原著論文はappendixまで読まないと著者に騙される? (パート4:SGLT2阻害剤編) | レジデントたちのモノローグ

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お疲れ様です。〇〇病院の〇〇です。

今回のテーマはSGLT2阻害剤エンパグリフロジンについてです。

 

まず最近ネットで見られたケアネットの記事に注目してみます。

https://www.carenet.com/news/general/carenet/46953

論文筆頭著者のブリガム・アンド・ウィメンズ病院のBrian Claggett氏は、「これまでの研究では、心血管イベントの既往がある60歳の2型糖尿病患者は、同年齢の健常人と比較して平均生存期間が最大12年短くなることが推定されている。今回の解析で、エンパグリフロジンによって、このような患者の生存期間が平均2.5年長くなることが推定された」と述べている。下記がcirculationに掲載された論文(残念ながらfreeでは読めない)

https://www.ahajournals.org/doi/full/10.1161/CIRCULATIONAHA.118.033810?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%3dpubmed

 

エンパグリフロジンの有名な論文はNEJM2015年に掲載されています。

Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes(エンパグリフロジン、2型糖尿病の心血管転帰と死亡率)

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1504720

心血管疾患の既往がある集団で、平均年齢60歳、平均観察期間が3.1年。

プラセボ群での全原因死亡率は年率2.86%と高く、薬剤投与群の全原因死亡率は年率1.94%と低下しており、この絶対リスク低下が長く続くとの仮定で生存期間延長を計算している。

 

SGLT2阻害剤の別の薬であるカナグリフロジンの文献(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1611925 )や

DPP-4阻害剤のシタグリプチンの文献

 (https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa1501352 )を合わせて見比べて批判的吟味をおこなってみます。

 

<批判的吟味>

1)そもそも上記エンパグリフロジンの論文は、心血管疾患のある患者に対する安全性の検証のための非劣勢試験である。そしてエンパグリフロジンは10mgと25mgの2種類の規格があるが、appendixの中身をみると、プラセボ群と10mg単剤との比較、およびプラセボ群と25mg単剤の比較、両者ともprimary outcomeである心血管イベントについては統計学的有意差はない(有意差が出て騒いでいるのはプラセボ群と10mg+25mgの2つを足した群との比較)。つまりエンパグリフロジン10mgと25mgはいずれも心血管イベントの抑制効果は証明されていない。

2)エンパグリフロジンの全原因死亡の低下は、心血管死を減少させているためだが、appendixの中身をみると、心血管死の内容は致死的心筋梗塞や致死的脳卒中ではほぼ変わりなく突然死や分類不能の心血管死(不整脈や肺血栓塞栓症など)の割合が多い

3)同系統のSGLT2阻害剤であるカナグリフロジンについては、全原因死亡や心血管死については有意差を認めていない(かつ単一の研究ではprimary outcomeである心血管イベントさえも減少しない)。2つの薬剤の文献の大きな違いはエンパグリフロジンのプラセボ群の全原因死亡率が年率2.86%でカナグリフロジンが年率1.95%であり、対象集団の心血管リスクがエンパグリフロジンの研究で高い。

4)3つの薬剤はすべてHbA1c改善効果を認めているが、シタグリプチンはすべての合併症にて減少効果を認めておらず、血糖改善による影響は少ない可能性がある。

5)SGLT2阻害剤2剤はDPP-4阻害剤と異なり血圧低下作用を認めており、利尿効果や降圧効果がエンパグリフロジンの突然死や分類不能の心血管死の減少につながっている可能性がある。

6)生存率はカプランマイヤー法で解析されており、エンパグリフロジンのプラセボ群と薬剤投与群との予後の差については、平均3年間の観察期間で約8ヶ月程度である。つまりプラセボ群に比べて、薬剤を投与することで、約3年間の間で亡くなるか亡くなる可能性が高い人たちが約8ヶ月程度延命できれば上記の全原因死亡の差が出る。しかしその効果が3年を超えて同じであるかどうかはわからない。

 

以上を踏まえると、「エンパグリフロジンを投与すると〇〇年生存期間が延長することが推測される・・・」みたいなところまで言えるだけのエビデンスはないのでは、と個人的には考えています。

 

また、SGLT2阻害剤は、2型糖尿病かつ心血管疾患の既往がある人たちの心血管疾患の二次予防としての効果が中心の薬剤、と言えるのではないでしょうか。

 

原著論文は、時にappendixまで深く読み込む必要があると考えます。

以上です。ご意見があれば待ちしています。

 

 

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