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2017年10月7日オープンの歌舞伎町ブックセンター



「本屋が一軒もない自治体がこんなにある!? なんてことだ!」という論調の記事とそれに対する反論(というか違和感?)や建設的意見が出て、ちょっとした炎上みたいなことになっていた8月下旬頃。本屋に関する新聞の悲観的な論調に対してはうんざりしているので、空犬通信さんや鷹野凌さんのいう「じゃあ、どうするか?」という意見に大賛成で、だからこそBOOKSHOP LOVERではそういう本屋さんを紹介してきたつもりだ。

ちょっとした炎上というのはこの記事に対しての反論(というか違和感?)や建設的意見が続出した件である。

〈反論や違和感〉

〈建設的意見〉

でも、ふと真面目に考えてみると「じゃあ、どうするか?」に対する答えはいろいろあって、それは「本を売るためにイベントや棚を工夫する」というものや「あるジャンルに特化する」「カフェや雑貨で客単価を上げる」など置かれた状況によってたくさんの回答がありうる。

そんなとき考えなくてはいけないと思うのは「本っていったい何?」ということだ。いろいろあると思うけど、「情報のパッケージ」として捉えるか、「コミュニケーションツール」として捉えるかでその本屋がどこを目指すか決まってくるような気がしている(もちろんそこにはグラデーションがあって、どちらの定義だけ信じる・信じないということではないと断っておく)。

いま本屋を開くのであれば「コミュニケーションツール」としての本の側面については考えなくてはいけないことだと思っていて、その点で非常に参考になるのが以前、取材したBOOK LAB TOKYOであり、昨日オープンしたばかりの「歌舞伎町ブックセンター」だ(内覧会で取材してきた)。

BOOK LAB TOKYOについては以前の記事を参考にしていただくとして、歌舞伎町ブックセンターに今回は書こうと思う。

まずどんなお店かの説明から。
 

店内の様子。右手にバーカウンター。左手に本棚。中央には座り心地の良さそうなソファーで、奥はスクリーンである。



歌舞伎町ブックセンターは、歌舞伎町でホストクラブやバーなどを運営するSmappa!Groupの会長 ・手塚マキさんがオーナーとして始めた。本好きな手塚マキさんが部下のホストたちにも本を読んで欲しいと事務所の一階に本を置いていたのだが肝心の部下はなかなか読んでくれない。どうすればいいか悩んでいたところでBUNDAN COFFEE & BEERを手掛けた東京ピストルの草彅洋平さんと出会い、「それならいっそ本屋にしようよ」と草彅さんがプロデュースしたのが歌舞伎町ブックセンターなのである。

テーマは歌舞伎町ならではのもの、ということで「LOVE」。選書はかもめブックスなどを展開する鴎来堂・柳下恭平さんが担当し、「赤」「黒」「ピンク」の3色のLOVEに彩られた400冊の本棚が完成した(本棚についての解説はブクログ通信のこの記事が詳しい)。
 

左から、「黒」「赤」「ピンク」の本棚。



開店前からクラウドファンディングを行い、開店当日は内覧会からレセプションパーティー(朝の5時までやっていたそうだ)を開催。お客さんを巻き込んでいく姿勢をハッキリ示している。

特徴的なのがホスト書店員の存在だ。扉もなく、街に開かれたこの場所に訪れた人は、ときにはコーヒーやお酒を飲みに、ときには様々な悩みを相談しにやってくるだろう。ホスト書店員はそういった方々の話を伺い、本を勧めるのだ。

(ちなみに、このホスト書店員は現在、募集中とのこと。ご興味ある方はkabukibookcenter*gmail.com *を@にして送信するとホスト書店員への道が開かれる……かも。詳しくはこちらページの一番下までスクロールすれば募集要項が見られる。)

ここの面白いところは、本を完全に「コミュニケーションツール」として扱っているところである。
 

オーナーの手塚マキさん。



手塚さんは「本は主役じゃなくても良い。来てくださった方とコミュニケーションするときの道具になってくれれば」とおっしゃっており、また、草彅さんによると「本を読んで感動したときに人はそのことを話したくなるはず。ホスト書店員とお客さんが、読んだ本の感動を言い合えるような場になって欲しい」とおっしゃっていた。

さらに、

 

「いまの書店員で個人が評価されることは少ない。自分から話していって、本をオススメすることも少ないように感じる。もっと、書店員は自分から啓蒙するようなスタイルでも良いのではないか。そのために、冊数は少なくした。何千冊もあったら読みきれないが400冊であれば読み切れる。この店で働くホスト書店員はここにある本をできれば全て読んだ上でお客さんに勧めるようなスタイルにしていく。一冊一冊の本に対する愛を持って、お客さんに本を勧めていける場にしていく」

と草彅さん。

この空間には「愛の本」だけでなく、「本への愛」も詰まっているのだ。これを聴いたとき自分の中でストンと腑に落ちるものがあった。実はBUNDAN COFFEE & BEERをつくった、本への偏愛溢れる草彅さんがプロデュースするのだから、歌舞伎町ブックセンターにはさぞたくさんの本があるのかと思っていたのだが実際は400冊、とかなり少なく。どうしてなのだろうか? と店を訪れたときから不思議に思っていたのだ。

だが、むしろ本への愛があるからこそのこの冊数なのだということを教えられ、先入観を持っていた自分を恥ずかしく思った。

考えてみれば愛もコミュニケーションの一種だ。国籍も性別も無関係な歌舞伎町という街にできた愛の本屋・歌舞伎町ブックセンター。ここでこれから何が起きるのか。気になって仕方なくなった取材だった。
 

左から草彅洋平さん、手塚マキさん、柳下恭平さん。