一瞬のシャッターチャンスを逃さない。 | B&Fab「本」と「ものづくり」と「珈琲」

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本(Book)とモノづくり(Fabrication)を中心に、人が集まり会話が生まれる憩いの場、そんな場所を作りたく、ただいま奮闘中!(または迷走中)

「えっ〜! 何これ!」

期待通りの反応である。初めて見た人は、決まってこういうリアクションをする。


日常で、これを見たことがない人はいないと思う。

だけど、ほとんどの人は加工したものは知っているが、その原形を見たことがない。

『コーヒー豆』

焙煎前の生豆(なままめ)は、焙煎した「コーヒー」と呼ばれるものとは別物である。

色は濃厚な褐色ではなくうす緑色、半分に割れたピーナッツのような形をしている。

香りは珈琲豆の最大の特徴である香ばしさは全くなく、青臭い匂いがする。

最初にこの生豆を見たときに「これがあのコーヒーになる」というイメージできない。

僕も最初に見たときは信じられなかった。


この生豆を、あの美味しそうなコーヒー豆にするのが焙煎だ。

通常、コーヒー豆を焙煎する方法は3種類あって、

豆の入った釜を直接熱する「直火式」

熱して高温になった空気を釜に送り込む「熱風式」

そのハイブリッドの「半熱風式」である。

「直火式」は熱効率が良く、コクがあり香りが高い仕上がりにできるのだが、煎りムラが出やすい。

逆に「熱風型」は熱が均一に伝わり煎りムラは出にくくなる。


コーヒー好きな人でも、焙煎までやったことがある人はどれくらいいるだろうか?

美味しいコーヒーにするためには、焙煎するときに豆に均一に熱を伝えること。

だから常に豆をくるくる回転させておく必要がある。

ちょうどフォークダンスのときに、くるくる回転しながら相手を変えていき、男女均等の組み合わせにするようなものだ。


手網で焙煎するときなどは、ずっと網を動かしていなければならない。

結構腕に負担がかかる重労働だ。安く簡単に鍛えるのにはいいのかもしれない。

焙煎するとチャフと呼ばれるコーヒー豆の薄皮が剥がれてくる。

手網の場合は、それが辺りに散らばってしまい片付けが大変なことになる。

そんな苦労をしてできたコーヒーは、愛おしい美味しさがある。

しかし「わざわざそこまでして……」という人の方が圧倒的に多いだろう。


焙煎しているときに一番楽しいのは、豆の色の変化だ。

うす緑色の生豆が、だんだん黄色味を帯びてくる。

しばらくすると、きれいな小麦色に成長する。

個人的な趣味もあるのだろうが、僕はこのあたりの色が一番好きだ。

そして日本人の肌からすると、少し焼きすぎだろうと思えるくらいの褐色になり、さらに続けると黒褐色になる。

コーヒーオイルが表面に浮き出て、黒光りする。

ここまでくるともう完全に別人である。


焙煎を見極めるのに重要なのは、色の変化ともう一つは「音」だ。

小麦色から褐色になる頃に「パチッ! バチッ!」という音がなる。

これは豆に含まれる水分が気化して豆の中で膨張し、その圧力で豆が破壊されて「爆ぜる」音で「1ハゼ」と呼ばれる。

中高生の成長期に起こる、膝などの痛みに似たような現象だ。


「1ハゼ」はいったん鳴り止むが、焙煎を続けると再び「爆ぜる」音がする。

今度は「ピキッ! ピチッ!」という高めの音だ。これを「2ハゼ」と呼ぶ。

この「1ハゼ」と「2ハゼ」の間のどこで焙煎を止めるかが、コーヒーの味を左右する。

止めるタイミングによって「浅煎り」「中煎り」「深煎り」が決まるのだ。

目安としては「1ハゼ」が終わったあたりが「浅煎り」

「2ハゼ」が始まるあたりが「中煎り」

「2ハゼ」が終わったあたりが「深煎り」となる。


この焼き上がり直前の変化は、ほんの一瞬で変わってしまう。

どこで焙煎を止めるかが、味を左右する上で重要なポイントだ。

自分が思った通りの好みの状態の一瞬を見極めるため、全神経を集中させる。

カメラマンが撮影をするときに、被写体が一番輝く瞬間を逃さないのと同じと言えるかもしれない。


最近の焙煎機では、温度と時間がデジタル設定できるため、比較的簡単ではあるのだが、

それでも、豆の状態や気温の変化によって、焼き上がりは変わってしまう。


本当に美味しいコーヒーを作るのは、豆や機械や技ではなく、焙煎する人の魂なのかもしれない。

「う〜ん、奥が深いなぁ」


(了)