夏の暑い日にエアコンのない部屋で、読書に集中する。
それは精神修行のごとく、キンキンに冷えたビールや涼しく快適なカフェ、そしてバカンスに行きた〜い誘惑を振り切って、ひたすら本を読む。
この夏を制するための読書、略して夏読シリーズがスタート(自分だけの世界です)。
前回のブログ => 「夏に読んでおこう!この10冊」
1冊目を読了しました。
まっ直ぐに本を売る 石橋毅史(著) 苦楽堂
これは単なる偶然なのか、それとも神の導きとも思える運命的な出会いなのか。
な、なんと下北沢の本屋B&Bで開催されているトークイベントに、著者の石橋毅史氏が登壇されるとの情報を入手!
7月8日(金)夜に行き、話を聞き、本を買い、サインをもらい、本人と話もでき、とても充実して、そして一気に読みました。
本書にも書いてあるのですが、著者の経歴がなかなかおもしろく、
最初に小規模の出版社(Y社)に入社し、営業職に就きます。
出版社の営業とは、いわゆる書店ルートセールスです。
売れる本かどうかは関係なく、とにかく書店から注文を取ってくるのが著者のミッション。
書籍流通は委託販売という形態が多く、売れなければ(書店が売れないと思えば)返品されてしまいます。
ですので、なるべく返品もされないように多く注文を取るという、ある意味カミワザ的なかつ精神的負荷の大きな仕事をこなす毎日、当然のように長くは続かず体調を崩し退職することになります。
その後、出版業界紙「新文化」(今回初めて存在を知りました)を発行している新文化通信社に入社、一転記者として再出発することに。
出版不況といわれているが、なかなか変わることのできない出版業界の問題や、小さいながらも新しい取り組みに積極的な会社を取材していく中で、本書執筆のきっかけとなったトランスビューという小さな出版社に出会います。
そして月日は流れ、編集長まで務めた新文化通信社を退職して、フリーライターに転じた著者。
これまでに「本屋は死なない」「口笛を吹きながら本を売る」と本屋に関する本を書き、そして今回は出版社のあり方について問う本書を書きました。
〜 ここから本書の本題 〜 これから読まれる方はパスしてくださいm(_ _)m
トランスビューという会社、法藏館という出版社から独立した中嶋廣氏と工藤秀之氏で立ち上げた小さな出版社。
中嶋氏が編集担当、工藤氏が営業担当として完全分業されていて、工藤氏がとった営業方針が、本書のタイトルにもなっている「直」にこだわるということ。
「直」とは直取引(チョクトリヒキ)のことで、通常出版流通では、出版社と書店の間に取次(トリツギ)と呼ばれる問屋(大手では、トーハン、日販、大阪屋栗田など)が介在するが、直取引は出版社と書店が直接契約し売買することを言う。
なぜトランスビュー工藤氏が直取引にこだわるのか?
それは、書店の利益を上げるため。
現在の取次を通した契約では、書店の利益は書籍の定価の約20%しかない。
それを30%まで高めようというのが本書でいう「トランスビュー方式」の根幹。
多くの出版社から毎日たくさん発行されている書籍・雑誌と、全国に約1万4千店ある書店をつなぐためには、個々の契約は面倒であり、ゆえに問屋(取次)の果たす役割は書店流通においては必須である。
そのようにずっと思わてきた出版流通に、一石を投じるトランスビュー方式。
とにかく徹底的に愚直に合理化にこだわり、書店の利益を確保することだけに全力を注ぐ工藤氏の勇気ある行動が、まっ直ぐです。
〜 ここまで本書の真髄 〜
さて、最後に私の感想を。
出版社はこうあるべき、書店経営はこのように考えるべし、という上から目線的なことではなく、本書でいう「トランスビュー方式」という出版社と書店の直接委託販売契約が、なお一層厳しくなることが予想される出版業界の、ひとつの大きな指針になるのではないかとういう投げかけです。
私はこの「トランスビュー方式」がいいとか悪いとかよりも、工藤氏の愚直な行動にたいへん感銘を受け、読んでいて涙が出そうになりました。
経営に苦慮している書店に、少しでも利益を還元するために、出来うる限り合理化を行い、少しでも多様なニーズに応える。自らの利益を削ってまでも。
これからの社会は「協働」「協存」「協活」を目指していかなければなりません。
トランスビューはそれを実践しているフロンティアであることは、間違いありません。
最後に、著者の石橋毅史さん。
とても腰の低い謙虚な方で、私の愚問にも丁寧に応えていただきました。
ありがとございました。
これからの出版業界が繁栄することを願って。
(了)