父親は外資系の支社長である、
だから少年は昔から海外で暮らしていた。



少年はある憧れを持っていた
それは、家族で‘‘食卓を囲むこと’’
────何て簡単なことだろう────



少年の人生にはそんな簡単な事がなかった
そんな少年にある出来事が舞降る
日本での生活だ



少年は期待した…




「きっと何かが変わる」









あっさりと現実は簡単に少年を喰った
そこにあったのは変わらない現実 
拍子抜け…失望…銷魂…




少年は模索した、探求した、改善を
そして見つけたのだ。  ‘‘文学の世界’’を



少年は本の中で、英雄になった
音楽家にもなった、空も飛んだ
そして皮肉にも本の中で
少年は家族と食卓を囲んだのだ





鈍色になる現実とは反比例するように
本の中で色のついた世界を追う
少年は楽しくて仕方がなかった




全てを忘れられる気がした
自分に影のようについて回る世間体も
褒められず当たり前だと揶揄する親も 
そんな少年は1日だけ悪い事をする
簡単だ、ただ怒られたかった、心配されたかった





雑踏に…身を浸したのだ。
夏といえど迫る寒空の下歩くのみ…




そこで、出会った…
奇抜な髪色のお兄さんに



18年の時代にも受け入れられ難い
『ポエムコア』と呼ばれる音楽ジャンルを叫ぶ男



不意に立ち止まってしまっていたのだろうか
その人は僕に笑いながらコルナサインを送る
目にとめてくれたことは悪い気はしない
でも、少年は無視するように後にした





それから数時間、帰路、まだ居たのだ
でも、さっきとは違う  
顔の前で煙をたてる姿だ。





外国育ちの社交性が災いした。








「何してるの?」




同じ目線の言葉にもお兄さんは嫌な顔せず
答えた 「メタルに朗読を合わせてる、これが夢」
内心の流行らないだろうという言葉は出さなかった。 この後ファミレスに行ったり公園で話したりなんてそんなドラマチックな事は起こり得ない




橋の上…ギター1本分の隙間を開けて座る
男2人
お兄さんは話してくれた。
家庭環境が凄惨なこと、現実に殺されたこと、
色々諦めたこと。
似ていた…悲しいが…どこかの誰かと似ていた。




2人は似ていた。けど決定的に違う部分があった
そして、その部分は2人に、
天と地の差異を与える




そのお兄さんには間違いなく‘‘色’’があった
鈍色の人生を歩む少年には遥か上の事だ。



だから少年も話した、その人生を。
男は言う「逃げるな」と、
青い感性の少年は図星を突かれ、
負けた気になる
足早に去ろうとした。




過ぎる風景の中
背中にぶつけられた「頑張れ」に、
気持ちが1粒零れた気がした。







「音楽か…」





少年が楽器屋の扉に身を通すのは、
ここから3ヶ月程経った、秋の始めである。





~fin〜