カラサワの演劇ブログ

演劇関係の雑記、観劇記録、制作日記、その他訃報等。観劇日記は基本辛口。これは自戒とするためでもあります。
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あぁルナティックシアター『地獄の楽園・ヘブンズドア』観劇。

 

シリーズも今回で8回目。すっかりこの劇団の看板となった作品だが、笑いのポテンシャルということに関してはこれまでで最高だったかもしれない。殊に橋沢座長と客演の葛西大介とのからみのシーンでは、かなり延々と続くやりとりの最初から最後まで、場内が爆笑の渦に包まれた。天然ボケを受ける人間に技術が必要だが、葛西という役者は核弾頭級の逸材だろう。他に、元AVの結城リナは達者だし、岡田竜児と菊田貴公のおなじみのからみも爆発力ある笑いが取れるようになってきたし、いろいろな要素で観客全員、これがルナ、という感じで大満足だったと思う。 

 

もともとルナの芝居は、ことにこの小劇場『楽園』で行う公演は、客席と役者の距離が近いこともあり、観客の反応がすぐに舞台上に反映される特色がある。その呼吸は凄いもので、うまく客のノリに役者がノッたときの一体感は、他の劇団ではちょっと味わえないポテンシャルの高まりを見せる。演劇におけるアドリブというものを人はよく台本にない自由な芝居をすることだと勘違いしているが、実はアドリブ芝居というのはこういう、客の反応をすくって舞台上の演技をどんどんエスカレートさせていくことが本義なのである。

 

よって全ての演出は“客のテンションを上げる”ことに費やされる。芝居部分ばかりでない。場内での飲食自由(飲み物を休息時間に販売までする)はもとより、今年はついに「上演中の写真撮影OK」まで打ち出した(さすがにフラッシュは禁止だが)。……いかになんでもやり過ぎだとは思うのだが、そこまでやって客を“巻き込む”努力は認めざるを得ないだろう。演劇を芸術と定義するところとは対極にある、“オマツリ”としての芝居なのである。

 

……ちなみに私がこの劇団から距離を置く要因になったのも、オマツリでなくきちんとした“演劇”をやりたい、と思ったことが端緒だった。とはいえ、離れてみて改めてわかったが、このイベント性と、観客重視の精神は、(程度の問題こそあれ)公演というものの原点である。自分の作品を人に「見せてやってる」という自己中心主義が蔓延している今の小劇団界に最も欠けている部分かもしれないと思う。ここから学んだものは(反面教師も含むけれどもww)大きいのである。 

 

……だが、さすがに8回目ともなると、ギャグの“入れ物”である、肝心の芝居部分が息切れがしてくる。去年の7回目までは、座長と看板役者の佐々木輝之が希代のホラー映画好きということもあって、笑いばかりでなくホラー部分の演出でも観ているこちらをドキリとさせる箇所がいくつかあったが、今年はあまりに笑いの部分がかっていたためか、そこが盛り上がらなかった。タイトル通り、舞台上のドアがバン、と突如開いて怪物が登場する、というショッカーシーンが何度もあるのだか、客の呼吸音に注意して観ていて、誰もそこで息をのまない(突然の驚愕によって横隔膜が収縮すると、それによって肺は膨らむため、必然的に人間は息を吸うことになる)。つまり驚かない。要するに、“見切られている”のである。ラストに唐突にSF的設定をおいて話のつじつまを合わせようとしているのも、陳腐でしかない。

 

客にウケる、笑いを取るというだけなら、コントでいい。現にルナの芝居をよく“長いコント”と評する言があって、ルナはそれを褒め言葉と取っているが、演劇におけるコメディとコントとの違いは何かというと、「何を上演の目的とするか」の差と言えるだろう。コントは“笑わせること”それ自体が目的、対して演劇は“笑わせることによってテーマを伝える”ことが目的なのである。テーマと言っても重いものである必要はなく、例えば“頑張る主人公”とか“恋人同士がうまくいく”のような軽いものでかまわないのだが、ルナほど笑いの方に比重がかかり、テーマ性を故意にないがしろにしている感がある劇団もちょっとない。そして、演劇としての要素がかっている公演の場合、そこがここの劇団においてはもっとも見劣りしてしまう。こういう劇団が、演劇それ自体をテーマにした『アストロ劇団』のような芝居を上演する、というのは、言葉は悪いがはっきり言えば“たちの悪い冗談”でしかない。 

 

あぁルナティックシアター、なんと設立から25年を閲している。客観的に見て、そのゆるぎない価値は、80年代の、お笑いと演劇の垣根が崩れた時代、古臭い新劇の(変な言い方だが事実なので仕方ない)くそ真面目さをナンセンスで笑い飛ばす反抗感覚が尊ばれた時代の息吹を今に伝える数少ない劇団だということにある。歯に衣着せずに言えばすでにルナの笑いはレトロの部類に入ってしまっているのだが、これほどその信念である“徹底して意味のない、バカな笑い”を保存、再現しているところもない(最近の劇団は、ナンセンス性とテーマ性をもっと器用に融合させている。……まあ、その器用さが無個性に通じている部分も多分にある)。いわゆるガラパゴス劇団としての価値がじわっと浸透してきている。 

 

願わくは懐かしのルナには、今後ともこの『ヘブンズドア』的な、オマツリ感覚満載の芝居を作り続けていってほしい。なまじ演劇らしい演劇に日和らずに。……一説によれば、現在東京中心に存在している小劇団の総数は3000を超えるという。その中で埋もれずに、古参としての価値を輝かせるには、その個性というか特色というかを、いかに際立たせるか、しかないのである。流行りの方式にスリよることではない。

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