カラサワの演劇ブログ

演劇関係の雑記、観劇記録、制作日記、その他訃報等。観劇日記は基本辛口。これは自戒とするためでもあります。


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(注意;ややネタバレあり)

 

7月29日、芳賀優里亜×HIGHcolors×シザーブリッツトリプルコラボ公演『ふたりごと』観劇、於上野ストアハウス。以前私の関わった映画『不思議の国のゲイたち』に出てくれた阿部能丸くん出演。

 

仮面ライダー555に出演していた、という前置きももう邪魔なくらい、演劇人として活躍している芳賀が、今回は脚本こそHIGHcolorsの深井邦彦にまかせたものの、原案、演出、そして出演(主役でないところが凄い。いわゆる座長芝居ではないわけである)をこなしている。

 

芳賀優里亜の芝居を観るのはこれで二本目だが、前作『ハローグッバイ&グッバイ』を観て、彼女のイメージとは裏腹の、地味な下町の風鈴職人の話だったのにびっくりした記憶がある。今回はさらに地味な、海辺の田舎街の食堂の話だ。モデルとして、映画・ドラマの女優として華やかな世界に生きている彼女とは正反対のベクトルだが、これは、その知名度を借りて舞台に人を集めているのではない、という宣言のようなものなのだろう。ファンタジーだとか架空歴史だとか未来世界だとかという派手な世界観に走りがちな今の小劇場演劇の中で、ライダーや戦隊ものの出演者がキャストにいながら、この人情話一直線の姿勢は極めて頼もしい。

 

『ハローグッバイ……』はそれでも、変な神様を登場させて笑いを取ったり、まだ小劇場的ユルさ(いい意味で、ではあるが)が感じられたが、今回の『ふたりごと』はより、ドラマがシリアスなものになっている。恋人を事故で亡くした主人公が、彼女のことを忘れられないばかりに、その死を受け入れられず、生きていると「信じ込んで」しまう。決して精神に異常を来たしたわけではなく、彼女が死んだ事故現場には毎日通っている。理性ではわかっていても、感情で事実を拒否しているわけである。

 

そうこうしたまま、彼女の七回忌が巡ってくる。店の主人(死んだ彼女の父親)も老い、この店を閉めようと決意する。そんなところに、一人の青年がやってくる。まだ子供だった彼を助けようとして、彼女は命を落したのだった……。

 

舞台設定が地味な分、主人公の心の幅は凄まじく大きく揺れる。そして、それをむげに否定できない周囲の感情も揺れ動く。その二つがぶつかるクライマックスの役者たち、ことに主人公の安達雅哉と父親役の和興(河合宏名義で『電撃戦隊チェンジマン』のチェンジグリフォンを演じていた)との芝居は、ここ一年で観た舞台の中で、もっとも心揺さぶられるものだったかもしれない。決してうまい、というのでなく、役者の感情の振幅がダイレクトに客席に伝わってきていた。こういう場面の芝居はそれがベストだと思う。

 

この作品で唯一、リアルから離脱しているのは、死んだ娘・雛(太田彩乃演)の幽霊が現れることだが、それでも「現実性からの飛躍」は最低限に抑えられ、基本、幽霊は現実世界の人々のことに、争いも含めて干渉しない。この自制には舌を巻いた。普通、演出家としては幽霊のような特異なものを出したら、幽霊ぽいことをさせたくなってしまう。そういうサービスの一切ない、いや、幽霊と呼ぶべき存在なのかさえ微妙な、抑えに抑えた演出。脚本の力もあるのだろうが、まだ20代でこういう“渋すぎる”演出をやってしまう芳賀優里亜、末恐ろしいと思う。

 

ただ、欲を言えばもう少し考えて欲しかったのが、時間軸が交差するシーンが何カ所かでてくるが、ちょっとわかりにくいシーンがいくつかあったこと、そして、その中で、回想シーン(彼女の実の母親が亡くなる以前の再現)に登場していた雛が、そのシーンで着ていたパーカー姿のままで、自分が死んだ後の幽霊として登場していたこと。これで、幽霊と、回想がごっちゃになってしまうというか、彼女が「幽霊になってから」の時間の連続性が途切れてしまっていたのが返す返すも惜しい瑕瑾だった。もっとも、これだけカッチリ作られた芝居の中で、“魔除け”なのかな、と思えるほどのキズであるが。

 

岡目八目的な意見ではあるが、私に言わせれば、中盤での幽霊はいらないと思う。雛の登場は回想のみに限定し、あとは、彼女が“いる態”での周囲の芝居があればいい。その方が、主人公の精神の逸脱も、周囲の困惑もよりきわだつ。そして、最後、主人公の竜が過去を清算し、新しい人生へ踏み出していくところに初めて、「あの日の」姿で彼女が現れて欲しかったと思う。少なくとも、テーマはよりシャープに提示できたと思うのである。

 

主人公のクラスメートたち、店員のヨージ、新人バイトの愛梨、雛に助けられたかつての少年、そして雛の妹・光(芳賀優里亜演)に惚れている極端に口べたな酒屋、ABのうちAキャスだった(愛梨役の妃野由樹子はBキャスだったが、Aキャスに降板があったのでこっちにも出演)が、全員好演。主人の2度目の奥さん役の中崎美香、主人の友人役の阿部能丸はコメディリリーフだが、演出が上記のようにシリアスにかなり寄っていたので、ちょっと役が軽くなってしまっていたのが残念だった。もう少し活躍させても、よりシリアスな部分は際立つと思うのだが。

 

何にしても、予想していたよりずっと持ち重りのする、見応えある舞台だった。こういう作品にあたるから、舞台は中毒になるのである。

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