鍛冶俊樹の軍事ジャーナル

(2021年11月12日号)

*米国は同盟国とともに台湾を守る?

 米国務長官のブリンケンが「中国が台湾の現状を武力によって破壊しようとする際には、米国は同盟国とともに行動をとる」と言う趣旨の発言をした。台湾防衛の意思を明確にしたように聞こえるが、実はそうではない。

 「同盟国とともに行動をとる」ということは、同盟国が行動を取らなければ米国も行動しない事を意味する。つまり台湾防衛は同盟国次第と言う事になる。米国が事実上、台湾防衛の責任を放棄したともとれる発言なのである。

 

 米国は冷戦終了後、台湾防衛については、態度を明確にしてこなかった。いわゆる、あいまい戦略であり事前に出方を明らかにしないことで、中国を牽制(けんせい)してきたのである。だが近年、中国は台湾侵攻の意思と能力を明確にしてきており、もはや、あいまい戦略は成立しなくなった。

 そこで、米国も態度を明確にするように迫られて、バイデン大統領が「米国は台湾を防衛する」と明言するたびに米政府高官がこの発言を否定するという、認知症まがいのドタバタ喜劇を繰り返してきたのである。

 そして挙句の果てにたどり着いたのがブリンケンの「同盟国とともに」という逃げ口上だ。私は共著「2023年台湾封鎖」で「米国のインド太平洋戦略の挫折」と述べたが、まさに米国のインド太平洋戦略の挫折を宣言したのがブリンケン発言なのである。

 

 ところでブリンケンが言っている同盟国とは、一体どの国か?それはオーストラリアでもなければ韓国でもない。他ならぬ日本である。なぜなら台湾を防衛するための米国の出撃拠点は沖縄であるからだ。従って米国が中台紛争に介入すると明言すれば、中国は沖縄を攻撃することになる。

 そこで日本が「中台紛争」に巻き込まれたくないから、沖縄からの出撃をやめてくれと言えば、米国は台湾防衛を諦めざるを得なくなる。これでわかるだろう、ブリンケン発言の真意は「台湾防衛の責任は米国ではなく日本にあるのだ」

 ブリンケンが発言していた頃、東京では米インド太平洋軍の司令官アキリーノが岸田総理と会談していたのは決して偶然ではない。今、米国も英国もオーストラリアも韓国も台湾も見つめている先は中国ではない。この日本である。

 

 軍事ジャーナリスト 鍛冶俊樹(かじとしき)

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