ゴルフの物理 | 「かつのブログ」

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ごく適当なことを、いい加減に書こうかとw

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物理とは何か?


物理とは読んで字の如く、“もののことわり” を表します。物理学とは、それ以上の原理に遡ることの出来ない、自然科学における最終法則です。(数学は、不思議な事にそれで物理法則を表すことができますが、本質的には人間の考えた、ある種の哲学的な理念であって、「自然」の法則ではありません。だから、物理が数学の基本に遡る、というのはありません。)

本ブログのような数式が出てきた時点で放棄する人もあれば、説明不足で理解しきれない、と思う人もあるようで、難しいところですが、高校の数学と物理の知識があれば理解できる程度で、もう少し突っ込んだ説明をしてみたいと思います。と言うのは、遠心力を大幅に誤解して、それが力積になるなんてトンデモな話を聞かされたのでw

 

 


 

 

 

運動量と力積


先ず最初に、運動量と力積について説明しましょう。
本ブログで何度か書いたように、飛距離(正確に言えば、ボールの運動量の初期値)は力積に比例します。

 1. 運動量
運動量というのは、質量と速度の積です。例えば、重さ m[kg] のものが速度 v[m/s] で飛んでいるのと、重さ 2m[kg] のものが速度 v/2[m/s] で飛んでいるのが同じ運動量だ、というのは感覚的に納得できるんじゃないでしょうか? 

前回説明した「運動エネルギー」がスカラ量であるのに対して、「運動量」はベクトル量ですから3次元空間における方向を持ちます。因みに、速度(Velocity)と言うのは方向を持ったベクトル量、速さ(Speed)とはそのスカラ量を表します。高校物理では、ベクトル量とスカラ量の扱いが曖昧というか、一次元で方向が正か負かだけを問う問題が多かったように思いますが、正確に言うとこういう違いがあるということです。

 2. 力積
力積とは、力と力を加えた時間の積です。ボールの運動量と力積の関係を式で表すと、与えた力積が運動量に等しいというのは、
FΔt = mv   ・・・eq .1

という事です。これ、非相対論的古典力学の第2法則(運動方程式)そのものとも考えられます。
ニュートンの第2法則、F = m・a は高校を出た人なら、誰でも知っていますよね。ここで加速度 a は、v の時間での全微分ですから、
a = dv/dt = v/Δt ですわな。だから、F = mv/Δt になりますよね?
つまり運動方程式の両辺に Δt を乗ずれば eq.1 が導かれる、ということです。

 3. 運動エネルギー
因みに、運動エネルギーというのは運動量の積分値です。速度とは変位の時間微分ですから、eq.1 の両辺を時間で積分すると

 U = 1/2mv2   ・・・eq .2

が運動エネルギーですわな。高校物理ではこういうことを教えないのですが、高校数学の範囲内だし、教えても良いと思うのですけどw 
ただ、なんでベクトルを積分するとスカラになるんだ、と思うかも知れませんが、これはちょっと高校の範囲では説明が難しいのですが、v2 ってのは要するにベクトルの内積なんですわ。
つまり v2 = (vx・vx + vy・vy + vz・vz)    だってことです。

例えば、シャフトに蓄えられた力学的エネルギーは、その撓りが保たれていれば、蓄えた力とは違う方向に放出できるでしょ? ってことは、これはスカラ量であってベクトル量では無い、という事ですね。まあ eq.2 は運動エネルギーで、シャフトのそれは弾性エネルギーで違うのですが、両者共に力学的エネルギーです。
  

 

 

運動量保存の法則


運動エネルギー、というか正確に言うなら力学的エネルギーは、完全弾性衝突の場合にのみ保存されますが、運動量は常に保存されます。
今、質量 m1 及び m2 の物体が衝突したと仮定します。運動量保存の法則とは、速度v1v2 を持つ二つの物体が、衝突後にそれぞれ速度 v'1 及び v'2 になったとした時に、
m1v1 + m2v2 = m1v'1 + m2v'2   ・・・eq.3

