primaryPCIに関するエビデンス+高齢者の予後予測について(医局学習会) | レジデントたちのモノローグ

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お疲れ様です。永遠の後期研修医○○です。今回は来月予定の医局学習会の内容です。経験した症例に関するエビデンスを調べてその時の対応がどうであったかを検討したいと思います。

 

[症例]76歳男性、ACS症例

[病前ADL]ベット上生活で車椅子レベル。要介護4。嚥下障害があり、食事も介助が必要、トイレに一人で行けない、排泄の失敗がある、一人で着替えられない、など。抗認知症薬(-)

[経過]熱発・頻呼吸を主訴に他院受診となり、誤嚥性肺炎の診断。ルーチンの心電図にてST上昇がありACSの診断となる(発症時は不明)。K病院での受け入れ困難とのことでドクターヘリで当院へ救急搬入となる。

[治療経過]当院にて緊急心カテ施行。病院到着からバルーンまでの時間(DTB)が約120分で、PCI後のステント末梢の再灌流が得られなかった。その120分後にK病院循環器医師にコンサルトして当院に来て頂き心カテ継続するも、やはりステント末梢再灌流は出来なかった。約360分経過した時点で心カテ終了となる。

[検討すべき課題]

1、高齢者でADL低下して誤嚥性肺炎を起こしたような症例に対してドクターヘリ搬送・緊急心カテが必要であったのか?

2、当院搬入時点で、前述の全身状態の観点から緊急心カテを選択した方針は適切であったか?

3、ACSの責任病変がはっきりしたもののDTB時間が90分以上を超えることが想定された時点でprimaryPCIに踏み切る必要があったのか?

4、DPT時間が120分を超えた時点で再灌流が不成功に終わっており、それ以上治療継続したり長時間経過してから循環器医師のサポートをもらう必要性はあったのか?

 

<急性心筋梗塞に対するprimaryPCIのエビデンスについて>

①primaryPCIに関する一般的なエビデンス

・primaryPCIの増加とともに、疫学調査で急性期死亡が減少している背景から「primaryPCIがACSの急性期治療で有用である」と推測されているが、RCTでの比較試験などが施行されたわけでないため、確固たるエビデンスがあるわけではない

・STEMIに対する急性期死亡率は、薬物療法で13%、血栓溶解療法で6~7%、primaryPCIで3~5%と推測されている(up to date 2019)。ただし治療の選択に関するバイアスがあるため死亡率の比較のみで有用性を判断することは難しい。

・STEMIに対する血栓溶解療法vs primayrPCIは、メタ解析でprimaryPCIのほうが有用であることが証明されている(しかし非再灌流治療群との比較はなし)。

・フランスから報告では、急性期死亡を減少させるには可能な限り再灌流治療(血栓溶解療法あるいはprimaryPCI)を施行したほうがよいとされている。ただしこのデータはコホート研究であるため、再灌流治療の有無で死亡率の差が出ているが、治療の有無に関してバイアスが掛かっている可能性があるため、一概に有用と言えるわけではない。たとえば再灌流治療を受けなかったのは超高齢で寝たきり状態であった?などの要因もあるかもしれない。また血栓溶解療法よりはprimaryPCIのほうが有用と言われているが、このデータでは血栓溶解療法の方が死亡率は低い。出血のリスクの少ない症例で血栓溶解療
法が行われていると思われるため、それがデータに反映していることが考えられる。

 

・慢性期でのPCI治療については予後の改善効果は証明されていない。(Effect of PCI on Long-Term Survival in Patients with Stable Ischemic Heart Disease.NEJM 2015)。なので単純に冠動脈狭窄部位をステントで広げたからといって予後の改善にはつながっていない。そうなると急性期PCIの有効性も慎重に判断する必要がある。

②primarPCIの時間経過に関するエビデンス

・primaryPCIについて、症状発症からバルーンまでの時間(OTB)が3時間以内で、可能なら病院到着からバルーンまでの時間(DTB)が90分以内が、患者の臨床転帰(1年生存率)を改善させる。症状発現から12時間以上経過するとprimaryPCIの有効性ははっきりしない(日本循環器病学会ガイドライン2013年改訂版)。

・primaryPCIのOTBが短い群(3時間以内)と長い群(3時間以上)を比べたときの予後の違いは1年生存率が7~8%と10%の違いである。つまり統計学的有意差はあるが臨床上の有用性がはっきりするほどの差ではない可能性あり(BMJ 2012)。全原因死亡の図を参照すると、OBT時間が3~6時間、6~12時間、12~24時間の3群は、ほぼ曲線が同じとなっている。

拡大解釈すると3時間以内のprimaryPCIでなければ予後の違いはなく、primaryPCIを施行しない非再灌流治療群とほぼ同等の予後の可能性がある。となるとOBTが3時間以上になることが想定される群はprimaryPCIを施行しても有効性は極めて低いことが予想される(個人的見解)


・別の文献でもSTEMIに対するprimaryPCIの時間経過の遅延が1年死亡率に影響を与えることを示唆している。(Time delay to treatment and mortality in primary angioplasty for acute myocardial infarction: every minute of delay countsCirculation. 2004)


・このデータでもprimaryPCIのOBTが6時間になると1年死亡率が10%程度であり前述の文献データとほぼ同等となっている。

 

③高齢者におけるprimaryPCI

「当院における高齢者の急性冠症候群に対する緊急冠動脈インターベンションの治療成績(京二赤医誌 2012)」

高齢者に関するACS の治療効果の文献は少なく,そのほとんどが高齢者のACS への血栓溶解療法の安全性について緊急PCI と比したものであり,どちらの優位性も確立しておらず未だコントラバーシャルである

・75歳以上の後期高齢者の急性心筋梗塞の急性期死亡率は20~30%、再灌流治療を受けなかった場合の急性期死亡率は30%、再灌流治療を受けると20%から10%へ減少すると言われている。なので後期高齢者のprimaryPCIは以前と比べて増加傾向となっている。

高齢者の病前の認知症やADL低下が再灌流治療の非施行の原因となっている。後期高齢者の再灌流療法非施行理由について検討すると,認知症・病前ADL 低下33.6%,遅れ受診9.3%,超重症例5.9%,禁忌5.6% などがあげられる.

