観劇日記 TEAM O.H.S/wonder×worksプロデュース『キダリダ→』 | カラサワの演劇ブログ

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TEAM O.H.S/wonder×worksプロデュース『キダリダ→』観劇。於俳優座。私の舞台『ぴかれすく』『ロマンスのココロ』に出演してくれた座間富士夫くん出演。


 
『キダリダ』とは韓国語で「待つ」という意味。大阪のコリアタウンの居酒屋を舞台に、在日朝鮮人たちの抱える差別問題、在日という刻印を押され、日本でも、母国でも居所がなくなった彼らのアイデンティティ、そして日本人との和解は成立するのか、という重い内容を扱っている(今回、タイトルの末尾に「→」を入れたのは、ここから先に進む、という意志の表れだろう。主役のヤンマを演じる白国秀樹(彼も在日である)の原案を元に、八鍬健之介が作・演出した舞台。
 
いわゆる円環型の構成で、かつて自分の育った街、育った居酒屋に、久しぶりに帰ってきた公太が、学校でつまはじきにされ、不登校になり、この居酒屋でご飯を食べていた13歳の頃の自分と“出会い”、その頃に時間は戻って話が展開していき、最後にまた現代に戻る。
 
公太の目に映る大人たちのうち、最も強い印象に残るのは、同じ地域で、同じような境遇で育った幼なじみ三人組。工事現場で働いているヤンマ、手堅い公務員の道を選んだ新井、母国に帰りIT企業でそれなりに成功しているパク。一見、それぞれに頑張っているように見える三人だが、三人ともに、その裏には重い問題を抱えていた……。
 
初演が2005年ということだが、その当時に比べてこの問題は比較にならない程深刻さを増している。演出も役者たちの演技もそれを受けてか、リアルさを前面に押し出し、この問題の現代性を強調している感を受けた。
 
それは非常に効果をあげていて、主役三人の背負った人生の重さ(ことに母国に帰ったパクのそれ)は日本人であるわれわれに重いものを突きつけてくる……のだが、そこにどうも余裕がない印象がちょっと残った。テーマがダイレクトな舞台にありがちな観後感なのだが、テーマ先行で、ドラマがその補填の役割になってしまっているような感じなのだ。
 
例えば、三人の中で最も重い運命を背負わされているパクのエピソードでも、作者は同じ在日という立場を背負っているだけにそれを痛切な悲劇として共有できるかもしれないが、われわれには、それはそこまで強く響いてこない。響かせるだけの共感の土壌がない。そこを伝える仲立ちになるためのドラマがない。
 
言うまでもないことだが、われわれは劇場にドラマを観にいく。テーマを受け取りに出向くわけではない。あくまでもそれはドラマの展開に心を動かされた結果、として後に残るものだ。
 
……たまたま、同じ回を観た知りあいの役者が、この舞台の初演を観ているそうで、「演出がだいぶ違っている」と言っていた。最も大きな違いは、笑いの部分がかなり削られていたということだそうだ。初演時は、特に冒頭部分は大阪弁ということもあって漫才のような会話で進み、観客を爆笑させていたという。また、居酒屋に貼り出してあるメニューにも、ギャグが仕掛けられていたとか。笑いの部分をカットしたのは、現状に対する人々(観客)の認識に、もはや笑える余裕が残っていない、という判断なのかもしれない。
 
だとしたら、それは舞台が現実に敗北している、ということにならないか。絶望的状況の中だからこそ、人間は笑うもの、なのではないか? 例えば幼なじみたちの間で意味なく繰り返される“三回ルール(同じ言葉を三回繰り返されたら抱きつく”という、中高生だった彼らが意味なくハマっていた遊び)”を、クライマックスの悲劇のシーンでもっと効果的に使えなかったろうか。
 
大人になった公太は、コリアタウンにある自分の育った居酒屋で、“大事な”人を待つ。タイトルにある『キダリダ』は韓国語で“待つ”という意味で、ここに作・演出家の、ともすれば絶望的になる状況で、まだ未来を、未来の和解を待つ心情が表れている。とはいえ、ただ解決を“待つ”だけでは問題は解決も解決に向けての前進もするまい。この問題は大きく、深く、現在のわれわれに提示されている。もう少し、コリアンの住民と日本という国との、過去、現在、未来をキャラクターたちに対応させ、物語をつむいで欲しかったと思う。
 
そしてラストのあの、舞台上を満たす光とスモークは希望の象徴なのだろうが、セットの壁や柱が動いていくのが、どうしても地震か火事による崩壊に見えてしまう。これはそれこそテーマに関わる重要なポイントであり、誤解を与える可能性のある演出は問題であると思う。
 
役者たちはメインの三人を筆頭に、みな達者。韓国人に対する差別意識を隠そうとしない刑事を演じた横堀秀樹(で合っているかな?)が逆にこういう話の中では非常に印象に強く残った。

座間くんは、日本の警視庁に捜査協力を要請する韓国警察の刑事。役どころが『ぴかれすく』で彼にやってもらった役とかなり相似形の人物設定なのが面白かった。