となるということです。つまり、運動量の総和が変化しない、という意味です。これが意味することについて考えてみましょう。左辺の式は、ぶつかる前の各々の運動量を示していますよね。さて、eq.1 では、運動量が力積に等しかったわけですから、その運動量でぶつかると言うことは、これがお互いに与える力積そのものなわけです。

だからまあ、運動の第3法則(作用・反作用の法則)の、力積への拡張とみることもできますが、より本質的には、第2法則から加速度を時間で積分すると速度になりますから、ぶつかった前後での運動方程式の両辺を積分したもの、と考えた方が良いでしょう。このように、実は全て同じ式から導かれていて、アノ式とコノ式が別で、アッチとコッチは別の計算、みたいなことでは無いのですが、高校ではこういう事は教わりませんね。

第2法則から言って、力ってのは加速度がないと働きませんわな。(犯罪の影に女あり、加速度の影に力あり、と言いますw) 慣性運動(等速直線運動)する物体には加速度はありませんが、慣性によって運動量を持つ物体同士がぶつかった時に、両者の速度は変化するわけですから、つまりそこには加速度があるわけでしょ? 力積を使って、それを表すことができる、ってことです。

ゴルフの場合には、ボールは初めは止まっています。ですから eq.3 の左辺の v2 はゼロです。ですから、クラブ・ヘッドの持つ運動量が力積になります。但し、前回書いたように、ゴルフクラブのシャフトはそれ自体が仕事をします。(物理学で言う「仕事」とは、「一定の力Fが作用して変位 s が生じるとき,その変位方向の力の成分とその変位の大きさとの積、F・s」と定義 されます) シャフトに蓄えられたエネルギーをインパクトで開放する時に、ヘッドに加速度が生じます。それがうまく使えれば、少しだけ余計に飛びますw ヘッドを加速することで、力積を大きくする事ができるからです。

前のエントリーで、遠心力は無関係だという話をしましたが、何故、関係しないのかと言いますと、ベクトル成分が直交するからです。
直交する、というのは読んで字の如く直角に交わることで、そもそもが円運動する物体に働く直交成分の力が遠心力なんですから、遠心力で飛ばすなんてあり得ないのですよ。

ヘッド・スピードが同じでも飛ぶ人と飛ばない人がいます。これは、先ず一つには速さが同じでも速度ベクトルが違うからで、つまりベクトルの方向の問題です。三次元的に、ボールの飛び出し方向に一致したヘッド軌道であればその速さはそのままボールを加速しますが、極端に上から入ったりカット軌道になったりすれば、ボールのベクトルは方向が違うので、大幅にロスが生まれるのです。

ただ、ベクトルの方向は完全に一致していれば良いとも言えません。それはボールが空気中を飛翔する場合、マグヌス力による揚力を得る為には一定のバックスピンがが必要になるからですが、この説明は高校物理の範囲を外れるので除外しますw ヘッドスピードによっても変りますが、普通の人はインサイドインで水平から軽いアッパーブローが一番飛ぶんだと憶えておけば良いのではないかとw

ただですね、ボールのディンプルの違いはレイノルズ数を変えます。これは、個々人のスイングによって、適正値は違うので、誰にでも適合するボールってのは無いはずなんですよ。ヘッドスピードが同じでも、バックスピンの多寡とか飛び出し角度とか、気温でも違うと思います。だからボールは自分で探すしかないんじゃないかと。

そしてもう一つはシャフトのエネルギーの利用です。

 

 

 


 

 

 

反発係数


反発係数というのは、ゴルフではヘッドの規制で知られるようになりましたが、これと運動量保存則から、ゴルフで言うインパクト効率を求めることができます。

反発係数が 1 の場合を「完全弾性衝突」と言って、この場合にのみ力学的エネルギーが保存されますが、地上ではほとんど存在しません。では力学的に保存されない残りのエネルギーはどうなるかと言うと、熱や音や光になります。何故なら、エネルギー保存の法則自体は常に成立していますからね。力学的エネルギーが減ったということは、非力学的なエネルギーに変換された、ということです。

