カラサワの演劇ブログ

演劇関係の雑記、観劇記録、制作日記、その他訃報等。観劇日記は基本辛口。これは自戒とするためでもあります。
Twitterでも演劇のこと、おりおりつぶやきます。
カラサワ@cxp02120


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俳優ジーン・ワイルダー死去、83歳。アルツハイマーに罹患していたという。オフ・ブロードウェイからブロードウェイに進出した舞台人。そこで共演した女優アン・バンクロフトの夫が映画監督/プロデューサーのメル・ブルックスで……という人のつながりを思うと、運命というものを信じざるを得なくなる。

 

この人の作品はそのメル・ブルックスと組んだ代表作『ヤング・フランケンシュタイン』(1974)からリアルタイムで見ているが、ちょっと不思議なつきあい方で、その次に公開されたのが同じ年ではあるがその前に制作されていた『ブレージング・サドル』、さらに同年の『星の王子様』と観て、さらに遡ってウディ・アレンの『SEXのすべて』(1972)、レンタルビデオで見た『夢のチョコレート工場』(1971)、それから、新作の『大陸横断超特急』(1976)に跳び、封切で見逃して名画座で『新シャーロック・ホームズおかしな弟の大冒険』(1975)を観て、それからやはり名画座で『俺たちに明日はない』(1967)観たらこれにも出てたのに気がついて(テレビ放映ではカットされていたのだった)びっくりし、それからかなり間をおいて、ビデオで名作と誉れ高い『プロデューサーズ』(1967)を見たのだった。

 

『ヤング・フランケンシュタイン』のヒットで、彼のこれまでの作品が一気に公開されたのは嬉しかったが、果たして彼の本領が日本の映画ファンに理解されたかというとちょっと疑わしい。出世作『プロデューサーズ』に特に濃厚だが、ワイルダーの持ち味というのは基本的にユダヤ(彼の祖父はロシア系のユダヤ人である)的なひねくれたギャグであり、さらにそれ以降の作品のギャグの多くは、ひねりにひねった末に一周して全く意味のないバカギャグとなる、といった趣のものであった。『おかしな弟の大冒険』など、あまりのバカバカしさに怒り出すホームズマニアの友人たちがいたほどだ(それ自体ギャグみたいな状況だったが)。

 

『ヤング・フランケンシュタイン』はパロディという形式を取っていたためか、それともワイルダー以上にユダヤ系ギャグを連発するメル・ブルックスの手綱を取る役をワイルダーが務めたからか、はたまた日本人にもわかるペーソスの要素を取り入れていたからか、そのひねくれ度が極めて少ない、いや、ひねくれギャグは多かったがそれ以外のギャグも山ほどぶち込まれていたために、奇跡的に“わかりやすい”コメディになっていたのだ。

 

『ヤンフラ』でブルックス×ワイルダーのコンビを知って、『ブレージング・サドル』に足を運んだ映画ファンは唖然としたのではないか。ワイルダー登場時のギャグは
「俺の名はジムだが、人は俺をこう呼ぶ……ジム」
である。バカバカしいにもホドがある。しかもこのレベルのものが延々続く。私は大笑いしていたが、一緒に行った連れの真面目な映画ファン(ちなみにチャップリンのファン)は終始クスリとも笑わなかった。

 

おまけに、これはヤンフラもそうだったが、下ネタが多い。ヤンフラでは人造人間の、『ブレージング』では黒人の、それぞれ巨根をネタにしたギャグのオンパレードで、その後『星の王子様』のキツネ役などでメルヘンチックなキャラを演じているのを見たときには“ケッ、あんな下ネタやってる奴がなにいい子ぶってる”という気がちょっとしたものである(笑)。あ、『大陸横断超特急』ではネッド・ビーティのビタミン剤の行商に逆に下ネタをふられて居心地悪そうにしている、というのも、何か悪い冗談のように思えて仕方なかった。

 

冗談と言えば彼のハリウッドデビュー作である『俺たちに明日はない』で、ワイルダーはジーン・ワイルダーのつまらないジョークに無理に笑っている役だったが、そこでのつながりで、『ヤング・フランケンシュタイン』にはハックマンがゲスト出演している。ここらはまさに「冗談から駒」というやつだろう。

 

その後、あまりワイルダーを一生懸命追いかけなくなったのは、ハリウッドの無味無臭なコメディの中に取り込まれたワイルダーなど見たくない、という気持ちが働いたからかもしれない。やはりユダヤ人にはユダヤっぽい、ひねくれたギャグをぶちかまして欲しかったのだ。

 

……その点、やはり期待を裏切らなかったのは同じユダヤ人で、ひねくれに関してはワイルダー以上の鬼才、ウディ・アレンである。彼の『SEXのすべて』(『ウディ・アレンの誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう』)の中のワンエピソードに登場する精神分析医の役が、これが実によかった。私はヤンフラよりも、むしろこっちをワイルダーの代表作に推したいとすら思う。

 

“羊を女房にしている”牧場の農夫(チトス・バンディス)から「彼女の浮気癖を矯正してくれ」と頼まれて羊を預かる医者が、バカバカしいと思いながらも羊と会話を試みるうち、自分もその羊に恋してしまい、ついに一夜を共にしてその快楽の虜となり、そのうち妻に「浮気が」バレて離婚され、羊ももとの持ち主に連れ戻され、ホームレスに落ちぶれる、という話で(書いていてもアホらしいが)、ここでの“大真面目に”羊と恋に堕ちるワイルダーの演技、なかんずく表情は絶品だった。

 

『ヤング・フランケンシュタイン』を激賞した人のひとりに小林信彦がいるが、彼にはワイルダーのユダヤギャグは理解できなかったらしく、彼とモンスター役のピーター・ボイルがタップを踊るシーンで「ボイルの方がうまい」と、古いコメディアンの技術論で優劣をつけている。ソコじゃない、のである。モンティパイソンもそうだが、60年代から澎湃とわきあがってきた、「知性に訴えかけるバカバカしさ」的なギャグの新潮流の、まさに尖端にいる1人として、ワイルダーはわれわれの前に姿を表したのだった。そこがわからないとどうしようもない。

 

ユダヤ人は日本人のように、真心さえ持っていれば誰もが親しくなれる、などという考えはツユも持たぬ、という。彼らが最も気にするのは、話が通じ合わない(価値観の異なる)相手と如何にしてコミュニケーションをとらねばならないか、ということである。セックスというのも重要な手段のひとつだろうし(なにしろ羊とも愛し合える!)、狂人の脳が収められた人造人間と仲良くなる手段もまた、さまざまである(彼の演ずるフロンコンスティーン教授が、初めて人造人間にかける言葉が「ハーイ、ハンサム!」なのには笑った)。

 

ワイルダーは、私たち日本人のギャグの意識がそれまでとはがらりと変化する、その前哨として、われわれの前に現れた。そんな気がするのである。

 

R.I.P.

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