えば唯一、人口が世界最大ということだけである。それが、「身の程知らず」で、世界覇権に挑戦するのは、新興国の特色とは言え余りにも無謀である。

 

かつての日本がそうであった。国際連盟で、旧満州(中国東北部)からの軍事撤退を求められたが拒否。その結果、ABCDライン(米国・英国・中国・オランダ)によって、経済封鎖の処分を受けた。これを不服とする日本は、太平洋戦争に突入して自滅した。先日、亡くなった西部邁氏は、太平洋戦争を擁護していたが、日本の侵略戦争であることは間違いない。原因は、中国領土の満州へ日本軍と日本の農民が進出したからだ。

 

中国は、日本が過去に間違った道へ歩み出している。南シナ海を中国領海と言い出して軍事基地をつくっている。日本が中国領の満州を勝手に占領したことと寸分違わない行為だ。習氏は、この権益を守るために、新重商主義路線を固執し始めたのだろう。領土拡張が、中国の安保戦略と考えているようだが、19世紀的な発想法である。この矛楯に気づかないままに、「習近平思想」が、中国憲法に明記される。中国は、危険な道に迷い込んでいる。

 

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(2018年2月1日)

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