・当院における緊急冠動脈造影およびそれに引き続く血行再建の適応としては,寝たきりや高度認知症でなければ家族の希望,同意があれば可能な限り侵襲が少なく,再灌流時間が短縮され得る緊急PCI を行ってきた.

・ACS 患者においては,年齢に従って死亡率は増加しており高齢者であることは非常にハイリスクである。さらに,慢性狭心症においての薬物療法に対するPCI の優位性は死亡率においては証明されなかったため,これらの結果のみから判断すると,高齢者に対するPCI の適応は慎重に検討されるべきと考える

 

<高齢者で寝たきり状態に関する予後予測のエビデンスについて>

①重度認知症総説(NEJM 2015)

認知症で余命 6 カ月未満と判断するホスピスガイドライン」では

 ・7c : 独歩不能 ・7d : 自力座位不能 ・7e : 笑顔を作れない ・7f : 頭を自力で起こせない(最重症) 上記の Stage 7c から 7f で、かつ過去 1 年間に、・誤嚥性肺炎、・腎盂腎炎、・敗血症、・多発褥創、・抗菌薬投与でも熱再発、・食欲低下(経管栄養、過去 6 カ月で体重 10%以上減少、アルブミン<2.5g/dl のどれか) 以上のいずれかがあると余命は 6 カ月以内としています。 米国ではホスピスは、余命 6 カ月でないと入所できないそうです。

重度認知症で肺炎後 6 カ月での死亡率は 50%とのデータもある(2019年up to date)

・323 施設の CASCADE study で重症認知症の生存中央値は 1.3 年

②超高齢(80歳以上)の脳卒中患者の長期予後の検討(脳卒中 2010)

 要旨:高齢人口割合の高い地域にある脳神経外科救急対応病院における,高齢者脳卒中診療の現状をまとめ,高齢者脳卒中患者の予後とその予測因子を検討する.脳神経外科に脳卒中の診断で入院した超高齢(80 歳以上)脳卒中患者97 名を対象とした.対象患者データのうち,年齢,性別,退院時modified Rankin Scale(mRS),退院時経鼻管または経胃ろう栄養,入院中肺炎などの評価項目と生命予後との関連をCox hazard model あるいはlogrank test を用いて解析した.超高齢脳卒中患者97 名の1年生存率は約75%であり,85 歳未満および,mRS0–3群において有意に生存率が高いことが示された.また,生存退院例についての解析では,退院時のmRS3–5,入院中肺炎,胃ろう造設/ 退院時経管栄養が退院後の死亡に関する予測因子

であり,入院中肺炎罹患が,統計学的に有意差をもった退院後の死亡に関する独立した予後予測因子であった.超高齢者脳卒中患者において,年齢や退院時mRS の他に,入院中の肺炎発症の有無が予測因子になる可能性が示唆された.我々は,超高齢者脳卒中患者の治療やケアを計画する際にこれらの因子を熟慮する必要がある.

③PEG症例の長期予後に関する追跡調査(静脈経腸栄養 Vol.27 No.4 2012)

【目的】経皮内視鏡的胃瘻造設術Percutaneous endoscopic gastrostomy(以下PEGと略)を行った症例の長期予後について検討した。

【方法】2000年から2009年までに当院でPEGを行った227例を対象に追跡調査を行った。

【結果】追跡できたのは215例で平均追跡期間は559.2±521.2日。PEG後30日における生存率は95%、1年生存率は64.4%、5年生存率は25.1%であった。PEG前に誤嚥が経験されていた群はそれ以外の群に比し生存率が有意に低かった。PEG施行時におけるアルブミン(Alb)値が3.0g/dL以上の群はそれ未満の群より、また小野寺の予後推定指数(PNI)35以上の群はそれ未満の群より生存率が有意に高く、その傾向は特にPEG施行後早期において顕著であった。

【結論】胃瘻造設前の誤嚥経験の有無は重要な予後予測因子である。またAlb値やPNIは造設後早期の予後予測の指標として有用である。

 

[本症例に関する考察]

1、高齢者のACS対するprimaryPCIによる医学的介入の有効性に関するエビデンスは乏しく、仮に統計学的有意差があるとしても臨床的有効性はそこまで大きくないと予想される。なので単純に「救命のためにPCI治療をすべきである」、という発想にとらわれることは好ましくない。

2、また本症例のように高齢者でADL低下した予後があまり良くないと思われる場合も、ある程度の予後予測を行い、PCIに対する有効性や治療介入に伴う合併症・副作用も十分考慮してPCIそのものを施行するかどうか判断する必要がある。

3、ACS発症時期が不明な場合やDBTが2時間を超えると想定される症例についても、同様に有用性を示すエビデンスが乏しいのでPCIを施行するかどうか、PCI施行している場合は継続するかどうかを、慎重に判断する必要がある。

 

・・・以上です。ご意見があればコメント欄へ。

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