鍛冶俊樹の軍事ジャーナル

(2022年1月16日号)

*中国の女スパイ

 英国の情報機関MI5が英国議会に対して「中国の女スパイが議会工作のため議員に接近しているから気をつけろ」と言う趣旨の警告を出した。女スパイと名指しされたのはロンドンを活動の拠点にしている中国系女性弁護士クリスティン・チン・クイ・リーである。

 英国は日本と違いスパイ防止法が整備されている。従って違法なスパイ行為を行っていたならば逮捕されるはずだ。だが逮捕されていないところを見ると、彼女はスパイ防止法の網に引っ掛かからないのでMI5はやむなく議員達に警告を出したのであろう。

 

 つまりスパイ防止法があってもスパイを防止するのには万全ではない。そこで「スパイ防止法は役に立たない」というスパイ防止法反対論が出るといけないから先に反論しておく。今回のMI5の異例の警告もスパイ防止法があればこそ可能なのである。

 スパイ防止法のない日本で、例えば警察がこのような警告を国会に出したら、それこそ警察が越権行為・人権侵害で糾弾されることになろう。スパイ防止法がないと「スパイ行為が許されない」という認識が共有されないのである。

 

 リー弁護士は議員に多額の献金をしていたが、こんなことは日本の政界では日常茶飯事である。「外国の政治工作を許すまい」という認識が日本では希薄なのである。スパイ防止法がないと、スパイ行為を道徳的に糾弾できないので、外国の政治工作に従順な政権が「悪い政権」として非難されない。

 かえって外国と悶着を起こさない「いい政権」になってしまうのである。だから北京五輪の外交ボイコットや対中人権非難決議に後ろ向きの岸田政権の支持率が高いという異常な事態が起きる。これでは日本の世論はまるごと中国に乗っ取られているようなものではないか?

 

 スパイ防止法の必要性は1980年代から言われ続けているが、議論はほとんど進まない。実情を知る人によれば「実は憲法改正よりも難しい。なぜなら世論がまるごと乗っ取られているから」だという。任重くして道遠し。

 軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

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