夏を迎えて、田舎で生活をしてみると、やたらと少年の頃などが思い出される。今回は昔の夏の風物など、思い出すままに綴ってみよう。戦後10年経つか経たない頃のこと、今にして思えば、ぜいたくなものはなかったが、ことさら不自由も感じなかった。

 食べ物だって、今のように冷蔵庫なんてないから、井戸や小川の水で冷やしたものだ。西瓜など大きなものがいくつも土間や板張りの床に甘瓜などといっしょに転がっていた。野菜は自給自足だから、どこの家も空き地などを活用して、自家菜園をやっていた。キュウリ、茄子、カタウリ、豆の類が豊富にあった。トマトは、そんなに人気を博していなかったように思う。

 夏は、梅干しや小魚の天日干しに最適である。どこの家の庭にも、竹簾に広げて干してあった。夏の風物詩であったろう。竹簾に広げて干すので思い出すのは、カタクチイワシだ。大漁にあがると晩には夜遅くまで大釜で茹でて、浜の磯に並べて干したものだ。食事では、そうめんが出た。暑くて食欲が減退する時、これなら流しこめる。玉ねぎで甘みをつけ、イワシの煮干でだしをとった醤油味のごく簡単なものだった。あまり度々ではなかったが、おやつにねだって買い求めたものに、アイスキャンデーとラムネがある。50銭玉を10個かき集めて、買いに走ったものだ。かき氷は、少しあとになって出てきた。



 前にもブログでも紹介したが、夏は、毎日行水を浸かった。いつも海で泳いで、そのあと真水で身体の塩を落としていたから、行水は不要だったはずだが、いつも入らされていた。母は、そのたらいの水を洗濯や打ち水に使った。エコが自然な形で、生かされていた。エコと言えば、人糞だって下肥だって発酵させ、希釈して用いた。生半可な発酵では効果は薄いが、完全発酵では菜園の肥料として最適だった。

 夏の不人気なものに、ハエや蚊がいる。家では農耕用の役牛として牛を飼っていたから、牛小屋にハエがたかる。このためにハエたたきが必需品だった。このハエたたきは、ヤシ科の常緑高木のシュロの葉っぱで作るお手製であった。シュロはヤシの仲間であるが、とても耐寒性に優れていた。ご近所がよく貰いに来た。そういえば、リボン式の天井から吊るすハエ取り見かけなくなった。ハエ取り紙もあったっけ。

 蚊には、特に悩まされた。この蚊に刺されないように、寝床に蚊帳を吊る。蚊取り線香が出回るまで長いこと夏の必需品で、どこの家庭にも3つや4つはあったろう。この蚊帳の中への出入りは、特に慎重を期した。横着をしてしゃがみこまないで、立って入ろうものなら、チャンスを待っている蚊の侵入を許すことになる。匹でも入ろうものなら、うるさいし気になって眠れやしない。蚊帳で思い出したが、寝るにはいつも団扇を持って入った。暑くて寝苦しいとき扇ぐのにまた蚊を追おうために使った。



 外に出かけるのに履いた下駄は、最近ついぞ見かけなくなった。アスファルトの上で歩くには、ガランゴロンと音も出て不都合も多い。例年夏になると従兄弟が東京から、避暑をかねてやってきた。親爺は、その従兄弟のために、いつも真新しい桐の下駄を一足買っていた。従兄弟が、東京に引き上げたあと、ボクのものとなった。ケヤキと桐のものがあったが、桐でできている方が高価で、軽かった。村には2軒の下駄屋があった。下着でいえば、世の男たちは、みな越中褌をしていた。暑い日中など褌のまま井戸や川の水をかぶって、身体を冷やした。



 夏の風物詩と言えば、その代表的なものに花火大会がある。大きな花火が上がるたびに、大きな歓声が遠くの街の方向から聞こえてきた。たいてい商店街の主催だったが、ここのところ聞いたことがない。夏の夜の楽しみと言えば、前にブログで詳しく書いたが、巡回映画があった。夏の人気の演目は、怪談映画の怪描ものだった。

なんといっても、海水浴は何よりも大きな楽しい遊びだった。そのなかでも、カキ貝採りが、僕らを惹きつけて放さなかった。カキ貝のあるところまで泳いで行って、海中に潜りカキ貝のついた玉石を、水中を歩きながら、陸まで運ぶというものだ。石が大き過ぎると息継ぎを数多くしなければならない。小さい石では、石についているカキ貝そのものが、小さいし少ない。上級生などは、水中に鉄製のノミを持ってもぐり、岩にへばりついているカキ貝をはがすのだ。はがしたカキ貝をネットに入れて運ぶ。これには、長い息継ぎが要求される。分ぐらい水中にもぐる猛者などもいて、南京袋一杯採って小遣い稼ぎをしていた。

夏の縁台の将棋遊びも、盆踊りも楽しみだったが、今では、テレビやオンラインゲームにその座を奪われて、人気がない。この夏やってくる孫たちに、土手に腰を下ろして食べた西瓜の味を、小舟の枕木を浮き輪にして泳いで採った牡蠣の味を、ハエたたきに興じた夏を、どう説明したらいいのだろうか。


夏になれば思い出す

蝿タタキ わざとやったな 俺のデコ

捨てるな クソ下肥も 采のエサ

                             2011.7.15