桜もすっかり過ぎたこの時ると、ベニバナトチノキの花が楽しみになってきます。

 

京王線の聖蹟桜ヶ丘駅の前を通る川崎街道には、そこから東西に渡り、約2kmぐらいがベニバナトチノキの並木道になっています。

そして、毎年5月の初めになると、赤い花を咲かせて私たちの目を楽しませてくれるのです。

しかし、私がこの花に気が付いたのは、こちらに越してきてから7~8年が過ぎてからのことです。

それまで、週に1回は通っていた道なのに、何故それに気が付かなかったのか不思議でなりません。

トチノキの並木道なら、私の住んでいる地域にもあり、それは白い花をつけます。

しかし、いつからベニバナトチノキの赤い花が咲いていたのかなど、私には謎がいっぱいなのです。

 

 

ベニバナトチノキは、こい緑色の葉の上に、ブドウの房を逆さまにしたような赤い花を咲かせます。

まるで、たくさんの赤いとんがり帽子を、木のいたる所に散らばせたように見えるのです。

そして、葉も花も原色に近い色をしているので、まるで作り物のように思えるのです。

ですから、これだけで街全体がお祭りの飾りつけをしたような雰囲気になります。

私はこれを見るたびに、スタジオジブリの宮崎駿監督作品の“千と千尋の神隠し”に出てくる神々の集まる街が思い浮かびます。

ですから、まるで別の世界にでも迷い込んだような気分になり、しばしの間それまでの雑踏を忘れることができ、とても得をした気分になれるのです。

 

宮崎駿監督というと、もう一つ頭に浮かぶことがあります。

以前、仕事上のことで『ショウジョウバカマ』という植物のことを調べる機会がありました。

ショウジョウバカマは、カタクリやカンアオイなどとともに『スプリング・エフェメラル』(春のはかない命)と呼ばれる植物の仲間です。

そこで、この植物の名前の由来を知りました。

ショウジョウ(猩猩)とは、中国の森に棲むと言われている、犬とも猿とも区別のつかないような姿をした架空の怪獣のことで、地面に広げた葉をはかま(袴)に見立てて命名されたようです。

日本では、ショウジョウの赤い毛色から、赤い色のついたものに、この名前がつけられることが多いようです。

これがわかったとき、宮崎駿監督作品の『もののけ姫』中で、主人公のサムが言った言葉を思い出しました。

「ショウジョウ達、森の賢者とたたえられるあなた達が、何故、人間などを食らおうというのか」

この映画を最初に観たとき、『ショウジョウ』という言葉は気にはなっていたのですが、それを調べずじまいで数年が過ぎ、こんなところでその謎が解けたのです。

私にとって宮崎監督の作品には、ベニバナトチノキと同様に謎がいっぱい隠されているようです。

                                               〔 カーネル笠井 〕