鏡に向かい、慣れ切った手つきでネクタイを締めながら深い溜息をついた。
訊ねるチャンスはいくらでもあった。
あったのに
『潤と一緒に行くのか』
そのひと言がどうしても言えなかった。
そんな事はないと
パーティーには行かないと
そう答えてくれるならいい。
でも、もしその問い掛けを肯定されたら
恥ずかしそうに、嬉しそうに
アイツがもし『はい』と答えたら
きっと俺は訊ねたことを、色んなことを、後悔してしまいそうで……
「櫻井様、お待ちしておりました」
華やかな会場に相応しい、最高級品を身に付けた人、人、人。
テレビや雑誌で見かけるような人達の中に、もしかしたらと視線を巡らせると
えっ……
よく知ってる小さな背中を見つけた。
「おい、こんな所で何してるんだ」
「あれ、翔さんじゃん。奇遇だね」
「奇遇だね……じゃないだろ?
お前、どうやって此処に潜り込んだんだ」
「潜り込んだなんて人聞きが悪いなぁ」
皿の上の料理をフォークで弄びながら、ニノが白い頬を膨らませた。
大野開発の設立20周年を祝うパーティーにどうしてニノが呼ばれているのか、その理由が分からない。
「俺が招待したんだよ。
ニノは俺の大切な恋人だからね」
「智くん?」
久しぶりに会った親友の意外過ぎる言葉に、俺はただ驚くばかりだった。
つづく