電車が駅に到着した。

 

目の前には見慣れた光景が広がっていて、『帰ってきた』という気分になる。

いつもは夏休みだけの帰省だったので、一年中その日が来ることを待ち侘びて過ごしていた。

 

帰省から戻ったばかりの時期は、もう1年頑張らなければならないのかと思うと酷く落胆した。

しかし、今回は違う。

 

つい先日帰省したばかりで、戻ってからすぐにこんなことになってしまった。

「また来年ね」

と別れたはずの父と母に、これほど早く会えることになるとは。

 

やはり嬉しい気持ちもあったが、反面これからのことを考えると何から手を付けたら良いのかが分からずに途方に暮れていた。


改札口を抜けると正面に母が立っていて、こちらに手を振っていた。

 

少し古びれた駅の窓から入り込む陽の光が、母の顔を照らしている。

 

いつもと変わらない様子で笑顔だったが、内心は心配していたに違いない。

せめて『平気なフリ』をしなければ。

 

傍から見たらもう既に十分にボロボロで弱り切っていることは明らかなのに、まだそんなことを考えていた。

何だか気まずくて母の顔を見ないようにしながら、

 

「こんな時間にゴメンね~」

 

と言い、意味もなく手に持っている荷物を持ち替えたり、UVカットパーカーのジップを上げ下げしてしまう。

私のそんな様子など気にも留めない様子で、

「さっ、行きましょ」

 

と母は先頭に立って歩いた。

 

 

 

 

一緒にエスカレーターに乗って下り駅から出ると、父が車の運転席に座ってこちらを見ていた。

 

その顔を見た途端、更に申し訳ないような恥ずかしいような複雑な気持ちになって心臓がギュッとなったが、懸命にいつも通りに振舞った。

 

車に乗り込む時、息子はとても嬉しそうで、率先して助手席に座っていた。

「とにかくね、今日必要なものを買ってこないとね」

と母が言う。

 

そう言えばコンタクトレンズのケア用品を持って来なかったし、歯ブラシもこの間の帰省の最終日に捨てた。

私たちはそのままドラッグストアに向かい、必要なものを購入して再び車に乗り込んだ。

 

二人ともまだ少し気が張っていたのだが、そんなことはお構いなしに母が話し続ける。

「遅くなっちゃうからお昼ご飯は外で食べて行っちゃいましょうよ」

「○○(息子)ちゃん、上着持って来なかったんじゃない?こっちは朝晩少し肌寒いから上着も午後から買って来なきゃね」

いつもおしゃべりな母だが、その日は一段とおしゃべりになっているように感じた。

もしかしたら私たちに気を使っているのかもしれない。

 

安心して過ごせる実家に帰ってきたというのに、消え入りたいような気持ちでいっぱいだ。