「こんな大きなスダチどうしたんだい?」
「あら、あなた忘れたの?このあいだ見えたHさんの弟さんが、お土産にとくださったの。酔っ払っていたのね、スダチじゃなくて小笠原のレモンよ」
10日ほど前になるだろうか、友人H兄弟がボクを訪ねて拙宅にきたことは、『
朋あり遠方より来るhttps://goo.gl/tiLFvS に記した。話に花が咲いて、次々と興味のある話で会話が弾んだ。男友達と話をするチャンスのないツレも大いに喜んだ。そのときの話題を再現してみよう。

 

              大きいのはカボスでも酢橘でもない、小笠原のレモン

Hの兄の方は、酔いつぶれて別室でソファで軽い寝息を立てていた。弟は酒が強い、いくら飲んでも酔うということを知らない。
「65歳の高齢者の部類に入って、毎日、時間があって退屈じゃないの?どんな風に時間を活かしているんだい?」
ゴルフは相当な腕前だし、得意な英語を活かして、ボランティアで外人の旅行者の道案内をやっているのは知っていた。エンターテイナーである彼は、ツレにも楽しい話をと思ったのか、こんな語り口だった、
「奥さん、わたしには娘と息子がいるんです。どうやって、パートナーを見つけるのかと、気をもんだもんです。案ずるより産むが易しですねぇ」

ツレも乗り出してきて、
「ご長女の方は、結婚なさったのでしょ?」
「はい、婿は北海道の室蘭の出身で、消防士をやっています、共稼ぎですよ」
「娘さんは?」
「これが看護師でしてね、二人に子供ができたものだから、わたしたちも加わって、てんやわんやです」

 

                         室蘭市の灯台

「共稼ぎも子育てしながらだと、ご苦労がおありだわねぇ!」
「家内も自分も、完全に娘家族の生活のサイクルの中に、組み入れられて、孫を中心の生活です。わたしは退職をしたら、家内と日本全国をキャンピングカーで動き回るのが夢でした。ところが、子育ての手伝いに引っ張り出されて、消えかけていた女房の母性本能に、火がついたんですね。急に生き生きしだしました。そうなると、男の出番はないんです。家庭菜園をやってますが、都会では畑と言っても畳2枚ほどの広さです」

「思い切って、地方に移住して、ひとり菜園生活を楽しむのも良いぜ!」
 

                    世界遺産の小笠原諸島              

すると、
「樫さん、聞いてくださいよ。長男が教員資格を取ったんです、まあ手元においておけば、行き来できて安心と思っていたんです。それが、小笠原諸島の母島の小学校に、勤務したいと名乗りをあげて採用になったんです」

「ほう・・小笠原って、太平洋の遠くの諸島だよねぇ?」

「それが最近になって、現地の女性と結婚したいと言うんです。この間、先方のご両親に挨拶しに行ってきましたよ。その家で採れたレモンが、これです。小笠原は遠いですよ!」
「失礼を承知で聞くけど、土人というわけじゃないよね?」
「小笠原の土着の人だけど、土人とは言わないですよ、パプアニューギニアじゃないんだから。青い空と大海原にはぐくまれて、純朴なきれいな人でした。息子には過ぎた嫁です!」

 

今その話を思い出しながら、お土産に頂戴した小笠原レモン絞って、焼酎をやっている。レモンを絞るたびに、美人の嫁さんを想像した。日本も広い、東京から小笠原までだと、24時間は優にかかるらしい、下世話な話だけど、運賃だって往復すると一人10万円もすると。

昨日、東京から帰ってきて草臥れているのに、小笠原も室蘭も、とても遠く感じられた。