物理で言う反発係数というのは、二つの物体が衝突した場合、各々が速度 v1v2 を持っていて、衝突後にそれぞれ速度 v'1 及び v'2 になったとした時、

 

    ・・・eq.4


と定義されます。 e = 1 の場合を特に完全弾性衝突と言います。式を見ると、反発係数は質量に拠らず速度の差が定数になる、というのが面白いところです。実際に完全弾性衝突になるというのは、宇宙空間で惑星の重力に捉えられてから脱出するようなケースであり、宇宙船のスウィング・バイ(ゴルフ・スウィングじゃないですよw)に使われて、宇宙船の速度を増減します。惑星の位置エネルギーと、宇宙船の運動エネルギーの交換です。

さて、ゴルフの場合ですが、初期値としてはヘッドが動いていてボールは止まっています。従って、ヘッドの速度を v1、ボールが初期値 v2 = 0 で 、衝突後にそれぞれ速度 v'1 及び v'2 になったなら、、

 

    ・・・eq.5


絶対値を取っているので eは必ず正の値ですが、明らかにボールの飛び出す速さ v'2 はヘッドの v'1 よりも大きいので、符号は逆になります。

 

 

また、最初に説明した運動量保存の法則は常に成り立ちますから、eq.3 にボール初期値である v2 = 0 を代入して、
m1v1 = m1v'1 + m2v'2   ・・・eq.6

eq.5 と eq.6 を連立させて解くと

 ・・・eq.7

を得ます。ヘッド質量 m 1 はドライバーの場合で200g 前後、ボールは45.93g です。また、反発係数 e は0.83以下とルールで規定されています。従って、eq.7 にヘッド質量 0.2kg、ボール 0.046kg、反発係数 0.83 を代入して


 

を得ます。つまり、基本的にはボール初速は、最大でもヘッドスピードの 1.48倍くらいまで、という事になります。この係数(倍率)のことを、ゴルフでは俗にミート率、なんて言っています。

「あれ、プロのミート率は最大では 1.5 を超えるくらいまで行くじゃないか」って? つまりそれがシャフトの力を使うってことです。シャフトの力で Δt を大きくしているんですね。でも、定量的にみると、第一義的にはやはりヘッドスピードでシャフトの影響は僅かだということですね。いくら上手くシャフトを使っても、1.6倍になったりはしませんからw  USツアーのデータでは、最も効率的な人で、1.51倍くらいらしいですから、1.48倍よりも増えた分が、シャフトの仕事ということになります。

同じ程度であると仮定すると、シャフトがうまく使えれば、40m/s のヘッドスピードの人で 5y ほど伸びることになります。
但し、これは米国男子プロの高いヘッドスピードと硬いシャフトの場合なので、柔らかいシャフトで遅いヘッドスピードならもう少し効果が大きいかも知れません。
それと、
シャフトの影響はΔt を大きくするのみならず、シャフトを使うことでヘッドスピードそのものが上昇している可能性もあるので、単純にシャフトの影響がこれだけしかない、と言う意味ではありませんよ。シャフトを代えることでヘッドをより速く振れれば、より飛ぶのは自明の理ですからね。

また逆に、ヘッドスピード最速の点がインパクトよりも遥か前にあって、負の加速度で(つまり減速しながら)インパクトを迎えれば、逆にもっと飛ばなくなるわけでして。

閑話休題、最近のレーダー測定器はヘッドスピードがきちんと測れない(ボールスピードは正確のようです)ので困ります。私は、PRGR の製品で測ったら初速が出ない筈のレンジ・ボールで最大値は 1.65倍くらいでした。物理的にあり得ないですw もしかして私には超能力があるのか?w

 

 

