妊娠常服 当帰散 | 松山市はなみずき通り近くの漢方専門薬局・針灸院 春日漢方

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妊娠常服 当帰散

 

数年前に作った「当帰散」が、11月中に無くなったので、また作ることに。

「当帰散」は、漢方の古典『金匱要略』の婦人妊娠病編に、

「婦人が妊娠すれば、常に当帰散を服用するのが宜しい。」と、

いたってシンプルな効能が書かれています。

 

婦人妊娠病編には、他に9種の処方が出てきます。

たとえば、婦人科の漢方薬で一般の方でも知っている「当帰芍薬散」は、妊娠中にお腹が痛い時の処方としてです。

他に妊娠中に嘔吐が止まない、つまりツワリの処方とか、妊娠中の下血の処方、浮腫みの処方、また流産予防の処方などが書いてあります。

妊娠中に何か、病気が起これば、それらの処方で治します。

 

しかし、「当帰散」だけは、特定の症状が書いてなくて、「妊娠したら、常に服せば、即ちお産を軽くし、子に病気なし。産後の百病もことごとく治す。」と書いてあります。

妊娠したら、取りあえず、ずーっと飲んどけば、お産は軽くなるし、産後の肥立ちも良いですよ、というけっこうなお薬です。

 

「当帰散」は、5種の生薬でできています。

 

上左から、「当帰」「芍薬」「川芎」「黄芩」「白朮」。

分量は、最後の「白朮」がほかの薬の半量です。

 

この生薬を、まず台湾製強力ミキサーで、粗い粉末にします。

 

 

強力ミキサーの中に生薬を入れて、蓋をしたら、スイッチを一瞬いれて、すぐ止めます。

一瞬、スイッチを入れると、惰性で4~5秒、モーターが回転します。

それを20回ほど繰り返すと、このように。

 

 

なぜ、スイッチを何度も切るのかというと、高速で回転するモーターが、すぐに発熱するからです。

モーターの温度が上がると、劣化も早まるのではないかと。

 

また、ミキサーの中の温度が上がると、生薬から水分が出て、粉が周りにくっついて、余計に手間がかかるようになるからです。

 

引いた粉を、ふるい器に入れて、メッシュを通します。

 

粗い粉末といっても、どのくらいの粗さかというと、

 

 

この3枚のメッシュ。どれも同じに見えますが、左から右に、「目」が粗くなっている。

左のいちばん「目」の細かいメッシュは、まるでハトロン紙を触っている感触。

真ん中の2番目のメッシュは、生薬の粉末として、これを通せば、まあ飲めはする、という細かさ。

いま、粗い粉末にするというのは、右の3番目の細かさのメッシュを通すことです。

 

 

生薬の、30グラムほどをミキサーにかけて、ふるい器に入れて、叩いたりゆすったりして細かくなったものは、メッシュを通ります。

通らなかった物がこれくらい。

 

 

メッシュを通らなかった物は、またミキサーに入れて、粉砕して。

これを300グラム、すべてを粉砕するまで繰り返します。

 

「当帰散」の5種の生薬は、「白朮」はやや油っぽい、「黄芩」は繊維が多い、「当帰」「川芎」は粘着質、というわけで、強力ミキサーで引いても、3番メッシュを素直に通りません。

 

 

やはり、300グラム、全部をメッシュに通すのは無理ではあります。

およそ、1時間かけて、写真の左の山、290グラムが、規格のメッシュを通り、写真の右、残り10グラムが、メッシュに通らなかった。

残ったものの内わけを見ると、「黄芩」か「白朮」の繊維成分と「当帰」「川芎」のなかの結晶細胞でしょうか。

 

写真ではけっこう細かい粉末に見えますが、これを口に入れると、かなりザラザラ、ガシャガシャして、このまま飲めるものではありません。

 

 

この粉末をポッドミルに入れて、約半日、ゴロゴロ回して、メリケン粉くらいの細かな粉末に仕立てます。

 

このポッドミル、中に放りこんで回せば、なんでも粉末になりそうですが、そうはいかない物があります。

前回、「当帰散」を作ったとき、「白朮」の代わりに「蒼朮」を使いました。

 

「白朮」と「蒼朮」。 

ほとんど同じ物に見えますが、別の生薬です。植物的には、近縁ですが。

「蒼朮」のほうが、黒っぽく見えます。油脂成分が多く、生薬のケースの内側に精油分がこびりついています。

「蒼朮」の油分の粘りが、他の生薬の粉末をくっつけて、ポッドミルの内壁に固まって貼りついて、一晩、ゴロゴロ回しても、細かい粉末になりませんでした。

それで、何度もポッドミルを開けては、壁に貼りついた固まりを崩しては回し、をくり返して、1日がかりの仕事になりました。

 

しかし,もっと粉にならない生薬はこれです。

 

 

アーモンドみたいに見えますが、左が「杏仁」、右が「桃仁」。

アンズやモモの種のなかのお宮さんの部分。

これはミキサーにかけても、ピーナッツバターのようになるだけです。

 

これを粉末にしようとすると、他の生薬の粉末を作って、そこに少しずつ「杏仁」「桃仁」を加えて、油分を他の粉に吸着させながら、粉にします。

 

ポッドミルを一晩、回して、微粉末の出来上がり。

前回のことがあるので、心配しましたが、「白朮」を使ったから、油分も少なく、素直にメリケン粉くらいの微粉末になりました。

 

これで『金匱要略』の「当帰散」は出来あがりなんですが、こんどは、粉として細かすぎて、飲もうとして口に入れても、水に浮かんでパフパフして、飲み込めません。

それに、「黄芩」が苦いし、「川芎」は臭みが強くて、とても飲みやすい味ではありません。

 

これを飲めるような顆粒状に仕立てます。

 

 

できた微粉末を、50%のアルコールで練ります。

 

 

アルコールの量は、微粉末とほぼ同じ量を使うのですが、固さの加減を見ながら、少しずつアルコールを加えていきます。

 

 

アルコールで練った微粉末の固まりを、お菓子作りに使う裏ごし器にかけます。

少量の練った固まりを、木ベラでメッシュに押し付けて、通します。

 

 

メッシュの裏から、小さな細い固まりになって出てきたものを乾燥させます。

 

 

今回は、作った微粉末の半分を、顆粒にしました。

全量を顆粒にしないのは、裏ごしにかける作業が、そうとうに面倒な力仕事だからです。

150グラムほどの粉末を、すべて裏ごしにかけるのに、1時間かかりました。

 

一晩かけて乾燥させたものは、コーンフレークみたいな小さな欠片になっているので、それをまた、ミキサーにかけて、飲みやすい大きさの顆粒にします。

 

 

2日がかりで、顆粒状の「当帰散」が、145グラムできあがりました。

残り半分の微粉末も、つぎに使うときに、顆粒に仕立てます。

 

ポッドミルで、微粉末にしたときの写真では、うす黄色~黄土色だったのに、出来上がりは、焦げ茶色ですね。

これは、生薬は、アルコールに漬けると、たぶんタンニンの成分が変化して、黒っぽくなるのだと思います。

「大黄」も、酒で洗う、という処理をすると、かなり黒っぽくなりますから。

 

「当帰散」は、ほとんどの妊婦さんに、安産と産後の健康を約束する、素晴らしい漢方薬ですから、もっと多くの皆さんに効果を知られて欲しいものです。