鍛冶俊樹の軍事ジャーナル

(2022年6月16日号)

*セベロドネツクの攻防

 ウクライナ東部ルガンスク州の要衝セベロドネツクは先月25日にロシア軍によって3分の2が包囲された。つまり三角形の2辺がロシア軍に面している、その三角形の中にウクライナ軍がいるのである。

 ウクライナ軍は絶えず2辺からのロシア軍の攻撃にさらされるわけだから、これは明らかにウクライナ軍にとって不利な陣形である。そこでセベロドネツクから一時的に撤退し、ウクライナ軍の戦力を温存して改めてロシア軍と対峙するのが戦略的に見て正しい。

 

 ところがこの戦略的撤退策に反対したのが米国である。一時的な撤退と言ってもただちにセベロドネツクを奪還できるわけではないから、マスコミは「セベロドネツクの陥落」と騒ぎ立てるのは間違いなく、それはウクライナを支援してきた「バイデン政権の失敗」となる。

 11月に中間選挙を迎える米国では、バイデン政権が支持率の低迷に苦しんでいる。ここでセベロドネツク陥落となれば、バイデン政権の無能ぶりに非難が集中し、バイデン政権の与党である民主党の大敗が確実なものとなろう。

 

 それだけは何としてでも避けたいバイデン政権は、追加支援を約束してウクライナ軍にセベロドネツクの死守を命じた。ちなみに現在、ウクライナ軍を指揮しているのは、実際には米軍だ。軍人出身でもないゼレンスキーに指揮はとれず、スポークスマンにすぎない。

 だが米軍の支援は武器の供与であって、戦って死んでいくのはウクライナ兵である。ウクライナ兵はロシア軍の猛攻にさらされて1日あたり100名が死に500名が負傷している。負傷兵が戦線に復帰するのは平均3か月かかるから、現在ウクライナ軍は1日600名が失われている。

 

 これを補うためにはウクライナ軍は招集したばかりの新兵を投入するしかないが、訓練の不十分な新兵は武器の操作はできても作戦行動ができず、死傷率は一層高くなる。いわばウクライナ兵は殺されにセベロドネツクに投入されているようなものである。

 ウクライナ軍はいつまで、持つのか?世界の軍事筋の注目点はそこだが、米国は中間選挙までは持たせたいと考えていよう。では中間選挙が終わったら、どうなるのか?米国はそんなことは、おそらく何も考えていないだろう。「後は野となれ山となれ」と言う事か。

 

 軍事ジャーナリスト鍛冶俊樹(かじとしき)

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