ヘッド質量とヘッドスピードとの関係


ここで一つ面白い話を。運動量保存の法則からすると、ヘッド質量 m1 を大きくしても v1 を大きくしても同じに思えてきます。しかし、eq.7 にヘッド質量を5%減らして190g にした場合を代入すると  v'2 = 1.473 v1  となるので、ボールスピードは 0.5% も変りませんが、式から明らかなように、ヘッドスピードが 5%増えればボールスピードは 5% 以上増えます。つまり、もしも力が無くてヘッドが重いと遅くなる場合には、ヘッドは軽くしたほうが飛ぶってことですね。

但し、物理的に同じ力なら軽いほどヘッドスピードが出ると思い勝ちですが、実は人間が振るとそうは行きませんw だから、ヘッドスピードが速くならない限界の重さ(或いは遅くならない限界の軽さ)のヘッド重量が、その人の適正値、ということになります。

 

 

 

 


 

 

 

力積と撃力


ここで、話を最初の力積に戻しましょう。
本ブログで何度もお話しているように、飛距離は力積に比例します。そしてその力積を大きくするためには、

1. ヘッドスピードを速くする
2. シャフトの弾性エネルギーを上手く使う

の二つが影響を与える、と説明してきました。運動量とは力積そのものですから、ヘッドの質量を大きくするかヘッドスピードを上げるかですが、既に説明したように質量の影響は小さいので、ヘッドスピードを上げたほうが宜しいです。因みに、この衝突の力を物理学では「撃力」と言います。

シャフトの弾性エネルギー、1/2kx2 は、既に以前のエントリーでお話したように、柔らかいシャフトをできるだけたわませれば大きくなります。にも関わらず、何故プロは硬いシャフトを使うのか?
柔らかいシャフトが、飛球線方向にだけ撓ってくれれば問題ないのですが、ヘッドが下がる方向にも動きます。ゴルフで言う、トゥー・ダウンです。ヘッドはシャフトの端についていますから、ヘッドが大きくてヘッドスピードが速いほど大きくトゥー・ダウンします。つまり、コントロールを失ってしまうから、ヘッドスピードの高いプロは、柔らかいシャフトが使えないのだろうと思います。

先の計算からもお分かりのように、シャフトの弾性の影響よりもヘッドの運動量の方が影響が大きいわけで、更に言うなら、誰でもご存知のように、ヘッドの打点(スウィート・スポット)は、ヘッドスピード以上に影響が大きいわけですから、ヘッド位置を確実に制御したほうが有利なのでしょう。

だからスイートスポットで気持ち良く打てて、ボールが曲がらず振りやすい範囲での柔らかいシャフトを、という事になると思います。
長々と計算した割に、シャフト選択の結論は普通の話になってしまってすいませんがwww


撃力は、実際にはヘッドの運動エネルギーとシャフトのエネルギーでボールを潰すまでを頂点して徐々に大きくなり、その後ヘッドの速度が落ちてボールが離れて行くまで徐々に減衰していきます。その形状はベル・カーブになります(下図)。


















力積というのは、積算されます。つまり、ある物体に1[Ns]を三回加えるのと、一回3[Ns] を加えるのとでは同じです。だから、これは積分されるということであって、オレンジの四角形のように、ブルーの線との面積が等しければ、一定の力がある時間に加えられた、と考えても同じです。

ただしこのグラフ自体は説明の為に適当に作っていて、時間とかは本当の値ではありませんw 
実際に Δt がどのぐらいかと言いますと、何処から出てきたのが不明なデータによればw、5 [ms]  くらいなんだそうですわ。

ざっと計算すると、ヘッドスピードが 40m/s 程度なら、反発係数のところで計算したように、ボールの初速はその1.5倍で、約60m/sです。
すると、ボールの質量 0.046[kg] ですから、ボールに与えられた撃力(力積)は、、0.046・60 = 2.76 [Ns] ぐらいですわな。

するってぇと、グラフの赤の四角形の幅が 5msec ですから、 力の平均は 550[N] くらい、SI 単位系ではなく [キログラム重] で言えば、大体 55[kgf]  くらいですかね。
雑巾王子が 1トンとか書いてたけど、どっから出てきた数字なのかしらん?w