【 性の神経は 上書き保存 ”再学習” できる 】
性交痛で中枢感作が成立した
女性のセックス拒否は、
感情でも愛情の欠如でもなく。
.
脳・脊髄が
「性交は危険だ!」と認定した
本能的 ”危機回避判断” です。
.
痛みは「入力の強さ」だけで決まりません。
脳は、過去の経験をもとに
「次に起きる痛み」を予測します。
.
その予測が強いほど、
扁桃体が感じる恐怖と不安が募り、
同じ刺激でも痛みは増幅します。
(予測と文脈によって痛みは変わる)
.
一方、
男性側では、セックスに誘って
「今夜こそドーパミン報酬が返ってくるはずだ」
と期待(予測)したにもかかわらず、
現実には拒否が続く。
.
この予測と結果の乖離が積み重なることで、
やる気・決断力・判断力が
静かに削られていきます。
.
では、この連鎖は止められないのか。
.
答えは、
「条件が変われば、止められる」です。
.
■ 救済の大前提
「説得」「我慢」「優しさ」は効かない
.
まず、
一番重要で基本的なことですが、
一般には知られていない事をお伝えすると。
.
・もっと優しくすればいい
・我慢すれば、そのうち戻る
・話し合えば分かり合える
・時間が解決する
.
これらは、
中枢感作にも、ドーパミン予測崩壊にも
効果がありません。
.
なぜなら中枢感作とは、
侵害入力(性交痛)が繰り返されることで
中枢(脊髄後角〜脳)の痛み興奮性が上昇し、
.
・痛覚過敏
・アロディニア
・時間的加算
.
といった反応が
神経回路として固定化する現象
(神経の質そのものが変性した結果)
だからです。
.
これは「意思」や「努力」では改善しません。
改善するには、
”新しい”神経の上書き保存が必要な状態です。
.
■ 中枢感作を解除する唯一の方向
脳は「痛くない」より「制御できるか」を見ている
.
中枢感作がある脳が評価しているのは、
実は次の3点です。
.
この刺激は本当に安全か
自分が主導権を持って止められるか
拒否しても不利益が起きないか
.
このうち一つでも欠けている限り、
脳は警戒を解きません。
.
中枢感作が起こった脳では、
痛みは「出来事」ではなく、
“危険の予測”として処理されています。
.
その予測の中核にあるのが
前部島皮質であり、
.
セックスが始まる前の段階で
その行為が
「痛いか/痛くないか」を
予測・評価しています。
.
ポイントは「痛くないこと」ではない。
「いつでも止められる」こと
(コントロール感)です。
.
■ 救済が始まる“最初の一歩”
それは「性交再開」ではなく「条件の再設計」
.
救済が始まるのは、
性交を再開した瞬間ではありません。
.
最初に必要なのは、
.
・挿入を目的にしない
・結果を期待しない
・途中でやめても問題にならない
.
という条件での
身体接触の再設計です。
.
このとき、女性の脳は初めて
こう判断します。
.
「今回は、逃げなくていいかもしれない」
.
ここで初めて、
島皮質の痛み予測が弱まり、
扁桃体と自律神経の警報連結が鎮まり、
.
防御反射(骨盤底筋の過緊張)が
下がり始めます。
.
実際、誘発性前庭痛などの性交痛では、
骨盤底筋理学療法が
痛み・性機能・心理面の改善と
関連することが報告されています。
.
■ 男性側のドーパミン回路
「予測可能性」が回復させる
.
この条件変更は、
男性側の脳にも重要です。
.
・期待しても裏切られない
・拒否=否定ではない
・行動しても傷つかない
.
この経験が積み重なることで、
報酬予測誤差が減少し、
.
ドーパミンは
「予測可能な報酬」として
再学習されていきます。
.
慢性痛は、痛みそのものだけでなく、
報酬・動機づけ回路
(メソリムビック系〜前頭前野)と結びつき、
.
意欲や判断に影響することが
神経科学的に整理されています。
.
つまり、
条件を変えると、
痛みの回路と意欲の回路は同時に動く。
.
その結果、
.
・やる気
・決断力
・判断力
.
が、性生活だけでなく
日常生活や仕事にも戻り始めます。
.
■ 救済とは「元に戻す」ことではない
"新しい安全回路"を作り直すこと
.
多くの人は言います。
「前みたいに戻りたい」
「昔はできていたのに」
.
しかし医学的には、
神経の質が変化した事実は消せません。
.
だから、
かつての延長線上に
成功点はありません。
.
必要なのは、
新しい回路を作り直すこと。
.
・挿入はしなくていい
・愛撫だけで終わっていい
・痛いと言ったら、即やめる
・性以外の方法で
安心やつながりを感じる体験を共有する
・小さな成功体験を、積み重ねる
.
そうやって、
覚えてしまった回路の上に
新しい安全回路を上書きしていくのです。
.
参考文献
Woolf CJ. Central sensitization: Implications for the diagnosis and treatment of pain. PAIN, 2011
Wiech K, et al. Anterior insula integrates salience into perceptual decisions about pain. J Neurosci, 2010
Wiech K, Tracey I. Neurocognitive aspects of pain perception. Trends Cogn Sci, 2008
Apkarian AV, et al. Towards a theory of chronic pain. Prog Neurobiol, 2009
Mansour AR, et al. Chronic pain: the role of learning and brain plasticity. Trends Neurosci, 2014
ポチっとおしてね↓
■富永喜代プロフィール
ーーーーーーーーーーーーーー
医療法人TMC(Tominaga Medical Communication)理事長。
富永ペインクリニック院長。医学博士。
465gの赤ちゃんから104歳の高齢者、
FIFA日本サッカー代表などのプロアスリート選手など、
(通常1日2人のところ)1日平均12人、
2万人超の臨床麻酔実績を持つ。
YouTube 総再生回数 7400万回突破。
チャンネル登録者数 30万人。
SNS総フォロワー数 45万人。
経済産業省
『平成26年度健康寿命延伸産業創出推進事業』を
委託されるなど、痛み最新医療のリーダーとして
注目されている。
確かな腕とユニークなキャラクターが人気を呼び、
NHK「おはよう日本」
などのテレビ出演多数。
肩こり改善メソッドの処女作
「こりトレ」(文藝春秋)は10万部など、
累計 100 万部の著者である。
